本連載は、女性(妻)の働き方や生き方に合わせて、男性(夫)側の働き方や生き方を変えたという子育て家庭の話を紹介するものです。

前回ご紹介したのは、妻が小さな美容室のオーナー店長として働き、夫が兼業主夫として昼間は主夫業をこなし、夜間に卸売市場でアルバイトとして働いている吉田さん夫婦の話。今回はその続きとなります。
(※本連載に出てくる名前はすべて仮名です)

主夫が卸売市場の夜間アルバイトを始めた理由

結婚当時から「子どもが産まれたら夫が家庭に入る」という話をしていた吉田さん夫婦。夫のサトルさんはその言葉通り、子どもが産まれる少し前に正社員の職を辞し、主夫として暮らすようになりました。
しかし、正社員時代に購入した中古マンションのローンも残っていたサトルさんは、家計のために自分でもお金を稼ごうと考えていました。でも、なぜ卸売市場の夜間アルバイトだったのでしょうか?
「もともと考えていたのは、昼間の肉体労働系のアルバイトです。早上がりして保育園へ子どもを迎えに行き、土日は子どもと2人で過ごすというプランです。でも、時給が思ったより高くなかったり、『土日のどちらかは出てください』って条件があったりして、“これだ”と思える求人がなかったんです。そのときふと、夜の仕事はどうなんだろうって思いついて調べてみたら、卸売市場の夜間アルバイトが自分の生活スタイルの条件に合ってるんじゃないかって感じたんです」
その卸売市場の夜間アルバイトは、夜の23時に始まって朝の6時に終わるという契約でした。
「実は、もっとも懸念していたのは、子どもが保育園で熱を出したりしたら、誰が迎えに行くんだってことでした。もちろん昼間のアルバイトでも迎えに行くことはできると思いますけど、働きだしてすぐに『子どもが風邪で……』って何度も休んでいたら、どんな職場でも不満は出ますよね。そのあたりは、兼業主夫になるための情報収集をするなかでわかっていました。特に自分は男なので、世間の目は厳しいだろうなって。でも、夜間アルバイトなら昼間は家にいられますよね。しかもコンビニとかに多い21時スタートではなく、23時からというところもポイントです」
21時からだと妻の仕事の終わり時間を考えると空白時間ができてしまう。一方で、23時から始まるアルバイトなら、子どもを寝かしつけて、一息ついたところで妻・メグミさんが帰ってきます。もちろん保育園のない土日も面倒を見ることができます。さらに、時給についても想定の範囲内でした。
そういった諸々の条件を勘案した結果、これ以上ない好条件じゃないだろうか、とサトルさんは考えたのです。

兼業主夫に向けられる世間の目とは?

兼業主夫として夜間のアルバイトを始めるようになったサトルさん。先にあるように、働く時間や給料については満足がいっています。一方で、モヤモヤすることもあります。それは、周囲から向けられる“世間の目”についてです。
「よく、『昼間は何をしてんの?』って聞かれます。昼間は子どもの世話とか家のことをしているんですよ、って言うと、『え? めちゃめちゃいいじゃん。やりたいよ。替わってよ』なんて言われたりする。なんか、みんな俺がヒモみたいな扱い方をしてくるんです。たぶん理解できないんですよ。夫が昼間に掃除や洗濯、料理をすることについて。もちろん保育園は利用していますけど、保育園に預けていたって子育てでやることはいっぱいありますよね」
さらに、「君もね、もっと稼いで奥さんをラクさせてあげなきゃダメだよ」と、兼業主夫やアルバイトという立場を否定するようなことを言われたことも、一度や二度ではないと言います。
「お盆とかに職場で働いていると、『お盆に遊びに連れて行かないと、子どもはグレるよ?』なんて言われることもあります。うちは妻も仕事柄、基本的にお盆も働きます。だから、『お盆や正月といった値段が高くて、どこも人で溢れている時期を外して休日を楽しんでいます』と、そういうことを言っていたのですが、なかなか理解されませんでした」
実際には、サトルさんの中に理路整然とした「兼業主夫としてアルバイトしている理由」が用意されています。しかし、説明すればするほど批判されるような気がして、今では「そうですね」としか返さないそうです。
「父は働いて、母は家庭を守る、っていうのが幸せだと思いこんでいる人たちに、こっちの考えをぶつけても反発しか生まれない気がして……。それなら『そうですね』って返事をするしかないのかなって」

妊娠出産をきっかけに起こった「客層の変化」

一方、妻・メグミさんの復帰後の仕事についてはどうでしょうか。
「私が働くサロンは(自分も入れて)スタッフ3人の小さな美容室です。私が35歳くらいまでには店を持ちたいっていう話をしていたら、少し前に前のオーナーが私に経営権を譲ってくれたんです。それまでは1人のスタッフとして働いていました」
メグミさんは出産する3週間前までスタイリストとして鏡の前に立ち、出産後は2ヵ月で復帰しています。そうした妊娠・出産をきっかけにして変わったことがあるのだとか。
「実は、つわりがひどかったこともあって、妊娠中は受ける予約数を抑えたんです。そうしたらお客さんの数が減ってしまいました。もちろん妊娠やつわりという事情がわかってもらえそうなお客さんに対しては、きちんと説明していました。でも、やっぱり髪の毛って、『明日切りたい、今日切りたい』ということも多いですよね。それで一度別の美容師のところで切って、そこで気が合ったらお客さんはそっちに行っちゃうのは、ある意味仕方ないことだと思います」
メグミさんは、妊娠前の水準にまで戻すのに、1年ほどかかったそうです。一方で、そうしたお客さんの入れ替わりによって、別の変化も生まれました。客層の変化です。
「妊娠前は女性6割、男性4割でしたが、今はほぼ女性で、男性は1割程度です。というのも、ホームページに小さい子どもと猫と旦那がいることを載せているのですが、子どもがいる私だからこそ来てくれるお客さんというのがけっこういるんです。子どもの話ができるから来る、みたいな。もちろんヘアスタイルが好みだから来るというお客さんもいますけど、意外とそういう価値観の合う美容師を探している人は多いですね」
つまり、メグミさんは、妊娠出産をきっかけにして、自分と本当に価値観の合う固定客に入れ替わっていったのです。メグミさんは「私自身もそういう価値観の合うお客さんがほしいです」と言います。
また、休みは週2日取っています。定休日が火曜で、あとはスタッフの3人で曜日をずらして休んでいると言います。メグミさんは火曜と木曜に休みを取っているのだそうです。
「完全週休2日は美容室では珍しいと思います。休みもそうですけど、自分が妊娠出産の経験をしたからこそ、社会保険の大切さを感じたので、そのへんはしっかり整えました。小さな美容室だと雇用保険すら入っていないところもありますから」

土日に感じる周囲からのサポートのありがたさ

では、土日はどのように過ごしているのでしょうか。前述の通り、美容室で働くメグミさんは土日も仕事です。つまり、夫であるサトルさんが、1人で小さな子どもを見ながら家事もしているということでしょうか?
「保育園は土日が休みです。が、豆腐屋を営む実家の両親や近所に住む独身の兄がすごくよくしてくれています。働いてみてわかったことなんですが、卸売市場は、金曜の夜は仕事が忙しいんです。だから土曜の朝は体力的にギリギリの状態で帰宅します。で、妻も土曜は忙しいので、早々に出勤していきます。疲れているし、眠いしで、ちょっと厳しいところもあります。でも、そのうちに兄が家に来てくれて、子どもを遊びに連れて行ってくれるんです。日曜は日曜で、祖父母が面倒を見てくれることが多いですね。唯一の孫なので、愛情がものすごいです(笑)」
そうした日々の中、家族や親戚といったサポートしてくれる人たちの大切さを身にしみて感じているのだと、サトルさんとメグミさんは口を揃えて言います。

これからの生活、そして2人目について

最後に今後の生活について聞くと、サトルさんは、「今後の生活については、常々あたらしくて良いことがあれば改善していきたいですね。実は面接の段階で正社員はどうだ、と言われていますし、今でも正社員になろうと思えばなれる状態なんですけど、今まで話した通り、そこにメリットを感じていないので正社員になるという道はないですね。ただ、『いい歳して夜勤か』っていう気持ちも確かにあるので、子どもが大きくなってきたら昼間の仕事にシフトすることは大いにありえると思っています」と話します。
一方のメグミさんは2人目の可能性について、率直な意見を話してくれました。
「もう一人欲しいという気持ちは、正直あります。自分も3人きょうだいですので。でも、私の場合、本当につわりがひどかったので難しいと思っています。妊娠して5年が経ちますが、春になるとそれだけで未だにつわりを思い出して気持ち悪くなるくらいですから。お店を経営していけなくなっちゃいます。仕事は本当に楽しいですので、このまま続けていきたいです。まあ、もしいきなり妊娠10ヵ月だったら産むことも考えられるかもしれませんけど」

吉田さん夫婦のお話から感じられたこと

前回と今回で、見てきたのは妻が美容師として働き、夫が兼業主夫として育児や家事をこなしつつ、夜間に卸売市場でアルバイトをする夫婦の生活や働き方でした。従来見られたのは、「夫の仕事のために、妻が仕事(キャリア)を諦める」というパターンですが、今回はその正反対だと言えます。そう考えると、立場が逆になっただけで、社会的には根本的な解決になっていないという意見もあるかもしれません。
そうしたことも一理あるでしょうが、今回のケースで重要なのは、決して夫が仕事(キャリア)を諦めたわけではないということです。多くの男性にとって、「正社員であること」や「会社での出世」は人生の大きな要素でしょう。しかし、サトルさんにとっては重要ではありませんでした。家族がいかに幸せに暮らしていけるかということを第一優先に考え、その結果、兼業主夫というスタイルを選んだことに大きな意義があります。吉田さん夫婦のような家族の生き方を温かく包み込む社会になることは、働き方改革やダイバーシティの推進が進む中、必要なことだといえるのではないでしょうか。

次回は、研究者である妻の仕事が関西に移動したことをきっかけに、システムエンジニアである夫が東京の上場企業を退職し、関西のIT企業に転職した一家のケースをご紹介します。

遠藤由次郎
フリーのライター兼編集者
1985年静岡県生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経てフリーランスに。子ども2人の父親。自宅などで主に書籍の編集やライティングに携わりながら子育て中。研究者である妻の所属研究機関の変更を機に、2017年2月より拠点を東京から京都に変えている。