「サンタじゃないよ。シンタだよ」。子どもにそう言われた時に「?」と思った昨年11月。すでにその頃になると、夜明けも遅くなり朝の8時前後まで真っ暗。噂に聞いていたものの、寒さも暗さも、雨の多さも移住1年目の私たちにとっては「こんなに辛いの?」と衝撃を受けた冬の始まりでした。

しかし、真っ暗で寒くて、そして雨が降り続く冬のオランダでは、11月の後半には国を挙げて「シンタクラウス」なるものの話題で持ちきりになります。人々が熱狂している(ように見える)「シンタクラウス」とは一体何者なのか?まだ、移住後半年しか経っていない我々にとっては、謎すぎるオランダの慣習でした。親は「サンタが2回も来るなんて、聞いてなかったんですけど…」と思っていたら、子どもたちも「シンタからはプレゼントもらわなくていいや」とか言い出す始末。

そう、「シンタ」なる、私たちにとってまるで「サンタクロースの偽物」との出会いは、昨年の冬でした。

本当の「サンタクロース」は「シンタクラウス」?

さてさて、移住後2回目の冬を迎えた今年。昨年の経験から、多少なりともシンタクラウスを理解し始めた我々。子どもたちは、去年とはうって変わってすっかりシンタの大ファン。私たちも、オランダではクリスマス的なイベントは2回ある、そして11月後半からは街の雰囲気がどんどん変わっていく、という心構えが出来ていました。

ここで、シンタクラウスについてちょっとご説明しておきます。国民が、特に子どもたちが愛して止まない(ように見える)シンタクラウスは、歴史的伝説や民間伝承を元にした神話的な存在で、聖ニコラスという聖人です。オランダにはスペインから船に乗ってやって来ます。しかも、めでたくシンタが到着した暁には、毎年オランダの各街では市長などが参加する歓迎イベントが大々的に行われるのです。

シンタは「ピート」というお付きを従え、船に乗って大一団でやって来ます。その「ピート」は最近まで「ブラックピート」と呼ばれていて、「真黒な顔をした(実際には真っ黒に顔を塗る)お付きの人」。これは昨今の危うい世界情勢を背景に、当然人種問題に結びつき、オランダ各地でも抗議行動が大々的に行われるなど大論争を巻き起こしています。(ブラックピートいう呼称は公式に禁止になり、今では「ピート」に)そうした背景を踏まえてか、最近では色とりどりの顔色をしたピートが街中に溢れています。

シンタのお付きであるピートは、シンタクラウスがオランダに滞在中、街中に現れ、子どもたちにお菓子を配ってくれます。しかし、この色とりどりの顔色をしたピートにびっくりして、我が家の子どもたちは昨年、全く近寄れませんでした。

シンタクラウス歓迎の大イベント。運河はシンタクラウス一団で占拠されます。

シンタは大体11月中旬(歓迎イベントの関係上、年によって到着日が前後する)にオランダを訪れ、12月5日までの間、国中の子どもたちを見て周るのです。「アメリゴ」という名前の馬に乗って、夜中に屋根から屋根へと密かに子ども達の家を訪れたりもします。その「アメリゴ」に来てもらうために、子ども達は自分の靴の中にアメリゴの餌となる人参を入れて寝るのです。「アメリゴ」が来てくれた場合、翌朝人参はなくなり、代わりに靴の中にはお礼のお菓子が入っています。

さらにこの時期、子ども達に大人気の「シンタクラウスジャーナル」というテレビニュース番組では、「今日のシンタ」を特集したニュースを連日放送します。「スペインから向かう途中、時化にあったシンタがプレゼントを海に落としてしまった!」などのニュースが流れると、子どもたちはもう大変。心配で心配で夜も眠れなくなってしまうのです。

そして、シンタがスペインに帰る12月6日の前日は、子ども達が待ちに待ったプレゼントがもらえる日です。その日は、シンタが子どもたちの家を訪れ、ドアを「ドンドンドン!」と大きな音でノックします。。そして、子ども達が急いでドアを開けると、そこにはシンタが置いて行ったと思われる麻袋に入ったたくさんのプレゼントが置かれているのです。

この日が近づくと、街中のおもちゃ屋さんには、子どもたちにバレないように多くのパパママシンタが訪れます。いつもは買ったおもちゃを包装どころか、買い物袋にも入れてくれないおもちゃ屋さんが、この時期は包装無料の大サービスを行っています。シンタからのプレゼントが、おもちゃ屋の包装紙に包まれていたり、ましてやむき出しだと、子どもたちの夢が壊れてしまうからです。

夜のアムステルダムの様子 すっかりサンタモードというか、シンタモードのイルミネーション

このようにして、オランダでは文字通り街を挙げて、そして国を挙げてシンタを迎えるのです。この3週間に渡って行われるシンタクラウスイベントは、子どもたちの夢を壊さないように自治体や学校、街の大人たちが協力し合って乗り切るわけです。

この3週間、親は結構大忙しです。プレゼントの準備はもちろん、アメリゴの餌の人参を用意したり、夜中に起きてお菓子を置いたり。

次男の通う幼稚園(小学校に入る前の学校)でも、シンタクラウスからのプレゼントが届けられました。子どもがかぶっているのは「ピート」の帽子。街中に、この帽子をかぶったちびっこピートが現れます。

きわめつけは12月5日に行われる学校や、家族、親しい友人などを招いて行われるパーティーです。シンタクラウスのイベントでは、特に少し年齢が上がった子どもたちは学校でもプレゼント交換会が行われます。これは「シンタクラウスがプレゼントをくれる訳ではない」と悟った子どもたちや、家族や友達同士など大人たちが行うものです。
余談ですが、当然12月5日前後は、仕事をお休みするパパやママも多いです。

そして、このプレゼント交換会がなかなか大変です。たとえば長男の学校で行われたプレゼント交換会では、相手の好みを事前に聞いてプレゼントを用意します(5€程度のもの)。ただ、誰にプレゼントをするのかは内緒にしなければなりません。さらに、そのプレゼントの包装をむちゃくちゃ凝らなければなりません。これがなかなかレベルの高い工作で、もちろん各家庭の親の仕事です。さらにそこに相手のことをユーモアたっぷりに表現した「詩」をつけてプレゼントするのです。この詩は当然ですがオランダ語で作成し、「韻」を踏むのが好ましく、そして8行くらい、などなど結構な約束ごとがあるのです。

大人同士や家族だと、交換し合った詩の朗読などを行いながらパーティを楽しみます。
今では、こうしたプレゼントの包装制作を代行するサイト、ポエムを代行で作るサービスまであったりします。

当日は、小雨の降る中、街中に様々な工作(中にプレゼントが入っている)を自転車で運ぶパパやママが多くいて、とてもびっくりしました。

実は一説によると、このシンタクラウス、皆さんご存知のサンタクロースの元になっているとも言われています。赤の帽子や白いヒゲなどなど、サンタクロースのモチーフはシンタクラウスからだとか。

オランダでは、シンタクラウスがスペインに帰った日からすぐにクリスマスツリーが売り出されたり、イルミネーションが飾られたりします。ラジオやテレビから流れる曲もでもシンタクラウスの歌からサンタクロースやクリスマスの歌に変わり、12月5日を境にパタッとクリスマスモードに変わるのです。

サッカーとクルマが好きな長男が、プレゼント交換会でもらったプレゼントが入った手作りの箱 (中身は本人の希望でミニカー)

子どもが社会の真ん中にいる

さて、このシンタクラウスのイベント。大人も子どもも楽しむイベントですが、大人の張り切りかたも半端ではありません。そして、何と言っても“子どもフレンドリー“なイベントであることには間違いありません。

オランダが面白いのは、こうしたイベントを大人や家族も一緒に楽しむこと。昨年は、我々にとって完全に謎のシンタクラウスでしたが、今年になってようやく、シンタクラウスのイベントは、“子どもが社会の真ん中にいる”と実感できるイベントだなと感じたのです。

日本だと、最近すっかり定着したハロウィンは若者のイベント。最近はその傾向が薄れているのかもしれませんが、クリスマスは恋人のイベント、と言ったように、あんまり家族というか、社会全体が一体になって楽しむイベントが減っているように感じます。

しかし、オランダは子どもを中心に、家族や社会全体でこうしたイベントに取り組んでいます。テレビでは毎日シンタに関するテレビニュースが流れ、そして実際に街にはピートや馬のアメリゴに乗ったシンタがいて、お菓子を配ってくれるのです。このようなことを自分が子ども時代に体験していたら、本当に楽しいだろうなと感じています。

このように、オランダの冬はシンタクラウスからのサンタクロース、そしてバカンスへと流れていきます。考えてみれば、これらのイベントが全て子ども中心であり、家族単位で行われることが、面白いなあと感じています。
ちなみにクリスマスは、学校で保護者も参加する夜のディナーパーティーがあったり、保護者有志が学校で合唱をしたり、はたまた子どもが参加しての小さなコンサートなどがあったり、ろうそくでデコレーションを作ったりと、こちらも盛りだくさん。

このように、冬のこの時期は各イベントを通じて「子どもが社会の真ん中にいる」ということを強く実感する時期かもしれません。

寒くて、暗くて、そして雨が多くて厳しい冬ですが、案外子どもたちにとっては、いいシーズンなのかもしれません。だって、シンタクラウスからもサンタクロースからも、プレゼントがもらえるんですからね。

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吉田和充
ニューロマジック・アムステルダム /クリエイティブ・ディレクター・保育士
19年間大手広告代理店でクリエイティブ・ディレクターとして勤務したのち、
2016年、子どもの教育環境のためオランダへ移住。
400本以上の大手クライアントのキャンペーン/CM制作などのクリエイティブを担当
食品の地域ブランド開発、化粧品商品開発、結婚式場のブランディング、
田んぼでのお米作り、食品マルシェを核とした地域コミュニティ開発
飲食店や通販事業会社の海外進出プロモート、
皮革製品ブランドのブランディング、企業SNSアカウントの運用など担当。
書籍出版、ニュースサイトなどでの執筆記事、講演など多数。
現在は、オランダと日本の企業を相互につなぎながら、マーケティング、ブランディング
広報広告、インスタレーション制作、イベントなどクリエイティブにまつわる領域で活躍。

【書籍】
18時に帰る~「世界一子どもが幸せな国」オランダの家族から学ぶ幸せになる働き方~

オランダが約30年間かけて行ってきた「働き方改革」について、現地調査の結果をもとに1冊の本にまとめました!

「働き方を変えたい・変えなくてはいけない」と感じているすべての人・企業・自治体・行政機関へ送りたい、オランダが実施する「しなやかな働き方(=ソフトワーク)」とは?

世界一子どもが幸せな国、オランダ。しかし、約30年前までは日本と同じような課題を抱えていました。男性が働き、女性が家庭を守る。経済が低迷したことによって将来への不安が募り、出生率は1.46まで下がりました。

それが現在では、ライフステージに応じた働き方を選択できるようになり、女性や高齢者の就業率も飛躍的に向上しました。それに合わせてGDPも向上し、一人当たりの生産性は日本を逆転したのです。そして、出生率は1.7まで回復しています。

テレワークやワークシェアリング、同一労働同一条件、生産性重視の評価制度など、様々な取り組みによって制度と風土を変えていったのです。

本書では、働き方改革の実現に向けて政府や企業、そして国民ひとり一人が何を行い、そして意識改革を行ってきたのかをまとめています。

著者:秋山 開
単行本: 224ページ
出版社: プレジデント社
言語: 日本語
定価:1500円(税別)
発売日:2017年5月30日