「世界一子どもが幸せな国」として、注目を浴びることが多いオランダ。最近では「オランダの子育て環境は素晴らしい!」という言説を聞くことが多いのではないでしょうか? 筆者の元にも「オランダの理想的な子育て環境」を求めて、移住やお子さんの留学など、多くの問い合わせがあります。しかし、その実態はあまり知られていないかもしれません。

そこで今回は、オランダ人パートナーのステファンさんとの間に、現在7歳になる女の子を持つ日本人ママである齊藤洋子さんに、オランダでの子育てのリアルを、伺ってみました。洋子さんは在蘭歴15年で、お子さんを現地の公立小学校に通わせています。ご自身が生まれ育った日本の子育て事情を知り、かつオランダに住んで子育てをしている日々の経験から、興味深い事実が見えてきました。

集団か個人か、どちらにフォーカスが当たるか?

まず日本は「集団」にフォーカスが当たることが多いことに対して、オランダはあくまでも「個人」にフォーカスが当たること。もちろん、どちらにもメリットとデメリットがあるのかもしれませんが、洋子さんはこうしたところに日蘭の違いを感じると言います。

これは一体、どんなことを指しているのでしょうか? そこでさっそく、具体的な例を挙げてもらいました。

「以前、娘が週1回通う日本語補習校で、プリクラス(入学前準備クラス)の修了式がありました。その際、プリクラスの子どもたちが皆で校歌を歌ったのですが、日本人である私は、『あー、皆で練習して校歌を歌えるようになったんだなぁ』という思いで耳を傾けていました。その後、ステファンから『オランダには校歌ってないけど、どういう内容で、どういう目的で歌うの?』との質問を受けました。そこで思ったのですが、校歌は集団の一体感を築く役割もあるのではないかと。だから、逆にオランダには無いのかなと思いました。」

確かにオランダの学校には校歌がありません。一方で、日本では校歌はもちろん、社歌がある会社もありますよね。おそらく、そこにいるみんなが気持ちを一つにして、仲間としての意識を高め、気分を高揚させるために歌うのかな?と思いましたが、日本で育ってきた自分にとっても、校歌があるのが当たり前。それをみんなで歌って、仲間として、そして集団としての連携を高めるのが当たり前だと思っていたので、オランダのように校歌もなく、生徒みんながバラバラな感じは、少し違和感があります。

もちろん、校歌があれば集団がまとまるというわけではないですが、日本では少なくともこうしたところに「集団」をとても大切にしているということが感じられます。

良く言えば個性的、悪く言えばバラバラな感じなのがオランダの小学校でしょうか。

さらに洋子さんは続けます。

「一方で、娘の通うオランダの地元小学校では、年に1回、全校生徒向けに各クラスが出し物をします。ここでは小学校低学年という点を差し引いても、日本の同じ歳くらいの子の出し物と比べると、踊りも歌もバラバラな印象でした。きれいに揃えるよりも、舞台に立っている本人たちが歌なり、踊りなりを楽しんで行っていることの方が重視されていると感じました。」

これは、日本で言う学芸会のようなものを想像してもらえれば良いのですが、こうしたところからも「バラバラ」という印象を受けるようです。実際、筆者もこのような場面に何度も立ち会いましたが、毎回「まだ練習中なのかな?」と感じます。日本の小学生の出し物と比べると、かなりバラバラというか、個性重視というか…。はっきり言って、完成度は非常に低いと思います。。

しかし、オランダで重視されるのは、あくまでも「舞台に立っている本人たちが楽しんでいるか?」という点です。。日本だとつい完成度に目が向いて忘れがちになりますが、オランダではとにかくこの点が最重視されています。

子育てにおいて「集団」か「個人」か、そのどちらにフォーカスを当てるのかというのは、必ずしも対立することではないかも知れません。しかし、「子ども自身が楽しむ」ということは、非常に大切なことであると感じます。

もっとも日本で育った筆者にとっては、前述の通り、このオランダの学校のバラバラな感じは少し違和感を持つこともあります。まあ、こういうところが逆に日本人らしいのかも知れない、と自分でも思うのですが、つい「学校なんだから、もっとまとまろうよ」と思ってしまいます。

やっぱり「校歌」があったほうがいいのでは?とか、個性重視であまりにもバラバラすぎるのではないか、と。

欠点も多いオランダの教育

続いて、あえてオランダの教育、子育て環境であまり良くないと思われる点を洋子さんに聞いてみました。

「まず、宿題が全くないことです。オランダの小学校は、学期中も、長期休暇中も宿題が無いのが基本のようです。、しかし、中学校に進学すると毎日宿題が出るようになります。それまで自宅学習の習慣が無いので苦労するという話をよく耳にします。」

さらに「小学校で男性教員が少ないことも挙げられると思います。オランダの小学校は、女性の先生が圧倒的に多いという印象です。娘の学校だと、43人の先生のうち6人が男性ですが、男性教員のほとんどは小学校5~6年生の担当です。その為か絵や工作等に比べて、技術系が弱い感じがします。また、エネルギーが有り余っている子だと、男性教員の方が上手く付き合える場合も多いと聞いたことがあります。」と教えてくれました。

実は、この教員の男女のバランスについては、オランダの学校の先生はあまりやりがいが感じられないとの理由から人気のない職業であることと関係がある、と聞いたことがあります。実際、小学校の先生は給料が低いために特に男性からの人気が低く(今年度は、小学校の先生のストライキが何回かありました)、また昇進などの機会があまりないため、学校の先生になりたいという人は少ないそうです。

「子どもが世界一幸せな国」と言われていながら、その育ちを支える学校の先生という職種の人気がないというのは、大きな問題ではないかとも感じます。

また、欠点ではないかも知れませんが、日蘭の子どもたちの違いとしては、こんなことも教えてくれました。

「オランダの子どもたちは、特に自分の意見を述べるという点では大人と対等だと思っている感じがします。親の保護は目立たない形で行われ、自分はどうしたいか、どう思うかを常に聞かれる文化だからでしょうか。

また、オランダは、親の威厳という観念が希薄なので、娘(7歳)の友達からも、ファーストネームで『Yoko』と呼ばれることがあります。子どもでも、親をファーストネームで呼ぶ場合があります。」

こうした点は、一概に欠点とは言えないかもしれませんが、確かに日本との大きな違いだと感じます。

それでも総合的に考えると子育てのしやすさはオランダ?

ただし「子育てのしやすさ」という観点から見た場合は、洋子さんにとってはやはりオランダの方が良いということでした。特に、「働きながら子育てをする」、という視点で考えると顕著なようで、その原因は「子育て環境」そのものというより、「働き方」に起因するでのはないか?ということでした。

日本でも特にこの数年、働き方改革なるものが盛んにおこなわれていると思いますが、女性が働きながら子育てをするという観点で見ると、オランダにはヒントが多いような気がします。

それは子育てをしながら働いている当事者の女性だけではなく、会社や地域、社会などの周りのサポートシステムが手厚いこと、あるいは社会として、そのような女性を受け入れることが当たり前という認識があること、そして社会の構成員として、例え自分には子どもがいなくても誰しもが子育てに参加しているという意識を持っていることなども大きな要因ではないか、と感じます。

筆者の経験では、2014年に1年間の育休を取りましたが、自分の親世代の人たちだけでなく、意外にも仕事関係の自分の周りの女性からの反発や風当たりが非常に強かったのを思い出しました。

洋子さんは、お子さんに「自律した大人」になって欲しいと考えており、オランダでの子育てはそのような考え方にもマッチしているようです。

今回は、一概にオランダの子育てが良い、ということのご紹介ではなく、リアルなオランダの子育て事情を少しでも知っていただくために、あえてマイナスな面などもご紹介しました。

良いところ、学べるところはお互いに取り入れつつ、それぞれの国に適した子育て環境を作れるといいのではないかと思っています。

そのために、意外と簡単にできることは、もしかしたら私たち一人ひとりの子育てへの参加意識だったりするのかなと思ったりしています。

吉田和充
ニューロマジック・アムステルダム /クリエイティブ・ディレクター・保育士
19年間大手広告代理店でクリエイティブ・ディレクターとして勤務したのち、
2016年、子どもの教育環境のためオランダへ移住。
400本以上の大手クライアントのキャンペーン/CM制作などのクリエイティブを担当
食品の地域ブランド開発、化粧品商品開発、結婚式場のブランディング、
田んぼでのお米作り、食品マルシェを核とした地域コミュニティ開発
飲食店や通販事業会社の海外進出プロモート、
皮革製品ブランドのブランディング、企業SNSアカウントの運用など担当。
書籍出版、ニュースサイトなどでの執筆記事、講演など多数。
現在は、オランダと日本の企業を相互につなぎながら、マーケティング、ブランディング
広報広告、インスタレーション制作、イベントなどクリエイティブにまつわる領域で活躍。