すっかり日差しも夏のものになり、晴れた日の平日のカフェでは昼からワインを飲む人が溢れ、夜も10時くらいまで明るくなってきたオランダ。この短い夏を満喫しようと、運河のほとりでは多くの人が寝そべって日光浴を楽しんでいます。

運河の周りでの日光浴は、最高の幸せを感じる場面でもあります。というのも、筆者も丸2年オランダに住んでみて、ようやくこうした夏の日差しをありがたがる気持ちが分かるようになってきたからです。冬のオランダは寒く、雨が多くて暗い、というなかなか辛い環境にあります。その分、本当に陽の光が待ち遠しくなるのです。

全員泳げる?オランダ人

実際、街中にある運河や公園などでは日光浴を楽しむ人が多く、女性でも下着姿になって日光浴をしている人もいるほどです。そして暑くなると、公園の池にドボン!と飛び込む人や、ボートやカヌーを楽しむ人も多いのです。

運河にまつわるアクティビティは、夏だけではなく冬のアイススケートも大人気。最近は暖冬の影響からかその機会が減っているようですが、冬はなんと街中の運河が凍り、その上でアイススケートをすることがオランダ人の楽しみでもあります。冬季オリンピックではオランダがアイススケートの強豪国だったことを記憶している人も多いのではないでしょうか。

オランダに一度でも来たことがある人ならお分かりのように、街中に張り巡らされている運河には基本的に柵はありません。それゆえ、昔ながらの景観が保たれていて、アムステルダムはユネスコの世界遺産に選ばれています。しかし、たまに駐車操作を誤った車が運河に落ちたりすることもあるようですが…。

このようなオラン人の暮らしに密着している運河ですが、日本人としては子どもが落ちたりして危ないのではないかと常々思っており、どうして柵をしたり、「危ない!」とかサインを書かないのかと思っていました。ところがオランダでは、これに対してはもっと根本的な対策を施していました。

それは、子どもは「全員泳げるようにする」というものです。

子どもたちは、だいたい5歳くらいになると全員水泳教室に通い始めます。そこで習うのは、「溺れた時にどうするか?」ということ。日本のようにクロールや平泳ぎの手の動きや、足の動きを丁寧に教えてもらうことはありません。

どんな泳ぎ方でもいいのでとにかく溺れない、ということを習います。潜って障害物の間を通って来たり、プールに飛び込んだり。そして、少しずつ上達してくると、今度は着衣水泳を始めます。
オランダの水泳教室の目的は、25mをクロールで泳ぐことではなく、また50mを何秒以内に泳ぐことでもありません。ただ、「溺れないようにすること」、目的はこれだけです。なので、運河に落ちた時でも溺れないように、洋服を着たまま泳ぐ練習をするのです。上級になってくると、着込む洋服がTシャツからコートといった厚手のものになっていきます。泳ぎ方はお世辞にも綺麗だとは言い難いのですが、子どもたちはこのような練習を重ね、最終的には50mくらいは足をつかずに泳ぎ切れるようになります。しかも、途中で立ち泳ぎ的なことをしながら、止まったり、潜って障害物の間を泳いだりしながらです。もちろん、着衣水泳でも同じことをします。

このような水泳の試験にパスすることが、ほぼ全員の必須課題になっています。

実際、筆者も冬の薄い氷の上で遊ぶ子どもたちが、池に落ちた場面に遭遇したことがあります。池が凍るほどの寒さなので子どもたちはみんなコートを着込んでいましたが、池に落ちた3,4人の子どもたちの全員が溺れることもなく、岸からこちらが差し出す手に捕まって無事に陸にたどり着きました。

「運河に落ちないようにする」のではなく、「運河に落ちても大丈夫なようにする」というのがオランダ流でしょうか。いかに失敗をなくすのか?というところに注力するのではなく、失敗することを前提にその対応を工夫していく。こうした考え方が、オランダでの子育てが楽な理由の一つのような気もします。

世界一オープンな性教育

そして、こうした運河に対しての考え方と同じだなと感じているのが、実はオランダの性教育です。一言で言えば、「オープン」な性教育を小学校高学年から行います。いや、「オープンすぎる」性教育と言えるかもしれません。

なんせヨーロッパの他の国からも、「オランダはオープンすぎる」と言われるほどです。

実際にオランダの性教育を自分が受けたわけではありませんが、学校での授業の様子を見る限り、日本だと絶対ここまでは教えないだろうなあというところまで、つまり、ほぼ性にまつわる全てのことを包み隠さず、堂々と教えているように見えます。

また、子どもたちも活発に質問をするようです。

日本だと、未だに性教育をすること自体が否定されることもあるようですが、オランダでは小学校というかなり低い年齢から、男女の体の差、そこから生じる様々な生活習慣の違い、生殖器の機能や役割はもちろん、SEXやマスターベーション、避妊、コンドームの付け方などに関してかなり詳細に、そしてオープンに教えています。

また、テレビでゴールデンタイムに放映される子どもニュースなどでも、性に関するテーマを取り上げることがあります。そうしたタイミングに出くわすと、日本人家族としては気まずい雰囲気になることもあります。ニュースには、学校のクラスで男性器の模型にコンドームを被せる実習を行っている様子なども出ていました。

しかしオランダでは、性教育も無知による誤った行動などを防ぎ、時に犯罪防止にも繋がる大切な教育して積極的に取り組んでいます。

セックスをさせないようにするのではなく、正しいセックスの知識、またセックスがもたらす影響など事前にきちんと教えておくのです。

実際、こうした性教育を受けた日本人とオランダ人のハーフの小学生の男の子が、ママに向かって「僕はコンドームをつけないセックスはしないよ」と言ったらしく、それを聞いた日本人のママがびっくりして卒倒しそうになったという話を聞いたことがあります。

「失敗することが前提」の子育て環境

でも、こうしたことは良く考えて見ると、非常に合理的であり、結果的には子育てがしやすい環境を作っているのではないかと感じます。

仕事でも、子どもの発熱などで急に休む人がいる前提で、チーム全員が他のチームメンバーの仕事を把握するようにしておくなど、常に業務に保険をかけています。そう、今は世界中に広がっている「保険」の始まりは、貿易に使う貨物船を対象にしたものであったとか、船の乗組員に対する万が一の備えだったなど諸説あるようですが、いずれも海洋王国であったオランダから始まった、という説もあるようです。

「子どもは失敗するものである」「失敗を重ねて大人になっていく」という前提で、子育てをしている国がオランダです。だからこそ、オランダの子育て環境は、親にとって非常に楽なのではないか、そしてこのことが、子どもが世界一幸せな国と言われる秘密なのではないかと感じています。

着衣水泳やオープンな性教育を取り入れるというのは、日本の文化にはそぐわないかも知れません。しかし、「子どもは失敗する生き物である」という前提に立って物事を考えることはできるのではないでしょうか。

考えてみれば、大人の社会でも「失敗」にはあまり寛容でないのが日本の傾向だと思います。でも案外、「失敗」を受け入れる土壌を作ることだけで、子育てはもちろん、社会生活がぐっと楽になるかも知れません。

吉田和充
ニューロマジック・アムステルダム /クリエイティブ・ディレクター・保育士
19年間大手広告代理店でクリエイティブ・ディレクターとして勤務したのち、
2016年、子どもの教育環境のためオランダへ移住。
400本以上の大手クライアントのキャンペーン/CM制作などのクリエイティブを担当
食品の地域ブランド開発、化粧品商品開発、結婚式場のブランディング、
田んぼでのお米作り、食品マルシェを核とした地域コミュニティ開発
飲食店や通販事業会社の海外進出プロモート、
皮革製品ブランドのブランディング、企業SNSアカウントの運用など担当。
書籍出版、ニュースサイトなどでの執筆記事、講演など多数。
現在は、オランダと日本の企業を相互につなぎながら、マーケティング、ブランディング
広報広告、インスタレーション制作、イベントなどクリエイティブにまつわる領域で活躍。