「理想の人数だけ子どもを産み、育てられる社会」の実現に向けて活動する私たち1moreBaby応援団は、“2人目の壁”を乗り越えるヒントを探るためユニセフの調査によって「世界一子どもが幸せな国」とされたオランダで現地調査を行い、その結果を『18時に帰る』という1冊の本にまとめました。

オランダ社会の特徴をひと言で表現するならば、「しなやかに働き、しなやかに生きる」です。オランダで暮らす人々も、オランダにある企業も、さまざまな課題を柔軟な対応で乗り越えていたのです。

一方で、日本の厚生労働省は、「『働き方改革』の目指すもの」として、「働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会」の実現を掲げています。そのことを踏まえると、日本の企業や働く人々がオランダの社会に学ぶことは、たくさんあるといえそうです。

そこで本連載では、私たちが先に記したオランダ調査で訪問した企業のお話を、余すことなくご紹介していきたいと思います。

今回ご紹介するのは、オランダのフラッグキャリアであるKLM Royal Dutch Airlines。国際HR部門のディレクターを務めるErnie de Waalさんにお話をうかがいました。

社員が産休に入ったりパートタイム勤務を選んだときは、どうやって人員を埋め合わせる?

公益財団法人1moreBaby応援団専務理事・秋山開(以下、秋山)「本日はどうもお時間をいただきまして、ありがとうございます。早速ですがKLMの働き方についてうかがっていきたいと思います。オランダではパートタイムワーカーが活躍していると聞いていますが、KLMではいかがでしょうか?」

KLM Royal Dutch Airlines・国際HR部門ディレクター・Ernie de Waalさん(以下、ヴァールさん)「KLMのパートタイムワーカーは、3つのパターンがあります。フルタイムワーカーに対して仕事時間が40%の人、50%の人、そして50〜90%勤務の人です。そのうち最も多いのが50%の人です。

オランダでは、パートタイムで働きたい人がいれば、基本的に企業は合意しないといけません。もしパートタイム勤務が不可能ならば、会社側は『なぜ不可能であるのか』を説明する義務があります」

秋山「従業員の方がパートタイム勤務を希望する場合、自分で勤務時間を選べるということでしょうか? またフルタイム勤務とパートタイム勤務の違いはなんでしょうか?」

ヴァールさん「本社勤務の場合、フルタイム時間(100%)に対して90%、80%、60%、50%など個人で希望勤務時間を出すことができます。そして、フルタイムワーカーとパートタイムワーカーの違いは、基本的に給与のみです(給与以外の福利厚生等は同じ条件)。たとえば1日8時間×週5日の人と1日9時間×週4回の人を比べると、給与は10%しか変わらないということです。つまり4日勤務にして、週のうち1日は子どもの世話などのためにオフの日を設定すると、10%分給与が少ないことになります。本社勤務であれば、こうした働き方を選ぶことが可能です。しかし、パイロットや客室乗務員は当番制なので、勤務時間を自分で自由に決めることは難しく、決められたいくつかの当番がありそこから選ぶことになります。彼らの仕事時間は、平均するとだいたい43%です」

秋山「社員が産休や育休に入ったり、育児や介護などでパートタイム勤務を選ぶ人も多いと思うのですが、その場合の人員の埋め合わせはどのように行っているのでしょうか?」

ヴァールさん「これという方法は決まっていません。逆にいえば、『外部から雇う』『チーム全体で補い合う』『別の部署に人員を要請する』など、すべてのオプションが可能だということです。そのときの状況や環境によって最善策を探るとも言い換えられますが、大事にしているのは、『どうするのが一番良いのか』についてチーム内でよく話し合うということ。相談することなく上司が勝手に決める、ということはありません」

秋山「フルタイムワーカーの方が、産休や育休に入る人の代わりにもっと働くということもありえるのでしょうか?」

ヴァールさん「それはありません。フルタイムワーカーは、すでに勤務時間最大まで働いているので、それ以上働くことはないからです」

「いつでも自宅勤務ができる」という状況であることが大切

秋山「テレワークの導入実績についても教えてください」

ヴァールさん「KLMでは、自分のデスクを持たない“フレキシブル・ワークプレイス”の導入を行っています。これにより、部署によっては2010年ごろからフレキシブルに働くことができる環境が整い、本社勤務の人は常にオフィスにいる必要がなくなっています。たとえば、病気の子どもの世話などで昼12時に帰宅し、その後は自宅勤務を行うことも可能です。もちろんこれは男女を問いません。こうした働き方をする人は徐々に増えており、仕事とプライベートとのバランスをとることを可能にしています。会社側にもメリットがあり、会社以外の場所で働く人が増えることで、オフィススペースを節約することもできます。もちろんこうした働き方は、パイロットや客室乗務員には無理ですが……」

秋山「どのくらいの方がテレワークを利用していますか?」

ヴァールさん「客室乗務員やパイロットはテレワークができませんので、会社全体での割合は高くありません。部署にもよるのですが、たとえばIT部門では、毎日25%程度の社員が自宅勤務です。これは我々(HR)が思っていたよりも少ない数字です。自宅勤務を可能にすれば、もっとたくさんの人が自宅で勤務したがると思って、オフィススペースを小さくしたのですが、想定より利用者は少なく、オフィスがやや手狭になっています。ただ我々が重要だと考えているのは、制度や環境の面で、テレワークという選択が可能であるということです」

秋山「いずれにせよ、客室乗務員やパイロットなど職務上難しい場合を除けば、自らが望めばいつでもテレワークが可能であるということですね。それにもかかわらず、自宅勤務を選ぶ人は予想よりも少なかった。それはなぜでしょうか?」

ヴァールさん「これは個人的な見解ですが、同僚あるいは上司とのコミュニケーションを取りたいのではないでしょうか。一方で、人事部で話を聞く限り、集中力が必要な仕事をする際には自宅勤務を選ぶ人も少なくないようです。そのあたりは個人の考え方の違いで、自宅勤務だと子どもの世話など周囲が気になってしまい、集中して物事を考えられないので会社勤務を選ぶ人もいるし、逆に会社だと同僚などの妨げで集中して物事を考えられないので自宅勤務を好む人もいます。パートタイム勤務の話を同じですが、自分の都合に合わせて選べるということが重要なのだと思います」

「契約や働き方の違いで、評価に違いが生まれることはありません」

秋山「日本でもテレワークや正社員のパートタイム勤務の拡大がすすめられていますが、一方で働き方が多様になることで、評価制度が複雑化することへの不安の声もあがっています。KLMではどのように社員の評価を行っているのでしょうか?」

ヴァールさん「まず、大きなところでいうと、契約の違いや働き方の違いで、評価に違いが生まれることはありません。そのうえで、KLMでは“マネジメントターゲットシステム”を導入しています。簡単にいえば、いつどうやって仕事するかのプロセスは問わない、目標に達成すれば問題ないということです」

秋山「たとえば労働時間を測るために、コンピューターのログイン・ログアウトの記録を取るということも考えられますが、そういったシステムはありますか?」

ヴァールさん「そういったシステムはありません。基本的に会社の風土として、定時より早く出社して、そのぶん早く帰るといったことが普通に行われていますし、会社として勤務時間を管理することはありませんね。もちろん客室乗務員やパイロットは別の話ですが」

秋山「さきほど成果が大事だと仰っていましたが、成果が上がっていない社員に対しては、どのような対応を取っているのでしょうか?」

ヴァールさん「そのようなケースはあまりありませんが、もし目標が達成できなかった社員がいたら、達成できなかった理由について、上司と該当社員とでよく話し合います。『社員やその家族が病気だった』『目標が正しく設定されていなかった』『その社員にそもそも適正の仕事ではなかった』『スキル不足で研修が必要』といった具合に原因を探っていき、その後、行動プランを立て2年目の6ヶ月後にまた再評価を行います。ほとんどの場合はこれでうまく改善されます。それでも改善されない場合は、他の部署への異動や雇用契約の打ち切りを検討します。しかしこのようなケースは、現状ではほとんどKLMでは起こっていません」

秋山「つまり、仕事の結果が出ない社員がいる場合には、かなりプライベートのことまで話すケースもあるということですね。日本だとプライベートと仕事は別という考え方を持っている人も少なくありませんが」

ヴァールさん「会社と社員は、信頼に基づいて一緒に仕事の質を改善し、高めようとしています。ですから、もしプライベートのことが問題になっているのならば、それをきちんと一緒に乗り越える必要があります。当然、そのときにはプライベートのことを話さないといけません。会社側と社員側が一緒に問題解決をすることが大事なので、社員がプライベートを話さないということはまず起きません」

秋山「最後の質問です。さまざまな働き方が選択できるようになったことで、KLMではどのような変化が生まれているでしょうか?」

ヴァールさん「さまざまな意味で、KLMは古い会社なので、実は公表できるような具体的な数字はまだ取れていません。ただ、今回お話ししたような働き方にフレキシビリティがあることによって、社員一人ひとりが目標の達成に向けて、最も効率の良い働き方を選んでいると感じています。それはとても大事なことです。そして、社員はそのフレームワークの中で最善の結果を出すと感じています。」

秋山「貴重なお話をどうもありがとうございました!」

今回は、オランダのフラッグキャリアであるKLM Royal Dutch Airlinesで国際HR部門のディレクターを務めるErnie de Waalのお話を紹介しました。第2回は、オランダ・アムステルダムにある大手投資銀行ABN AMROのお話となります。

(※本稿に出てくる役職や制度などは、取材時当時のものです)