「理想の人数だけ子どもを産み、育てられる社会」の実現に向けて活動する私たち1moreBaby応援団は、“2人目の壁”を乗り越えるヒントを探るためユニセフの調査によって「世界一子どもが幸せな国」とされたオランダで現地調査を行い、その結果を『18時に帰る』という1冊の本にまとめました。

一般社団法人日本オフィス家具協会の第6回オフィス関連書籍審査において、優秀賞にも選出された『18時に帰る』ですが、実は紙面の都合上、紹介しきれなかったことも少なくありませんでした。

第1回である前回はオランダのフラッグキャリア・KLMのHRディレクターのお話を紹介しました。そして第2回となる今回は、オランダ最大の都市に本拠地をかまえる大手投資銀行のABN AMROでHRスペシャリストとして働くモニケさんとリディアさんのお話を余すことなく紹介していきたいと思います。

公益財団法人1moreBaby応援団専務理事・秋山開(以下、秋山)「本日はどうも貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございます。最初にお二人のお仕事について教えてください。HRのスペシャリストということですが、具体的にはどんなことをしていらっしゃるのでしょうか?」

ABN AMRO・HRモニケさん&リディアさん(以下、モニケ&リディアさん)「私たちが所属しているのはHRで、ご存じのように、基本的には社員の報酬と給付金、そして労働条件を決める部署となります。そのなかで私たちは、ABN AMROのVitality Policy、つまり社員が心身ともに健康的に働くための方針を決める部署にいます。具体的には、健康チェックやコーチングを行ったり、ジムやランニング、ワークショップなどのプログラムを企画・実施したりしています。もちろん年金や休暇といったことの方針を決めることもあります」

秋山「福利厚生の方針も含まれますか?」

モニケ&リディアさん「そうですね。福利厚生の内容としては、特別休暇、ボーナス、年金などです。たとえば休暇について、社員は1年に4週間の有給休暇がありますが、休暇をさらに買うこともできますし、逆に使い切らなければ給与として会社が支払うということもできます。そういったポリシーも決めています」

2011年ごろからフルタイム/パートタイムに関係なく「フレキシブルな働き方」ができように

秋山「ありがとうございます。今回、ここに来る前までに私たちはオランダの働き方について、いろいろと調べてきました。最大の特徴は、パートタイムワーカーの多さであると感じています。ABN AMROのパートタイム勤務について教えてください。割合としてはいかがでしょうか?」

モニケ&リディアさん「ABN AMROでは、75%がフルタイムワーカーで、残りがパートタイムワーカーとなります。パートタイムワーカーの内訳を見てみると、48%が週4日、44%が週3〜4日、残りの8%が週2〜3日です。銀行全体での勤続年数は平均で17年。管理職はフルタイムワーカーが95%を占めていますが、本来であればもっと多くのパートタイムワーカーが管理職につくべきだと思います」

秋山「なぜパートタイムワーカーの管理職が少ないのでしょうか?」

モニケ&リディアさん「仕事の質としてはパートタイムワーカーもフルタイムワーカーも大きな違いはありません。しかし、昇進という点に絞って見てみると、大きな開きがあります。パートタイムワーカーの昇進は少なく、したがって管理職が少ないのだと思います」

秋山「そもそもオランダがワークシェアリングを導入した理由は、どんなところにあると思いますか?」

モニケ&リディアさん「ワークシェアリングが導入されたのが随分前のことだから、きっかけについてはそこまで詳しくわかりません。かつて法律でワークシェアリングが整備され、それによって女性が労働市場に参加するようになっていったという経緯があります。私の母もそうしたパートタイムワーカーの一人でした。法律によって、どうしても受け入れられない理由がある以外は、会社側はパートタイム勤務への変更を断ることができません」

「詳しくは把握できていないのですが、1950年代、オランダの女性たちは結婚するまでフルタイムで働いていました。しかし、60〜70年代から、彼女たちは結婚した後も働き続けるようになっていきました。そのときにパートタイムという働き方が積極的に取り入れられていたのです」

秋山「では、パートタイムワーカーを選ぶのは、女性のほうが多いということでしょうか?」

モニケ&リディアさん「そうですね、女性のほうが多いです。理由としては、家族と仕事のバランスを取るためでしょう。もっといえば、子どものためということも多いと思います。一方で男性については、パートタイム勤務を選ぶ人もいますが、フルタイム勤務のまま、家族との時間のために在宅勤務を選ぶことができます。もちろん相手がいる仕事の場合には難しいこともありますが、本社でのバックオフィス的な仕事では可能です」

秋山「当然、パートタイム勤務でも在宅勤務をすることはできますよね?」

モニケ&リディアさん「はい。2011年ごろから働き方が大きく変わってきています。先ほども言ったように、フルタイムワーカーであろうと、パートタイムワーカーであろうと関係ない、フレキシブルな働き方ができようになってきているということです。全社員にパソコンが提供され、オフィス以外でも自宅やカフェなどの場所で働くことが可能となりました。場所だけではなく、時間も自由に選択することができます。こうしたフレキシブルな働き方を導入したことで、社員はより幸福を感じているようです。そして、こうした自由な空気、あるいは風土によって、社員それぞれのアウトプットも向上している点も見過ごせないことです。つまり、社員にとってだけでなく、会社にとっても良いことなのだということです。これは非常に大事なことです」

フレキシブルな働き方における良き成果は「上司と部下のコミュニケーション」から生まれる

秋山「今、アウトプットのお話がありました。日本でも同じようにテレワーク(在宅勤務)のようなフレキシブルな働き方を導入しようとする動きが活発なのですが、一方で成果をどう測るのか、アウトプットをどうマネジメントするのかさまざまな意見が飛び交っています。ABN AMROではそのあたりについて、いかがでしょうか?」

モニケ&リディアさん「もっとも大事なことは、結果を上司と部下できちんと約束したうえで、このフレキシブルな働き方を選択できるということ。つまりゴールを明確にして、責任をもってそれを達成することです。ある意味、上司と部下、会社と社員が一定の信頼関係を築くことが重要だと考えています。そこがきちんと担保されていれば、成果やアウトプットに対する心配はほとんどありません。ただ、人によっては自宅で仕事をし過ぎてしまう人もいます。むしろ私たちHRとしてはそのことのほうが心配です。休憩を取らなかったり、食事を抜いてしまったりといったことが起きやすいので、社員の健康状態が見えないところで損なわれてしまうのではないか、と懸念しています。だからこそ、HRとしては、最初に申し上げたVitality Policyを重視しているわけでもありますが……」

秋山「いろいろな要素が絡むので難しい話だと思いますが、2011年以降で生産性はあがっていますか?」

モニケ&リディアさん「あくまで私たちはHRなので専門的な数字まではわかりかねるのですが、一方で一年に一度行っている『仕事とプライペートについての満足度アンケート』で、会社に関する満足度を測るために、広範囲におよぶ質問をしているのですが、これによれば満足度は年々高まっています」

秋山「ある意味では、フレキシブルな働き方を積極的に導入しようと試みたのは、その満足度を上げるためであったのでしょうか?」

モニケ&リディアさん「もちろん目的の一つではありましたが、導入したきっかけはもっと別のところにありました。単純に、弊社のあるビジネスプロジェクトリーダーが、銀行内でどのように働くことが働きやすいのかを検討し、他の会社はどうしているのかと比較検証したのが始まりでした。その結果、『社員にとってもっと魅力のある労働条件を整える必要がある』という結論になったことが直接的なきっかけでした。これは新しい人が入社してくる際にも重要なことで、より優秀な人材を採用するためには、在宅勤務やパートタイム勤務などにおいて、社員が自ら選択できるというフレキシブルさを魅力として訴える必要があったともいえます」

秋山「では、パートタイム勤務とフルタイム勤務の評価制度の違いについてはいかがでしょうか? それぞれどのように評価していますか?」

モニケ&リディアさん「仕事の時間内で、どのような仕事(アウトプット)をしたのかを評価します。そこではパートタイムでもフルタイムでも違いはなく、いずれも公平に時給で計算します」

秋山「評価表のリストのようなものは、ないということでしょうか?」

モニケ&リディアさん「そうですね。重要なのは、年の始めに上司と社員とが労働契約条件、評価、目標についてよく話し合いをすることです」

秋山「なるほど、そこで部署ごと、個人ごとに、さまざまな取り決めをして、お互いが納得した形でその年の仕事を開始するということですね」

モニケ&リディアさん「また、残業はどう評価するのかというところも興味がおありかと思います。たとえば今週4時間残業したら、その次の週は4時間少なく働く。そういったことがかなり自由に行われています」

秋山「つまり、日本のように残業時間が月に数十時間におよぶというケースはあまりないということですね?」

モニケ&リディアさん「部署にもよりますが、基本的にはないですね。これは企業文化や部署の雰囲気にも少し左右されることかもしれませんが、たとえば私は週38時間勤務のフルタイムワーカーですが、週に40時間働いたからといって、2時間分の残業代を請求することはありません。もちろん残業代を請求する人がまったくいないわけではありませんが、私のような考えの人のほうが多いと思います。これは在宅勤務でも同じです」

最長で6カ月! 独自の休暇制度を設けている理由とは?

秋山「先ほど、パートタイムワーカーは女性が多く、その理由のひとつが子育てであるというようなお話がありました。子育てが終わって、パートタイム勤務からフルタイム勤務に戻るケースはあまりないのでしょうか?」

モニケ&リディアさん「今、手元にはっきりとした数字がないので具体的なことはわかりませんが、パートタイム勤務のままの人が多いと感じます」

秋山「では、出産・育児休暇についても教えてください。どのような制度がありますか?」

モニケ&リディアさん「まず出産休暇ですが、16週間取れます。これはオランダの法律で決められており、有給休暇扱いとなります。産前は4〜6週間の休暇が取れます。少なくとも出産前の4週間は取らないといけません。
一方で、オランダの法律で定められている育児休暇についてですが、子供1人あたり最長で26週間取れます。この育児休暇中は有給扱いにはなりません。出産休暇は母親だけですが、育児休暇は父親も同じ権利を持っています。養子の子どもの場合でもこの育児休暇は26週間取れることになっています。実は、養子の場合には有給休暇扱いになります。おそらく、難しい状態にある親と子どもの生活をサポートするという目的から、有給休暇扱いになっているのだと思います」

「介護休暇についてもご紹介すると、最長で年2週間の休暇を取ることができ、給与の85%が支払われます。これもオランダ法律で定められています。また、家族の中に重い病気の人がいる場合、最高で11週間、介護休暇を取ることが可能です。この場合は給与の50%が支払われます。ABN AMROでは、会社独自の休暇として、世代休暇(=generation holiday)というものを設けています。子どもがいる・いないに関係なく、すべての世代が休暇を取れるシステムで、6年に一度、最長で6カ月の休暇を取ることができます。最初の13週間は給与の40%が支払われますが、残りの13週間は支払われません。この休暇は社員に好評で、多くの人が取得しています」

秋山「話を戻してしまうのですが、先ほど採用のお話もありました。ABN AMROとしては、どういった人材を求めているのでしょうか?」

モニケ&リディアさん「優秀であること、チームワークを大事にすることは当然ですが、同じくらい大事なことは、環境・仕事・進化するテクニックの部分において、適応性があることです。いわば、自分を変えることに怖れを持たない人ということです。その意味では、我々HRなどが開くワークショップや、先ほど言及した最長で6カ月の休暇が取れる世代休暇などで、自ら積極的に自己啓発ができる人、学ぶ意欲がある人という言い方もできるでしょう」

秋山「適応性というテーマは、日本でも『人生100年時代』という言葉を政府が使ったり、社会人の学び直しに関する書籍もよく売れるなど、注目されています。激変する時代だからこそ、そういった変化を恐れてはいけないということですね。たいへん貴重なお話をどうもありがとうございました!」

今回は、オランダの大手投資銀行のひとつABN AMROのHRスペシャリストであるMonique BosbaanさんとLydia van Meeuwenさんのインタビューを紹介しました。第3回は、オランダのユトレヒトに本拠地を構えるオランダの国鉄的存在のProRailのお話を予定しております。

(※本稿に出てくる役職や制度などは、取材時当時のものです)