「子どもは2、3人いたら楽しそう。欲しいと思ったらすぐにできるだろうから、まだまだ先でいいや」・・・そう思っていませんか?
実は、現代は数10年前と比べて妊娠しにくい環境といえます。将来、自分たちが理想とする数の子どもを産み、育てられるように、最近の妊活事情を知っておきましょう。

本記事はNPO法人Fine〜現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会〜がお届けします。Fineは、不妊当事者のサポートをはじめ、不妊や不妊治療の啓発、治療環境の向上などを目指して、さまざまな活動に取り組んでいます。
今回は、Fineが実施したアンケートの結果などをもとに、日本の不妊治療の現状について紹介します。

3組に1組の夫婦が不妊に悩んでいる

子どもを望んでいるのに、なかなか授からない「不妊」。現在、日本で不妊に悩むカップルは、どれくらいいると思いますか?

国立社会保障・人口問題研究所の調査(*1)によると、不妊を心配したり悩んだことがあるカップルは35%。つまり、3組に1組の夫婦が「もしかして不妊かも?」と心配した経験があるのです。子どものいない夫婦の場合は、これが55.2%、半数以上にものぼります。
そして、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある、または現在受けている夫婦は、全体で18.2%、夫婦の約5.5組に1組となります。子どものいない夫婦での治療経験は、28.2%にものぼります。
また、子どもが1人いる夫婦の場合では、不妊の心配をしたことがある割合は45.4%、そして、検査や治療を受けたことがある割合は25.7%でした。

子どもがいても不妊の場合もある

子どもが1人でもいると、「妊娠できる=不妊ではない」と思うかもしれませんが、決してそうとはいえません。
前述の子どもが1人いる夫婦で不妊の心配をしたことがある人、治療経験がある人でも、それが1人目の子どもか2人目の子どもなのかは、わかりません。

1人目の子どもは自然に授かったけれど2人目がなかなかできない、不妊治療で1人目を授かって2人目も治療中、2人目を欲しいけれど妊活をしようかどうか思案中……さまざまなケースが予想されます。数字の背景は、いろいろなのです。

周りに不妊治療をしている人がいないと、なかなかイメージしにくいかもしれませんが、不妊治療はいまや身近なものです。
というのは、日本では体外受精・顕微授精などの高度生殖補助技術(ART)によって生まれた子どもは年々増えていて、2015年には51,001人を数えました。その年に日本で生まれた赤ちゃんの約19.7人に1人がARTによって誕生しているのです。(*2)

不妊治療は、高度な治療ばかりではありません。
妊娠しやすい排卵日を予測して性交渉を持つ「タイミング法」、男性の精液を病院で処理してから子宮に注入する「人工授精」などで妊娠するケースもあります。
なかには、「不妊の検査を受けている期間に妊娠した」「生理不順で治療薬を飲んでいたら妊娠した」という人もいます。

このような早期の検査・治療の段階で、子どもに恵まれる夫婦もたくさんいるのです。
タイミング法から高度な医療である体外受精までを含めると、現代の赤ちゃんがいかに不妊治療によって生まれているか、想像していただけることでしょう。

晩婚化で妊活スタートが遅くなる

現代日本で、妊娠がむずかしくなっている背景を考えてみましょう。

男女ともに平均初婚年齢が上昇して、晩婚化が進んでいます。
「人口動態統計」によると、2015年(平成27年)の平均初婚年齢は夫が31.1歳、妻が29.4歳です。30年前の1985年(昭和60年)は、夫が28.2歳、妻が25.5歳でした。この30年間で、夫は2.9歳、妻は3.9歳も年齢が上昇しています。(*3)
出生時の母親の平均年齢は、2015年は第1子が30.7歳、第2子が32.5歳でした。30年前の1985年の第1子出生時の平均年齢は26.7歳で、現在と4.0歳も違います。こちらも年々、年齢が上昇しています。

つまり、結婚する年齢が高くなり、子どもを産む時期が遅くなっているのです。
女性が妊娠できる力は20代をピークに徐々に落ちていき、35歳を過ぎるとそのスピードが速くなるといわれます。体外受精の年齢別の妊娠率に、それが現れています。
また、女性の卵子の数は生まれる前が最も多く、加齢とともに減少していきます。本人と同じように卵子も年をとっていくのです。いわゆる「卵子の老化」です。
そのため、加齢とともに徐々に妊娠しにくくなり、妊娠しても流産が増えてしまいます。
また、30代後半といえば、子宮筋腫などの疾患も増える年齢です。そうしたことが妊娠しにくい原因になることも考えられます。

昔の人は、第1子の出産が早く、30代のはじめには2〜3人産んでいたと考えられます。ところが晩婚化の現代は、結婚したら、すでに妊娠しにくくなる年齢や状況にさしかかっている、といえます。

女性の妊娠・出産に適した年齢はまた、仕事などでキャリアを積む時期と重なります。妊活で不妊治療を始めたものの「仕事との両立が難しい」という現状に悩む人も少なくありません。
一方、「仕事のキャリアを積んでから」と妊活を先延ばしにして、その結果、妊娠までに時間を要したり、残念ながら子どもが授からないケースもあるのです。

個人差はありますが、いずれにしても妊娠・出産には年齢的な限界があります。
結婚が遅くなるほど、妊娠・出産も遅くなり、また高年齢になるほど妊娠・出産の可能性が低くなるといえるでしょう。

当事者が感じる、さまざまな負担

身近になった不妊治療ですが、当事者は身体的・精神的・経済的・時間的など、さまざまな負担を抱えています。

身体的な負担の一つとして、治療で用いるさまざまな薬によって、副作用が起こることがあります。頭痛やめまい、卵巣が腫れて腹部が張るなど、人によって症状はさまざまです。また、注射の痛みや採卵の痛み、採卵時の麻酔の負担などもあります。
仕事や家事、通院が重なると体力的にもきつく、疲れがたまることも想像にかたくありません。
2人目を妊活中の人にとっては、育児をしながらの治療は身体的に負担が大きいのではないでしょうか。また、不妊治療のクリニックに子連れで行きにくく、預け先に悩んで通院を躊躇するケースも考えられます。

経済的な負担〜不妊治療は、いくらかかるの?

「不妊治療は高額」というイメージを持つ人は多いようですが、では実際に、どれくらいのお金がかかっているのでしょうか。

基本の検査やタイミング法などは保険適用ですが、より詳しい検査をする場合には、保険がきかず自費診療になる場合があります。
また、人工授精、体外受精、顕微授精は、保険適用外の治療です。

半数以上が100万円超える治療費

当事者が実際に支払った金額について、Fineが2012年から2013年にかけて実施した「不妊治療の経済的負担に関するアンケート Part2」の結果を紹介します。(*4)

通院開始からの治療費の総額は、半数以上が100万円を超えています。なかには、500万円以上かかった人もいます。

同じ調査で、人工授精1周期あたりの平均治療費を聞いた結果です。1万〜5万円が大多数でした。
1回あたりは、そう高くないと感じるかもしれませんが、初回で妊娠できるとは限りません。
そもそも人工授精の妊娠率は、体外受精ほど高くはないのです。

もしも妊娠しなければ、「では来月も・・・」と回を重ねることになるでしょう。たとえば、5回トライしたとすると、5万〜50万円という負担になるのです。

体外受精では1回の治療費が30万〜50万円

体外受精を受けた人と顕微授精を受けた人の1周期あたりの平均治療費を見てみましょう。
体外受精では、30万〜50万円が一番多く、50万〜80万円という人も少なくありません。それが顕微授精になると、50万〜80万円の割合が増えています。
体外受精は、女性の卵巣から取り出した卵子と男性の精子を同じ容器に入れて受精を待つ方法です。
顕微授精は、卵子の中に顕微鏡を使って1つの精子を直接注入する方法です。体外受精よりも高度な作業が必要なため、治療費は高くなります。
体外受精・顕微授精では、採卵に向けて排卵誘発剤の注射を打つことが多く、その量や回数、通院回数などは、人によって、また治療内容によって異なります。受精卵(胚)の培養や凍結、それを子宮に戻す胚移植にも、もちろん費用がかかります。すべて保険がきかないため、高額になるのです。

また、1回のトライで妊娠する確率は年齢にもよりますが、必ずしも高い数字とはいえず、何度も治療を繰り返す人は少なくありません。

国による「不妊に悩む方への特定治療支援事業」の助成金もありますが、それだけで治療費を賄えるとはいいがたい状況です。
Fineでも、不妊治療患者の経済的負担の軽減等を目指して、2007年から署名活動に取り組んでいます。

また、同アンケートでは、治療のほかに漢方薬や鍼灸、整体、サプリメントといった、体づくりにお金をかけるケースも多くみられました。

治療を続ける? あきらめる? お金との関係

多方面にわたる心の負担

不妊や不妊治療は、精神的な負担も多いものです。しかもその内容は、職場、自分自身、周り、夫婦間など、多方面に及びます。

たとえば、なかなか妊娠しない不安、治療をしてもいつ妊娠するのか先が見えない不安、もしかして妊娠しないかも・・・という不安、努力してもそれが報われないつらさや悲しみ。
そして、友人・知人の妊娠や出産を素直に喜ぶことができない・・・。そう感じてしまう自分は心の狭い人間になってしまったのか・・・。これは、本当によく聞く話です。

また、パートナーとは、「妻は治療を進めたいが夫は自然に任せたい」「妻は治療をやめたいが夫は続けて欲しい」というような、治療に関する意見の食い違いや気持ちのすれ違い、また金銭的な負担をどうするかなど、不妊でなければ起こらなかった問題に直面します。
1人子どもがいる場合は、2人目の妊活をどうするのか、その思いも夫婦で違うかもしれません。

また、周囲から「お子さんは?」「そろそろ子どもをつくったら」と言われたり、子どもが1人いれば、「2人目は?」「一人っ子じゃかわいそう」などの言葉に胸を痛めることもあるのです。

9割以上が「仕事と治療の両立は困難」

仕事をしている人であれば、職場では「治療をしていると言いづらい。休みをとりたいが言いにくい」「治療で突然休んで周りに迷惑をかけて申しわけない」といった思いを抱くこともあります。

Fineが2017年3月から8月にかけて実施した「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part2」の結果を紹介します。回答者は、5,526人にも及びました。(*5)

仕事をしながら不妊治療を経験したことのある人のうち、 95.6%が「両立は困難」と回答しています。
Fineでは、2015年にも同様の調査(*6)を行なっており、前回(91.9%)と比べて困難を感じている人の割合が増加しており、状況が改善していない実態が明らかになりました。

仕事と治療の両立〜職場での心の負担

「職場で不妊治療をしていることを話しづらいか」との問いには、4,450人(81.3%)が「はい」と答え、8割以上が話しにくさを感じているという結果でした。

その理由は、「不妊であることを伝えたくなかった」「不妊治療に対する理解がなく、話してもわかってもらえなさそう」「周囲に心配や迷惑をかけたくなかった」「妊娠しなかったとき、職場にいづらくなりそうと思った」「仕事が減らされたり、期待されなくなったりするのではないかと思った」などでした。

2人目の妊活となると、育児をしながら仕事と治療の両立が必要となります。その状況を考えて、2人目の妊活を躊躇したり、妊活開始の時期に悩んでいるカップルもいることが予想されます。

理想の数だけ子どもを産み、育てるために

将来、理想とする数の子どもを産んで、育てるために、こうした現代の妊娠・出産に関する情報をぜひ、知っておいてほしいと思います。

また、「結婚や出産は、まだまだ先のこと。今はあまりイメージがない」という若い世代も、情報を得ることが大事だと考えます。
結婚や妊娠・出産は気になっていたものの、「きっとまだまだ大丈夫」と先送りにして、たとえば、40代になって「さあ、そろそろ子どもを」と考えたとして、「今から2〜3人の子どもを持つのはむずかしいの? それどころが1人目もたいへんなの?! そんなこと知らなかった!」となるのは残念なことです。あらかじめ情報を得ていれば、その上でキャリアプランを考えたり、さまざまな選択もできるのです。
そのためにも、妊娠や出産、不妊の現状、また自分の体のことについて、正しい情報を得ておくことが大事です。

次回は、仕事と不妊治療の両立について、さらに考えていきます。

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〔参考情報〕

●仕事と不妊治療の両立へ、国が制度創設へ動き出す
NPO法人Fineでは、2016年2月に塩崎恭久厚生労働大臣、3月に加藤勝信一億総活躍担当大臣を訪ねて、「不妊治療と仕事の両立に関する要望書」を直接、手渡ししました。
そして、その後、国による仕事と不妊治療の両立への制度創設の方針が決定しました。

本年度より始まった厚生労働省主催の「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究会」に、NPO法人Fine理事長・松本が委員として参加することとなり、8月開催の研究会にて今回のアンケートで集まった「当事者の生の声」を発表しました。
同研究会では、企業にも調査を実施し、どのような制度が望ましいのか、話し合われていくようです。

●Fineの取り組み「妊活プロジェクト〜みらいAction〜」
仕事と不妊治療の両立を進めるためには、まず不妊や不妊治療の現状について、理解を深めることが大事です。
その一つとして、NPO法人Fineでは、「妊活プロジェクト〜みらいAction〜」を設け、不妊や不妊治療の啓発や環境向上のために、企業等に向けた啓発活動のプログラムを提供しています。
同プロジェクトは、Fine設立以来13年におよぶ蓄積を生かし、妊娠・不妊に関する知識普及やキャリアプランニングサポートを目的に、幅広い世代へのコンテンツを提供するもの。企業や自治体等とのコラボレーションにも積極的に取り組み、仕事と治療の両立支援の一助になるような活動を目指しています。

●不妊体験後の妊娠や子育ての悩みに寄り添う
また、Fineでは、不妊当事者の心のサポートに力を入れています。
不妊体験者によるカウンセリングを目的に、独自の「不妊ピア・カウンセラー」の育成に取り組んでいます。
「ピア」とは「仲間」の意味で、Fine公認ピア・カウンセラーは全員が不妊体験者です。資格取得者は現在100名。電話相談や面接カウンセリング、グループカウンセリングなど、各地で実施しています。
当事者のサポートは、現在妊活中の人、治療のステップアップややめどきに悩む人はもちろんのこと、不妊を体験した後の妊娠・出産、育児中の人も対象です。
グループカウンセリング「Fineマナティー・クラブ」は、Fine公認ピア・カウンセラーに加え、生殖心理カウンセラーが同席し、不妊体験後の育児の相談にも対応しています。現在、東京、山形、金沢、埼玉県越谷市で実施しています。
活動について詳しくは、NPO法人Fineのウェブサイトをご参照ください。

■NPO法人Fine〜現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会〜
不妊当事者による不妊当事者のための自助団体(セルフ・サポートグループ)。2004年設立、2005年にNPO法人格を取得。不妊治療患者の支援、不妊(治療)の啓発活動、患者と医療機関や公的機関の橋渡し、患者の意識と知識向上、治療環境の向上などを果たすため、さまざまな活動を行なう。平成28年度東京都女性活躍推進大賞・優秀賞受賞。
http://j-fine.jp
平成28年度東京都女性活躍推進大賞・優秀賞受賞
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2016/12/16/10_01.html

〔資料〕
*1: 国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」。
*2:『日産婦誌』69巻9号、日本産科婦人科学会「ARTデータ」、厚生労働省「人口動態統計」をもとに計算。
*3:厚生労働省「人口動態統計」。
*4:NPO法人Fine「不妊治療の経済的負担に関するアンケート Part2」(調査期間:2012年12月28日~2013年3月10日)。
*5:NPO法人Fine「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part2」(調査期間:2017年3月30日〜8月31日)。
*6:NPO法人Fine「仕事と治療の両立についてのアンケート」(調査期間:2014年5月15日〜2015年1月5日)。

高井紀子
NPO法人Fineスタッフ
北海道生まれ。自身の不妊体験から、「Fine」に立ち上げより参加。東京・渋谷のコミュニティFM「渋谷のラジオ」に毎月出演中。編集者・ライターとして、不妊や妊活に関する雑誌・書籍・ウェブサイト等を多数手がける。