私たち公益財団法人1moreBaby応援団は、「日本をもっともっと子育てしやすい社会に変えていく」ことを目的とした助成事業を行っています。船出の年となった2018年度の本事業は、とても光栄なことに、たくさんの団体の皆さんにご応募していただきました。そして、厳正なる第一次審査、第二次審査を経て、私たちは5つの団体に対する助成を決めました。

今回ご紹介するのは、5人の主夫によって2014年に結成された「秘密結社主夫の友」です。インタビューに応じていただいたのは、総務を担当する佐久間修一さんと広報を担当している杉山錠士さんのお2人です。団体設立の経緯や活動内容について、詳しくお聞きしました。

「秘密結社主夫の友」は主体的に家事や育児を行う夫の集まり

──お忙しい中、本日はどうもありがとうございます。最初に「秘密結社主夫の友」という団体について教えてください。

「わかりやすくいうと、主夫の認知拡大と、男性の家事育児への参画を促進するという目的があります。政府は女性の管理職を2020年までに3割にするという目標を掲げていますが、それに対して我々は男性の3割を主夫にしたいという目標を立てています」(杉山さん)

──そもそも主夫の解釈や定義というのはいろいろあると思うのですが、みなさんは、「主夫」をどのようなものだと考えているのでしょうか?

「近年、イクメンという言葉がよく使われるようになりました。ですので、主夫と聞くと、イクメンを思い浮かべる人もいるかもしれませんが、我々はイクメンと主夫は違うと考えています。イクメンはどちらかというと、妻のお手伝いに近い。一方で主夫というのは、主体的に家事や育児をする夫のことを指します。専業か兼業か、つまり働いているかどうかは問いません。どんな働き方であろうと、また、収入の多い・少ないも関係ありません」

──よくわかりました。秘密結社の社員の数はどのくらいいるのですか?

「専業と兼業と合わせて、現在*は約70人の主夫が入っています。なお公式フェイスブックの『いいね!』の数は1672です」

*2019年4月のインタビュー時点

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ファザーリング・ジャパンがきっかけで生まれた

──具体的な活動内容についても教えてください。

「コアな活動は、情報発信です。フェイスブックはもちろん、メンバーがそれぞれ取材を受けたり、記事を書いたり、講演活動をしたりといったことを不定期で行っています。そのほか、頻繁ではありませんが、イベントを開催することもあります」

「団体としての活動もありますが、メンバーが個性豊かなので、個別に行う活動のほうが比重は大きいと思います。たとえば先日は、記者さんからインタビューを受けた僕の記事が新聞に載りました。数日前は、広島に住むメンバーの一人が、NHKの『あさイチ!』という番組に出ました。ホームページやフェイスブックにメディアから問い合わせをもらうこともあり、そういったときには内容に相応しいメンバーを紹介し、随時対応しています」(佐久間さん)

──ありがとうございます。それから、どういった経緯で団体が設立されたのかについても教えてください。

「実は、ファザーリング・ジャパンから派生した団体なんです。ファザーリング・ジャパンに所属し、それぞれが“主夫”という名前を使って活動していた5人が集結して、秘密結社主夫の友を作ったんです」(杉山さん)

──ファザーリング・ジャパンさんは、メンバーそれぞれの得意分野や個性を活かすのがお上手ですよね。

「主夫」を謳うことで起きたこととは?

「主夫」を謳うことで起きたこととは?

──実際に、「主夫」という名前がつく団体を設立し、活動をしていく中で、何かまわりの反応はありましたか?

「僕の本業は放送作家。このメディア業界というのは、朝まで仕事をする人がたくさんいるようなところですが、子どもがいて、妻がフルタイムで働いている僕は、そういう仕事の仕方はできなくなった。だから、仕事一辺倒の生活から家庭の時間をきちんと確保するスタイルに変えました。そうしたら、当時一緒に仕事をさせてもらっていた人に『お前は仕事と家庭のどちらが大事なのか』と言われたんです」

──なるほど。

「仕事も家庭も、両方大事なんだけどなと思いつつも、そういうことを言う人とはそもそもの価値観が違うから、何かを言っても仕方ないかなと、その仕事から手を引くことを選びました。それで肩書を変えたんです。名刺にも、メールの署名にも、“兼業主夫放送作家”というふうに入れるようにしました」

──肩書を変えたら、どうなりましたか?

「お前は放送作家として食えなかったら、そういうことにしたんだろうって言う人もいますけども、一方では、子育て関係の仕事がきたり、子どものいるディレクターさんとかから面白がってもらえたりすることもあります」

──杉山さんだからこそお願いしたいという仕事が増えたといえるのかもしれませんね。

「この業界でガツガツやるという意味では、出世を諦めたともいえるかもしれません。ただ、家事や子育てをやってみたら、思いのほか自分に合っていました。一方で、アパレル企業のデザイナーをしている妻は、仕事をメインにやるほうが性に合っているみたいです。夫婦が、お互いで得意なことをしているということなのだと思います」

──ありがとうございます。団体の設立の経緯からは少しずれてしまいましたが、とても興味深いお話で、ずっと聞いていたいくらいですが……。ちなみに、佐久間さんはいかがでしょうか? どういった経緯で、「主夫の友」の起ち上げメンバーになったのですか?

「僕は、ほかのメンバーたちが兼業である一方で、専業主夫なんです。それも22年目になります。30歳で結婚し、半年で病気になって、夫婦で相談した結果、妻が働き、僕が家庭のことをするという役割分担になりました」(佐久間さん)

──その後、しばらくしてファザーリング・ジャパンに入ったと。

「はい。うちは子どもができるまで時間がかかったので、妊活をいろいろしました。その中で、ファザーリング・ジャパンの存在を知っていて、父親になったら入ろうと考えていました。それで、子どもが8ヶ月になったときに入ったんです。ちなみにうちも妻はフルタイムでバリバリと働いているタイプです。だから、僕は病気の状態が落ち着いてからも、彼女のバックアップに徹しようと、専業主夫を続けています」

「夫婦が話し合い、それぞれでオリジナルのやり方を見つたらいい」

──家事も育児も、夫婦の中で得意なほうが担えばいいというスタンスなのだと思います。一方で、いま世の中は、共働きだったら「ワンオペはなくしていきましょう」で、専業主婦(主夫)だったら「パートナーもサポートしましょう」ということが言われています。そのあたりについて、どうお考えでしょうか?

「基本的には、家庭ごとの自由なのだと思います。家のルールで、ご夫婦できちんとお話をして決めていけばいい。たとえば男性が、『この時期はしっかりと仕事をしたいから、家事も育児もお願いしたい』とパートナーである奥さんに伝えてお願いをする。それを奥さんが納得できていればいいのだと思います。そういうことを〝なあなあ〟にしている状態がもっともよくない。うちの場合は家事の8割が僕、残りの2割を妻が負担しています。それでお互いが感謝しあっている。お互いで感謝の気持ちを伝えるようにしている。だからうまくいっています」

「うちは共働きですが、家事の考え方としては、ストレス量で分担するようにしているんです。お互いのストレスを最大で100としたときに、どの作業がどれだけ負担に感じるかということを考え、ストレスに感じないほうがその作業をするようにしています。だから単純な作業量は重要ではないと考えています。結局、そういうルールは、夫婦ごとに変わってくるものなので、それぞれでオリジナルのやり方を考えていくのがいいと思います」(杉山さん)

主夫の数を増やしたい最大の理由は「(主夫を)社会から認められた存在にするため」

──では、最後の質問にもなりますが、その中でなぜ〝主夫〟を増やそうという活動をしているのでしょうか?

「結局、僕たちがやろうとしていることは、選択肢を増やそうということなんです。今、社会の中には男の家事・育児の参画は少ない。だけれど、それをやってもいいじゃんっていうこと。認めてよってこと。そういう選べる環境をつくることが大事だと思っています。だから、必ずしも男性が家事・育児をしないといけないとは我々は誰も思っていません。いろんな生き方があるということをみなさんにわかっていただきたいということです」

「僕ら男性は、家事・育児をしようとしたときに、社会から冷たい目を浴びることもあります。それは22年間、専業主夫をしてきた僕が確信して言えること。もちろん近年は、そういう流れが変わってきていることも確かですが。その中で、先ほど主夫の数を3割にしたいと言いました。それというのは、3割くらいの人数の大きさがあれば、社会的に認知されやすい、認められやすいだろうってことなんです。もっと広くいえば、いろんな生き方に対して、寛容な社会にしましょうということ。僕らが目指しているのは、そういうことなんです」(佐久間さん)

──貴重なお話を本日はどうもありがとうございました!