以前に、現在の食生活や生活様式だと必要とする量が足りないビタミンとしてビタミンⅮについてお話しました。
同様に、もう一つ現在の食生活では、体の機能を維持するのにぎりぎりか、または妊娠を考えると足りないビタミンである葉酸についてお話をしましょう。

葉酸は胎児の正常な発育にも、とても大切!

葉酸はビタミンの一つで、体の機能を維持するためには、とても大切なビタミンの一つです。
名前の通り、ほうれん草、ブロッコリー、モロヘイヤなどの野菜やレバーなどに多く含まれています。葉酸は、細胞が分裂し増殖するときに必要なDNAなどの核酸を合成するために重要なホルモンとして働きます。

この作用から、細胞分裂が活発である胎児が正常に発育するためにはとても重要な働きをしています。
さらにこの働きから、葉酸が不足すると、胎児に神経管閉鎖障害がおこり、二分脊椎などの先天異常が起こる可能性が高まります。また、成人においても、脳卒中や心筋梗塞などの循環器疾患を防ぐ効果も報告されており、人のあらゆるステージにおいて、健康を維持するために重要な働きをしています。

ちょっと難しい話ですが、動脈硬化を引き起こす危険因子であるホモシステインをメチオニンという無害な物質に変換する反応において、葉酸はビタミンB12と共同で無害化を助けており、この作用により動脈硬化を予防しています。さらに最近では、不妊症との関連について、いくつかの報告がなされています。

葉酸の必要とされる摂取量は?

20代から40代の食事摂取基準葉酸の一日の摂取の推奨量は240㎍とされています。また、妊娠中の女性は、480㎍の摂取が推奨されています。また米国では600μgともっと高い推奨量です。しかし、日本における現在の食生活の変化から、どの年齢でも摂取量が減ってきているのですが、特に若い方では、一日の摂取の推奨量の240㎍にも満たない方がかなり多くなっています。図1を見てください。これは国民健康・栄養調査報告書に掲載されている数値を年齢別年次別にグラフ化したものですが、多くの方が妊娠出産する20歳~39歳の女性においては、近年一日平均の摂取量が基準値を下回っています。また厚生労働省は、妊娠している方は倍の480μgを摂取ることを推奨しているので、かなり深刻な状態です。

さらに厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2015 年版)概要には、「妊娠を計画している女性、または、妊娠の可能性がある女性は、神経管閉鎖障害のリスクの低減のために、付加的に 400µg/日のプテロイルモノグルタミン酸(加工食品などに添加されている葉酸は「モノグルタミン酸型」《グルタミン酸が一つ結合した形、プテロイルモノグルタミン酸》となっている。)の摂取が望まれる。」とされています。

海外では進んでいる葉酸摂取への対応

海外では、日常に食べる食品に葉酸を添加して摂取量の増加を図っている国もあります。たとえば米国では、1998年以降米国食品医薬品局は食品会社に毎日食べている、パン、シリアル、小麦粉、パスタなどの穀物食品に葉酸を添加する通達を出しています。しかし、日本ではそのような取り組みが行われていないまま、現在に至っています。

このため図2に示すように、1974-1976年においては日本は米国やカナダに比較して、出生児の二分脊椎症の発生頻度が低い国でしたが、食生活の変化から年々発生頻度が上昇し、2007-2011年には米国・カナダに比較して発生頻度が高い国になっています。

葉酸不足がもたらす多くの影響は?

このように、日本では一日の葉酸摂取が減少し、二分脊椎症などの神経管閉鎖障害発生頻度が増えてきているのですが、最近、葉酸摂取の低下が不妊の原因となる可能性を示唆する報告もでています。

葉酸不足になると月経不順、排卵障害、黄体ホルモン分泌不全などが起こりやすく、不妊の原因となります( GaskinsAJ et al. PLoS One. 2012;7(9):e46276. Epub 2012 Sep 26)。
逆に、葉酸を服用すると排卵障害が起こりにくくなるという報告もあります( Chavarrro JE, et al. Fertil Steril. 2008; 89:668-76.)。
また、デンマークで大規模な調査がありました( Cueto HT, et al. Eur J Clin Nutr. 2016J;70:66-71)。
その研究では、葉酸とマルチビタミンを服用した方と、服用していない方のある一定期間における妊娠率を比較した研究です。この研究結果では服用しない人に比較し、服用した人の方が高い妊娠率を示しました。

別の研究では( Boxmeer JC et al. Fertil Steril. 2008;89:1766-70)体外受精の際に、吸引された卵胞液中のホモシステイン濃度を測定すると、葉酸を服用した方では、血中、卵胞液中葉酸濃度が高くなるばかりでなく、ホモシステイン濃度が低下しおり、葉酸を服用することにより、質の高い卵子が発育する可能性があることが報告されています。

これらの研究や日本における葉酸摂取の現状を考えると、妊娠を希望される人は、出生児の先天異常の発生率を減少させるためだけでなく、妊娠の可能性を高めるためにも、通常の食生活に加えて、さらなる葉酸の摂取に気をつけることも大切だと考えられます。

これから妊娠しようと考えていらっしゃる皆さんは、是非ご自分の葉酸摂取量についてじっくり考えてみてください。