2018年度より、私たち公益財団法人1moreBaby応援団は、日本を子育てしやすい社会に変えることを目的とした助成事業を行っています。
2019年度も、数多くのお申し込みがありました。外部審査委員会による厳正なる第一次審査、そして公開プレゼンテーションも行った第二次審査を経て、助成させていただく団体を決定いたしました。

今回ご紹介するのは、そのなかの1つである情報サイト「多胎マム」です。
2018年秋に立ち上げられた同サイトは、自身も三つ子の親である横田莉奈さんが編集長を務める“多胎児ママによる多胎児ママのための情報メディア”です。
このたび、多胎ママの自己肯定感を高め、多胎育児環境を向上させることを目指した「プレ多胎ママ向けオンライン母親学級」を継続的に行っていきたいとの思いから、本助成事業に応募してくださいました。

今回は、「多胎マム」を運営する横田さんと、同サイトの監修を務める小児科専門医の藤田真弥さんのお二人にお話を聞いていきます。

多胎児ママによる多胎児ママのためのメディアを立ち上げたきっかけとは?

──本日はお時間をいただきまして、ありがとうございます。最初に、「多胎マム」というメディアを立ち上げることになった経緯を教えてください。

「私自身、三つ子を育てる母なのですが、多胎児を妊娠したとわかったときから不安な日々を過ごしました。待望の妊娠を心から喜べていない自分自身に自己嫌悪したり、多胎妊娠ならではのリスクにより「授かった子どもたちを1人も産めないのではないか」と無力感を覚えたこともありました。
でも、幸いなことに、出産後にインターネットを通じて、自分と同じような多胎児ママたちとつながることができ、とても有意義な情報交換ができました。
そんななか、いまこうやって喋ったり、共有し合ったりしている内容を、自分たちのなかだけに留めておくのは“もったいない”って思ったんです」(横田さん、以下同様)

──日本では、双子や三つ子といった多胎児は全出生数のうち1%程度だと言われています。出生数でいうと年間約1万人ですね。それだけ、毎年新たに多胎児のお母さんが増えていると考えると、想像以上に多い気がします。

「そうなんです。そのうち私のように、三つ子のママは毎年約100組だそうです。意外と多いですよね。
私もそうでしたが、妊娠をして、多胎ということがわかったときに、素直に喜べない自分がいました。保育士をしていた私は、心の何処かで双子に憧れを抱いていたのですが、実際に自分がそうなったときには、嬉しさよりも不安が勝っていたんです」

──それはどうしてですか?

「どうやって育てたらいいのか、想像もつかなかったからです。私の場合、三つ子の2歳上に長男がいましたが、その1人の子育てだけでも大変なのに、それが複数になったらどうなってしまうのかと思っていたんです。

そして、そんなふうに不安でいっぱいだった私のように、情報がないゆえに漠然とした不安を抱えている多胎児妊婦さんやママは少なくないはず。そんなママたちに情報を届けたい。そう思って『多胎マム』を立ち上げました」

講義中

多胎妊娠にともなう不安とリスクについて

──具体的には、どんな不安を感じたり、自己嫌悪になるような経験をされたりしたんですか?

「いろいろあります。無事に生まれてくれるのかということはもちろん、出産後についても、私の場合は三つ子でしたので、おっぱいが1つ足りないけどどうするのかとか、上の子のときには、抱っこ紐でいろいろと出かけましたが、3人になったらどうやって移動したらいいのかとか、生活面で見えないことだらけで……」

──実際、路線バスに大きな2人乗りベビーカーをそのまま乗せていいのかという問題も起きていますよね。自己嫌悪に陥るような経験についてはいかがですか?

「私の場合ですが、妊娠初期の段階で3人のうち1人は羊水過少のため生まれてこられない可能性が高いと言われました。さらに、もう2人が1つの胎盤を共有していたのですが(一卵性でも胎盤を共有しない場合も稀にあるそう)、栄養供給のアンバランスから発育不全に陥るTTTS(双胎間輸血症候群)という状態になっており、これを改善するには手術をする必要がありました。

その手術は、胎盤を共有している2人のほうに対する処置ですが、もう1人の胎盤を共有していない赤ちゃんのほうの早産を誘発する可能性があるとのことでした。2人の命と1人の命を天秤にかけるような選択肢を迫られ、自分ではどうすることも出来ない無力感を覚えました。とても幸いなことに、安静にすることでTTTSの病状が改善したので、手術せずに済みましたけども」

──多胎妊娠された方は、そういった経験が多いんでしょうか?

「私のように妊娠中に無力感を覚える方も多いと思います。多胎ならではのリスクがありますので、出産できるところも限定されることが多いです。私の場合も、地域密着の産婦人科医院に行きましたが、ここでは産めないということで、NICUやGCUのある大きな病院に行くように言われました」

──そのあたり、藤田さん、いかがでしょうか?

「多胎マムで監修をしている小児科専門医の藤田です。私も、妹が三つ子を妊娠したことをきっかけに多胎児に興味をもちまして、『多胎マム』の横田さんと連携して、情報発信に取り組んでいます。

多胎のリスクということを補足説明しますと、TTTSもそうですが、早産の可能性が高いこと。さらに、お腹の赤ちゃんだけでなく、お母さんにとってのリスクも高く、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病、悪阻といった妊娠合併症が起こりやすいと言われています。

加えて、出産後も、産後うつ病や児童虐待も起こしてしまいやすく、多胎は単胎妊娠・出産以上に手厚いケアが必要だと思います。また、医療関係者側の話ですが、もちろん医学的なことは勉強する機会がありますけども、一方で多胎児の育児や産後ケアといったところは、学ぶ機会も知る機会もあまりないのが現状です」(藤田さん)

保育器1500gくらいの時

多胎でよかったと感じた瞬間

──ちなみに、妊婦健診は通常とは異なりますか?

「“多胎に安定期なし”というくらいでして、妊婦健診は通常に比べて多く、基本的には何も問題が生じなくても妊娠初期から妊娠31週頃までは2週間ごと、それ 以降は毎週健診を行うのが一般的です。
もちろん多胎の状態にもよりますが、私の場合は週1回があたりまえで、何回か2週間空いたときがあった程度です。予定日の3か月前には、管理入院をしました。そこからは毎日診断して、いつ何が起きてもいいように備えていました」(横田さん、以下同様)

──管理入院される前は、上のお子さんの面倒も見ないとですよね。

「そうですね。そこも辛いところでした。先ほども言ったように、妊娠初期からあまり好ましい状態ではなかったので、自宅で絶対安静と言われていました。
上の子が2歳になっていて、動き回る時期でしたが、何もしてあげられなくて、いろんな意味で無力感を覚えました。出産後は、3人ともNICUに入りました。そうなる可能性が高いと言われていましたが、それでもやっぱり実際に我が子がNICUにいるところを見ると、ネガティブな気持ちを持ってしまうこともありました」

──出産前だけじゃなく、出産してからもなかなか自己肯定感を持てなかったんですね。

「ただ、実際の育児については、多胎で良かったなと思うことが本当にいっぱいあって、そのこともみなさんに知ってもらいたいと思っています。
たとえば1人目のときの育児では、どうしても同じ月齢で生まれたお友達と比較してしまい、少し発語が遅かっただけでも自分の育児のせいだと責めてしまいました。

一方で、同じ日に生まれ、同じように育てているのに、異なる成長の仕方を見せてくれる多胎だと、自分の育児の良し悪しではなく、個性だと納得できます。体力的にはもちろん辛いのですが、精神的にはすごく楽な育児ができる部分があります」

──そうなんですね。ちなみに、どのような個性がありましたか?

「たとえば、三つ子はみんな女の子なのですが、赤ちゃんの頃はハイハイや歩き出す時期も、2週間ずつずれていました。一番歩くのが遅かった子が、今は一番運動が得意です。服の好みもぜんぜん違います。
子どもの成長には個人差があるということが体感的にわかって、それは多胎ならではのメリットだなって思います」

「多胎妊娠や育児の経験者が体験談を積極的に届けることが重要」

──不妊治療によって、多胎の可能性が高まることも指摘されています。

「双子や三つ子のママのあるある話で、特にまだ自分で歩くことができない時期には、話しかけられることが多くて、その中で不妊治療が話題にのぼることも少なくありません。
実際、いきなり“不妊治療ですか”と聞かれることもありました。基本的には快く思う人はいないと思いますが、人によってはやむにやまれず聞いている人もいるのかなと思っています。ただ、その場合にはより切実な悩みを持っていることも多く、質問が次々に出てくるので、話が長くなることもあります」

──悪意がないぶん、少しむずかしいですよね。

「特に、子どもが一緒にいるときは聞かないでほしいなと思ったりします」

──そういう意味では、「多胎マム」のようなメディアで、多胎に関する情報が知りたい人に届けば、そういう出来事も軽減されるかもしれませんね。

「そうですね。たとえば、“実は娘が双子を妊娠していて、話しかけました”という方もいました。そういう意味では、多胎妊娠や育児の経験者が多胎に関する体験談を積極的に届けることが重要なのだと思います」

マタニティーマーク

「プレ多胎ママ向けのオンライン母親学級」を行う意義

──今回、「プレ多胎ママ向けのオンライン母親学級」を継続的に開催したいということで、1more Baby応援団の助成事業にご応募いただきましたが、その意義はどのようなところにあるとお考えでしょうか。

「すでに講座を行ったこともありますが、もっとも大きいところは、実際の多胎ママたちの話を直に聞けるところだと思います。講師は『多胎マム』編集部の現役多胎ママたちが主体ですので、医学的な専門知識を聞くというよりは、子育ての悩みや不安について、実体験をもとにした話やノウハウを伝えることに力点を置いています」

「また、オーダーメイドの講義内容になっていることも特徴です。1回の参加者は最大で5組までなのですが、毎回、事前に質問をお聞きして、その内容をもとに講座を組み立てています。
ですので、一度として同じ講座はありません。なるべく、聞きたいことが聞ける内容になるよう心がけています」

──オンライン講座のよいところは、対話によって情報交換ができる部分にもあると思います。そのような、言わばフリートークは盛り上がりますか?

「基本的に、前半を講義にして、後半をフリートークの時間にあてています。ただ、オンライン講座に慣れていなくて、受け身なかたが多かったんです。
でも、今回の新型コロナウイルスの感染拡大によってリモート会議が普及するなかで、みなさんの意識が変わってきていて、オンライン講座で発言することへの抵抗がなくなってきていることを感じます。
もちろん私たちとしても、参加者同士のコミュニケーションを促進したいと考えているので、なるべく状況が似ている方を同じ講座に集めるための工夫もしています」

──具体的に教えてください。

「講座名にサブタイトルをつけて、優先枠を設けています。たとえば『上の子がいる方』とか『子育てがはじめての方』といった具合です。上の子がいる場合と、子育ては初めての方の場合では、質問の傾向が大きく異なりますので、より聞きたい内容が聞けるようになると考えています。結果として、参加者同士のコミュニケーションも取りやすくなるのではないかと思います」

一貫して伝えているのは“多胎育児は人手から考えよう”ということ

──オーダーメイドで毎回内容が異なるというところは、多胎マムさんの強みだと思いますが、一方で、これだけは伝えるようにしているという点もありますか?

「共通して伝えるようにしていることがあって、それは “人手から考える多胎育児準備”についてです。どうしても子育てはママやパパが自分の力だけで乗り切ろうとしがちです。
特にママは、ワンオペ育児という言葉もあるように、自己犠牲的な精神で、無理をしてしまいます。それでは長続きしません。

子ども1人の育児でも難しいのに、多胎となれば、その苦労は何倍にもなります。ですから、なるべく人手を確保するようにする。具体的には、多胎の人数+1が理想だと伝えていて、パートナーはもちろん祖父母や友人、行政や民間のサポートサービスといった社会資源をフル稼働しましょうと伝えています」

──パパについては、育休を取るというところからスタートですよね。

「多胎の育休制度については、ママに限らずパパも含めて、単胎よりも充実していることが多いです。ですから積極的に活用することを勧めていますし、実際、多胎のパパに関しては、ご自身の会社で男性の育休取得者の第一号となる方も少なくありません。ですから、諦めずに取得を目指しましょうと言っています」

──行政のサポートについて、なにか要望はありますか? こういうサービスがあるといいなとか。

「多胎に関するサポートを行っている『ひょうご多胎ネット』というネットワークがあります。その代表的なサービスが、ピアサポーターによる乳児検診の付き添いです。特に首が据わっていない時期の検診では、多胎児を連れて外に出かけるだけで大変です。

そんなときに、多胎育児を経験されたピアサポーターの方がお手伝いしてくださるのは心強いですよね。検診中の待ち時間にも多胎育児についてたくさんお話ができると思うので素晴らしいと思います。マンツーマンの特別なサポート、しかもその家庭の事情に合わせたサポートができるといいなと思います」

──家庭の事情とは、たとえばどのようなものでしょうか?

「エレベーターのない二階に住んでいるご家庭であれば、多胎児をベビーカーで運ぶためには、何度か階段を往復しなければなりません。
そういった住宅に住んでいる場合には、お出かけサポートのようなサービスがあると、不測の事態に備えられていいですよね。そのような個別にカスタマイズされたサービスがあると、より良いのではないでしょうか」

zoomスクリーンショット

今後について

──「多胎マム」の今後のプランについて教えてください。

「繰り返しになりますけども、インターネットを中心として情報発信を続けながら、多胎ママ向けのオンライン講座を継続的に行っていきたいと思っています。
特に不安を抱きがちなプレママ(多胎妊婦)、例えば多胎育児支援が受けづらい地方の方や、自宅やベッドの上にいなければいけない方でも参加できるオンラインでの講座には大きな意味があると思っていますので、今回の助成金も活用しながら、より多くの方に参加いただけるよう広報活動にも力を入れていこうと考えています」

──具体的なアクションも決まっていますか?

「リーフレットを作成し、全国にある多胎児の出産が可能な病院に送付したいと考えています。もちろん引き続き、インターネット上での広報活動も行っていきます。
また、地域には多胎ママサークルやイベント開催を行う動きも広がっています。そうした活動を支援するための情報発信・拡散も積極的に行っていきたいと思っています」

──最後になりますが、メッセージをお願いします。

「これは多胎に限ったことではないかもしれませんが、とにかく、産後のママには自分自身を大切にすることを頑張って欲しいと思っています。子どもが生まれると自分のことはいくらでも後回しにできてしまいます。でも、ママはママ自身を大切にしてほしいですし、家族もママを大切にしてほしいなと思っています。

産後のママが自分を大切にするということは、家族を大切にすることに直結しますよね。ママが倒れてしまったら、子どもも困るし、パートナーも困ります。家庭が回らなくなってしまう。ですから、できれば家族と協力することで、自分を大切にする時間を意識的に作ってほしいなと思います」

──藤田さんはいかがですか?

「私も、横田さんとまったく同意見で、お母さんたちは、本当に頑張りすぎてしまうきらいがあるので、子どもを守るという意味でも、お母さんたち自身を守ることを意識してほしいです」

──本日は、どうもありがとうございました!