『世界一子どもが幸せな国』といわれるオランダ。
これは、ユニセフの『Innocenti Report Card11』によるものです。
私たちは2016年の秋に、その要因を探るために現地を訪れ、政府機関や企業、保育施設から小学校、一般家庭に至るまで訪問し、その柔軟な働き方や夫婦の関係性、子育てなどについてインタビューを行いました。
そして、その結果を『18時に帰る』という一冊の本にまとめました。

コロナ禍である現在、オランダの人たちはどのように日々を過ごしているのか。柔軟な働き方は子育ては、どのように活かされているのか。
私たちはオンラインを使用し、インタビューを実施いたしました。

『18時に帰る 』「世界一子どもが幸せな国」オランダの家族から学ぶ幸せになる働き方書籍の詳細を見る

単行本: 224ページ
出版社: プレジデント社
言語: 日本語
定価:1500円(税別)
発売日:2017年5月30日

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夫婦ともに在宅ワークに切り替わった3人の子どもを持つオランダ人一家

Vol.1とVol.2で紹介するのは、10歳、7歳、5歳のお子さんをお持ちのアルマンさん(43歳)とマライヤさん(44歳)夫婦。

そのうち最初にインタビューに応じてくれたのは母親であるマライヤさんです。彼女は、福祉関係の企業で営業をしています。労働時間は週30時間。月曜、火曜、木曜が1日あたり8時間勤務、金曜は6時間勤務の契約で働いています。

幼い頃の夢だった「たくさんの子どもに囲まれた生活」を思い出したきっかけ

─本日はお時間をいただきどうもありがとうございます。早速ですが、お話を聞かせてください。お二人は、現在3人のお子さんをお持ちですよね。それは、マライヤさんが想定していた人生プランの通りだったのでしょうか?

「実は、私は10歳くらいの頃に夢を持っていました。それは、大きな農場のある家でたくさんの子どもたちに囲まれて暮らしたいというものです。でも大学に行ってビジネスの勉強をして、会社に就職して、働く日々のなかで、その夢のことは完全に頭からなくなっていました。あるとき、私の母がその話を思い出したらしく、『あなたがもしも子どもを産みたいのならば、そろそろ考えたほうがいいわよ』と言ってきたんです」

─それは何歳くらいのときですか?

「確か30歳のときだったと思います。そのときはすでにアルマンと一緒に暮らしていましたが、子どものことはまったく頭に浮かんでいませんでした。だけれども、母からそう言われて幼かったころの夢を思い出し、アルマンと相談して子どもをつくろうとなりました。ちなみに、彼と一緒に暮らし始めてから最初の子どもが生まれるまでは、2〜3年くらいだったと記憶しています」

─オランダでは結婚せずに、パートナーシップ制度を選択する人も多いと聞きます。お二人はいつ頃どのような関係を築いたのでしょうか?

「実は、私たちは結婚もパートナーシップ契約も結んでいません。唯一していることは、子どもが生まれたときに行う承認だけです。これは自分で出産をするわけではない男性側が行うもので、どちらかといえば男性の親としての権利を守る意味合いがあります」

─結婚やパートナーシップ制度に則っていない場合、不利益を被ることはないのでしょうか?

「社会制度上でも、銀行から住宅ローンを借りる場合でも、不利益はまったくありません。とにかく1つの家族として、一緒に住んでいることが証明されれば問題は起きません。逆にいえば、同じ家に住んでいたら、結婚をしていなくても一緒に税金などのお金を支払う必要もあります。結婚していない理由ですか? あまり考えたこともありませんが、結婚に時間と労力を割くことにプライオリティを置いていないからですかね……。このままで十分に幸せであって、何も変える必要はないということです」

夫婦ともに週休3日にすることで、学童の利用は週2回で済ませられる

─次に、お仕事の話に移りたいと思います。現在マライヤさんは週4日の30時間勤務であるとお聞きしています。いつからこの労働条件なのでしょうか?

「大学を卒業して最初に勤めたのが、医薬品を扱う会社でしたが、そのときから10年ほどは週5日勤務で働いてきました。しかし、1人目の子どもが生まれたときに週4日勤務に変えました。そのときには週4日の32時間勤務でしたが、2年前に転職したことをきっかけに、週30時間勤務に変えました」

─ちなみに医薬品会社の後にはどのようなお仕事に就いたのでしょうか?

「医薬品会社で勤めているときに、もっと社会に役立つことがしたいと思い、発展途上国を対象にした開発支援の会社に転職しました。それから数年してヘルスケア業界の会社に転職し、現在に至ります。そのタイミングで労働契約を30時間に変えました」

─32時間から30時間に労働時間を減らしたというのは、子育てと関係あったのでしょうか?

「転職するときに、後に私の上司となる人と面接を行いました。そのときに、子どもが3人いるという話をすると、『それなら働く時間は30時間で十分よ』と言われ、採用されました。これは彼女の親切心から提案してくれたことでもありますが、一方で、2時間分の給料が節約できるという意味で、雇う側にも金銭的なメリットもあったのでしょうね」

─週4日勤務ということで、水曜と土日がお休みになっています。一方で、アルマンさんは金曜と土日がお休みですよね。お休みの日をずらしているのは、どんな理由からですか?

「私たちが2人とも仕事をしないといけない場合は、学童を利用しなければなりません。異なる日に休むことで、子どもたちの面倒を見られる日が増えます。オランダでは、多くの家庭で水曜日と金曜日に休みを取っています。なぜなら一般的に水曜と金曜は学校が短く、お昼に終わってしまうからです」

職場復帰しても、生後6ヵ月まで家で子育てできるようみんなで協力した

─平日の過ごし方について、もう少し詳しく教えてください。また、学童以外に利用している家事や育児のサービスはありますか?

「水曜日は私が休みなので、お昼に学校から帰ってくる子どもたちの面倒をみます。金曜日はアルマンの出番です。月曜日は契約しているベビーシッターさんが自宅で子どもたちの面倒をみてくれます。火曜日と木曜日は夕方まで学童保育に預けています。それから木曜日の午前中には、家事の代行サービスも利用しています」

─1番上のお子さんが10歳で、1番下のお子さんが現在5歳ですよね。子どもが少しずつ大きくなってきて変わったこともありますか?

「火曜日と木曜日のうち、どちらかをキャンセルすることも珍しくなくなりました。学童保育に送り迎えするのと、子どもを家に連れて帰るのでは、そこまで大きな労力の差があるわけではないからです。子どもたちは家に帰って来さえすれば、近所に住む友だちと遊べる年齢になったこともその要因です」

─オランダの小学校は、親が送り迎えをするんですよね?

「おっしゃるとおり、子どもが低学年のうちは親が送り迎えするのが一般的です。一番上の長男はもう大きくなったので、自分で帰って来られるようになりました。ですので、最近になって学童に通うのを一切やめました」

─産休・育休について教えてください。

「これまで3回の育休を取りました。出産前の4〜5週間と、出産後の16〜17週間の休みを取ることができます。ただ、休みを取らずに貯めている人もいて、そういう場合は出産後の休みを追加するケースもあります。私の場合ですが、いきなりフルに職場復帰するのではなく、最初は週2回勤務で戻って、数ヵ月をかけて週3、週4と徐々に戻していったかたちになります」

─職場復帰するとき、赤ちゃんはすぐに保育園に入れるものですか?

「これは私の価値観ですが、赤ちゃんが6ヵ月になるまでは自宅で面倒をみたほうがいいと思っていたので、保育園を利用しませんでした。そのためにアルマンが在宅勤務の時間を長くしたり、両親(祖父母)にお願いして、面倒を見てもらったりと工夫していました」

在宅ワークの環境が整うまで3ヵ月かかったものの、その後の仕事効率は大きく向上した

─ここからコロナ禍での生活についてもお聞きしていきます。欧州では2020年3月ごろから新型コロナウイルス感染症が蔓延し、ロックダウンに至ったと聞いています。学校も閉鎖されたんですよね。

「学校は閉鎖され、ホームスクーリング(自宅学習)が必要となりました。学校によって異なると思いますが、うちの子どもたちが通う小学校の場合、課題が与えられたので、9時にこれをやる、10時にはあれをやるという具合に、スケジュールを組みました。もちろん親である私たちも、在宅ワークをしないといけないので、非常にストレスフルでした」

─マライヤさんは、それまで在宅ワークはあまりしていなかったのでしょうか?

「基本的に職場で仕事をしていました。コロナ禍においては、週に1回か2回ほど事務所に行き、それ以外は在宅ワークという環境に変わりました。特に私が働いているのは福祉関係の会社なので、100%在宅でということにはなりませんでした。もちろん事務所でほかの誰かと同じ部屋を使ったり、隣に座って話をするようなことはありませんでしたが。職場の同僚と電話やメールで調整することで、1つの部屋は1人までということを徹底していました」

─どのように上司や同僚、クライアントとコミュニケーションを取っていたのでしょうか?

「この業界はやや古臭いので、コロナ禍以前はリアルに人と会うのが常識でした。遠隔でのコミュニケーションは電話くらいで、オンラインツールはほとんど使っていない状態でした。だからまずは新しい状況に慣れる必要がありました。オンラインツールの使い方だけでなく、そういうシステムをインストールするところから始めないといけなかった。オンラインを使った仕事環境が整うまで3ヵ月ほどかかったと思います。ただ、その3ヵ月の後というのは、仕事の効率が上がり、コミュニケーションもそれまでより潤滑になっていて、コロナ禍以前の働き方に戻ることは考えられません。もちろん必要に応じてクライアントに直に会ったり、事務所に行くこともありますが、コロナ禍に関係なく、家での仕事も維持されていくでしょうね」

─そういった新しい働き方は、みなさんにすんなりと受け入れられているのでしょうか?

「会社によると思います。オンラインを使った在宅勤務に反対する会社や社長もいるみたいで、『オールドファッションな(古臭い)会社だ』と憤る近所の知り合いもいたりしますから。でも大きな流れでいえば、この国では在宅ワークは受け入れられていると思います。企業側からしても、在宅ワークを取り入れたほうがオフィスの賃料も節約できますし、通勤費もかからないし、環境悪化にもつながる渋滞も起きませんので」

コロナ禍前も後も、家事や育児は夫婦で〝フィフティ・フィフティ〟

─オンラインツールを使った在宅ワークによって、仕事の効率が上がったと。一方で、コロナ以前も以後も、労働契約は同じままですよね。その意味では、労働時間をたとえば週4日から週3日に減らしたり、そこまでいかなくとも労働時間数を減らすという可能性はないのでしょうか?

「それは2つの理由から難しいと感じています。まず、そもそも全体の仕事量に対して労働時間が絶対的に不足していたということ。いくら効率が良くなってもすべてをこなすことはできていません。もう1つの理由は、仕事にやりがいを感じているということ。私は好きで仕事をしているので、週に30時間は働きたいのです」

─後ほど詳しくお聞きしますが、アルマンさんもコロナ禍で在宅勤務になったんですよね。お二人ともが在宅勤務をすることで、ストレスは感じていませんか?

「確かにストレスはあります。誰にとっても、いつもずっと一緒にいるというのは、あまり好ましいことではないと感じます。やはり適切なバランスが必要です。たとえば金曜日はアルマンは休みなので自宅にいます。そういうときは、私は外出して仕事をすることが多いです。そうすると1日を通して集中できます」

─家事や育児のバランスという意味ではどうでしょうか? 私ばかりが子どもの面倒を見ている、というようなストレスはありますか?

「確かに我が家の子どもたちは、何かトラブルがあるとママのほうにきがちですが、だからといって、バランスが悪いわけではありません。私が対応できないときには、『あそこにパパがいるから』と言います。そういうときにはパパはしっかりと解決してくれます。家事については、料理や洗濯などを含めてフィフティ・フィフティでやっています。これはコロナ禍でも変わっていません」

学校閉鎖中、家庭内のタイムマネジメントに最も役立ったこと

─コロナによって変わった部分はありますか?

「コロナの影響が最も大きかったのは、先ほども出てきた学校閉鎖のなかでのマネジメントでした。3人のこどもが家にいて、勉強をさせないといけない。もちろん仕事もしないといけない。最初の1週間は特にめちゃくちゃでした。そこで、どうにかしないといけないとアルマンと相談し、大きなスケジュール表を作って、みんなの予定を書き込んでいきました。これによって、この時間は私が子どもの勉強を見て、そのかわりこの時間は仕事に専念するということが明確になり、かなりタイムマネジメントがしやすくなりました」

─ただ、末っ子はまだ5歳ですよね。彼の面倒をみるのは容易ではなかったのでは?

「確かに小さい子どもは、手間がかかるかもしれません。でも、上の子も手がかかりますよ。勉強しているかと思いきや、いつのまにかゲームをしていたりするので、ある程度は見張っていないといけない。あと我が家の末っ子は、幸いにも絵を書くのが大好きなので、そういうときには何時間も集中が続きます」

─子どもたちは先生とのコミュニケーションはスムーズでしたか?

「先生とのコミュニケーションですが、最初はとても苦労しました。というのも、それぞれのクラスの先生が、毎日メールを10件くらい送ってきて、その都度そのメールを確認して、対処しなければなりませんでした」

─どういうことでしょうか?

「先生のほうでも、何を指示するのか、どんなコミュニケーションを取ればいいのかが整理されていなかったのです。だから何度も何度もメールが来ていたということです。最初は慣れていないこともあって混乱していたのだと思います。だから、もっと落ち着いて、何をしたらいいのかを整理してからメールをするといいのではないかと伝えました。それは時間とともにうまくいくようになりました」

コロナ禍で家族の時間が増えたことによる影響とは?

─マライアさん自身も、お友達と会えなくなったかと思います。

「友達とはWhatsAppでやりとりしたり、一番の親友とは電話で話をしたりしました。でも、ロックダウン中は概してそんなに悪い時間でもありませんでした。というのも、オランダでは、親同士の交流会とか子どものための誕生日会とかが頻繁にあるのが一般的で、とても忙しいのですが、それらがコロナという当たり障りのない断りの理由ができたおかげで時間的な余裕が生まれました。もちろん交流会が嫌いだというわけではありませんが、たまには落ち着いた日々もいいよねってことで、家族だけの時間を楽しみました」

─それで家族の絆が深まったというようなこともあるんでしょうか?

「いえ、絆が深まったということはあまりないです。もともと絆はあったので(笑)。ただ、一緒に過ごす時間が増えたことはプラスの面もあって。たとえば子どもたちが普段、学校でどんな勉強をしているのか、どういう科目が強くて、なにが苦手なのかがわかったことは良かった点です。ママ友やパパ友と話をするなかで、親が在宅学習のサポートをしたおかげで苦手だった科目が克服できたというケースを耳にします。一方で、親がサポートできなかった家庭では、苦手な勉強がますます苦手になってしまったという話もあって、このあたりは社会問題として取り組んでいく必要があるでしょうね」

続いてvol.2では、アルマンさんのインタビューを紹介していきます。

(著者)
秋山開
公益財団法人1more Baby応援団
専務理事

「二人目の壁」をはじめとする妊娠・出産・子育て環境に関する意識調査や、仕事と子育ての両立な どの働き方に関する調査、啓蒙活動を推進。執筆、セミナー等を積極 的に行う。 近著の『18時に帰る-「世界一子どもが幸せな国」オランダの家族 から学ぶ幸せになる働き方』(プレジデント社)は、第6回オフィス 関連書籍審査で優秀賞に選ばれている。二男の父。

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(著書)
『なぜ、あの家族は二人目の壁を乗り越えられたのか?』ママ・パパ1045人に聞いた本当のコト(プレジデント社)
『18時に帰る』「世界一子どもが幸せな国」オランダの家族から学ぶ幸せになる働き方(プレジデント社)

(講演・セミナー例)
〇夫婦・子育ての雑学を知る!「ワンモアベイビー 2人目トリビア」 など
〇著者が語る、オランダの働き方改革 ~オランダが「世界一子どもが幸せな国」になれたわけ~