『世界一子どもが幸せな国』といわれるオランダ。
これは、ユニセフの『Innocenti Report Card11』によるものです。
私たちは2016年の秋に、その要因を探るために現地を訪れ、政府機関や企業、保育施設から小学校、一般家庭に至るまで訪問し、その柔軟な働き方や夫婦の関係性、子育てなどについてインタビューを行いました。
そして、その結果を『18時に帰る』という一冊の本にまとめました。

コロナ禍である現在、オランダの人たちはどのように日々を過ごしているのか。柔軟な働き方や子育ては、どのように活かされているのか。
私たちはオンラインを使用し、インタビューを実施いたしました。

Vol.3とVol.4で紹介するのは、ヒッデさん(49歳)とシンディさん(45歳)夫婦です。7歳、6歳、4歳のお子さんをお持ちのお2人は、オランダの中規模都市の中心部にある住宅街に暮らしています。

先にインタビューに答えてくれたのは、母親であるシンディさんです。シンディさんは障害を抱える人の就業支援を行うジョブコーチとして働いています。労働時間は週27時間。火曜、木曜、金曜にそれぞれ9時間ずつ働いています。つまり週3日勤務、週休4日の労働契約を結んでいることになります。

『18時に帰る 』「世界一子どもが幸せな国」オランダの家族から学ぶ幸せになる働き方

単行本: 224ページ
出版社: プレジデント社
言語: 日本語
定価:1500円(税別)
発売日:2017年5月30日

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子どもをもつためには助け合っていくパートナーが不可欠だと思っていた

─本日はお時間をつくっていただき、ありがとうございます。いきなりの質問になりますが、3人のお子さんがいることについて教えてください。最初から3人を希望していて、プランを立てていたのでしょうか?

「もともと私は3人姉妹でした。いつも遊ぶ相手がいて楽しくて、もちろんケンカをすることもありましたけれど、とても幸せでした。それから私は子どもという存在自体も大好きで、現在の仕事の前には、家庭に問題を抱えている0歳から18歳の子どもたちをサポートする仕事に携わっていました。だから自然と子どもは複数がいいなと思っていました。そして1人目が生まれて、やっぱり可愛くて『もう1人ほしい』と思って2人目が生まれ、やっぱり愛おしくて『もう1人ほしい』と思って3人目が生まれ、『もう1人ほしい』と思いましたが、夫と相談して、それはやめました」

─もう1人ほしいと思ったけれど、やめた理由はどんなものだったのですか?

「まず夫としては、3人でもう十分だという意見でした。私自身は、子どもの人数は偶数いたほうが遊ぶときに仲間外れがでなくていいなと思ったんです。けれど初産のときにすでに37歳をむかえていて、3人目を産んだのが41歳でしたので、体力的に難しいかなと考え、3人でストップしました」

─オランダの女性の平均初産年齢は、2019年の統計で30.0歳(※オランダ中央統計局)だったと聞いています。少しお答えづらいかもしれませんが、37歳に最初のお子さんを産んだというのは、どういった背景があったのでしょうか?

「子どもは好きだし、子どもがほしいという思いはありましたが、必ずしも子どもを生むことだけが私の人生の目的ではありませんでした。実際、子どもが生まれる前の私の人生では、仕事だけでなく勉強や旅行なども充実していて、とても幸せなものでしたから。ただ、自分が未熟であったこともありますが、そのときに付き合っていたパートナーと子どもをつくりたいというふうには思えませんでした」

─ヒッデさんに出会ったことが大きかったということですか?

「夫に出会ったのは35歳のときでした。そして彼とともに子どもをつくって、家庭を築くという気持ちになれました。そうした気持ちの変化が生まれたのは、自分自身がより成熟した大人になれたことと、良きパートナーと巡り会えたことが関係しています。特に私は仕事も自分の人生の大切な要素であるので、子どもを持つためには、パートナーと助け合っていく必要があると思っていましたから」

3人の子どもが生まれて、家のなかが完ぺきでないことを受け入れるようになった

─そのお仕事についても教えてください。現在、週27時間勤務ということですが、これはいつからですか?

「もともと私は1人目が生まれるまで週36時間で働いていました。1人目が生まれ、仕事に復帰したときにも、同じく週36時間で働きました。仕事も子どもとの時間もほしいと理想を追っていましたが、実際には時間の余裕がなくなり、子どもに十分な注意を向けることができないと思い、労働時間を現在の27時間に減らしました。それからは週27時間を維持しています」

─具体的にどのような生活リズムで働いているのか、簡単に教えてください。

「いまは、私は火曜と木曜と金曜に9時間働いています。月曜は4歳になったばかりの末っ子の面倒をみます。水曜日は末っ子だけでなく、上の2人も午前中で学校が終わるので、彼らと一緒に過ごします。たいていこのときに1週間分の家事をまとめてやるようにしていて、土日は家族みんなで楽しく過ごす時間にするようにしています。もちろん週1回ですべての家事が終わるわけではないので、土曜日に洗濯しなくてはならないこともありますけれど(笑)。

木曜日は、私だけでなく夫のヒッデも仕事があるので、上の2人は学校のあと夕方まで学童に預け、末っ子については朝から夕方まで保育園に預けています」

─週に1回だけ保育園を利用されているということですね。これは何か特別な理由はありますか?

「実は、上の2人のときは保育園が週2回でした。そのときに気づいたことは、子どもの成長はすごく早いということ。小学生になると、なおさら子どもたちの社会は広がり、どんどん親元を離れていきます。3人目はこれが最後の育児ということもわかっているので、学校に行くまでの貴重な時間をなるべく長く一緒に過ごそうと考えました」

─先ほど土日は家事をなるべくしないようにしていると仰っていました。日本の共働き家庭では、家事も育児もフル回転しないといけない土日が一番忙しいという声もあります。

「子どもたちと一緒にいる時間は、クオリティ・タイム(充実した時間)と呼び、これを私たちはとても大切にしています。もちろん先ほども言ったように、土曜日に家事をしなくてはいけないときもありますが、なるべくそういうことはしない。子どもたちと楽しく過ごす。実は、私は子どもが生まれるまでは、いまより完璧主義で、潔癖症のようなところがありました。でも3人の子どもが生まれ、ある程度片付いていなくても、家のなかが完ぺきな状態でなくても、それでよいと認められるになりました。もちろんみなさんと同じように私たちも完ぺきではなく、どう家事や育児をマネジメントすればいいのか、現在進行形で模索している段階ではありますけれど」

料理は「私が働く日は彼、彼が働く日は私」。2人とも働く木曜は残り物を食べる

─夫婦間での家事や育児のバランスはいかがですか?

「子どもたちの面倒を見る時間というのは、ヒッデと私ではあまり変わりません。私と同様に、彼も週休4日で、火曜と金曜に育児をしています。そのうち火曜は末っ子と一緒に2つのスーパーマーケットをハシゴして1週間分の買い物をしてくれます。木曜日は保育園に連れていくのが私で、上の2人を学校に連れていくのがヒッデです。お迎えも彼が担当です。なぜかというと、彼の仕事のほうが1時間早く終わるからです

ただ、家事については少し言いたいことがないわけではありません(笑)。女性の友だちと話すとき、よく〝なぜか男性にはいつも見えないものがある〟という話題になります。つまり、子育てをしながら洗濯機を回したり、乾いた洗濯物を畳んだり、天気が良い日にはときどき布団やカバーを陽に当てたりといったことができません。『どうして1日中、家にいたのに洗濯物が山積みになっているの?』と聞くと、『わお、見えなかったよ』と答えます」

─日本でも同じような話がときどき話題になります。

「彼が育児をするときには、動物園や博物館、公園などに出かけようとします。その間は家事ができません。男性には見えないものがあるので、私たちはときどき明確な指示を出す必要があるということです」

─先ほどお買い物の話も出ましたが、料理についてはいかがですか? 明確な指示が必要なのですか?

「いえいえ、そんなことはありません(笑)。彼は料理もしますし、買い物も自分で決めて買っています。彼は、私が仕事のときには頭がパンパンになっていることを知っているので、リビングテーブルの上に彼が自作した買い物リストを置いておいてくれます。『必要なものがあれば追記しておいて』って。

料理の分担ですが、私が働く日は彼が料理をします。彼が働く日は私が料理をする。2人とも仕事の木曜は、残り物を食べたり、ピザやポテトフライなどの食べ物を買ってきたりすることもあります」

労働時間を週36時間から27時間に減らした理由

─仕事の話を詳しく教えてください。もともと36時間だった労働時間を27時間に減らしているということでしたけども。

「正式の契約時間は36時間です。しかし、オランダではアウダースハップフェルロフ(Ouderschapsverlof)という制度があり、仕事の契約はそのまま残しながら、子どもが8歳になるまでは働く時間を減らすことができます。子どもが8歳になったら、元の状態に戻ることができます。この制度を使うと、最初の1年目は減らした労働時間分の給料のうち、25%をもらうことができます。つまり27時間分の給料プラス9時間の給料の25%を受け取れるということです。いずれにしても、元々私は節約型の人間なので、労働時間に合わせて給料が減ったとしても、特に大きな問題はありません」

─子どもが大きくなるといろいろな出費が追加でかかってきますよね。日本だと将来への不安を抱えている家庭も少なくありませんが、いかがですか。

「まず大きなポイントとしては、3人目が生まれたときに、そのときに住んでいた家を売り、いまの家を買いました。前の家を売ったときに利益が出たので、そのお金をこの家の頭金にしているので、いま払っている毎月のローン額が抑えられています。それでも家を売ったときのお金に余裕があったので、子どもが3人乗れる大きな車も買いました」

─貯蓄もされていますか?

「子どもたちのために、貯蓄をしています。一方で、無駄な出費を極力抑えています。たとえば子どもたちの洋服ですが、一度も新品を買ったことがありません。ちょうど友人が、我が家の子どもの少し上の年齢だったので、そのお下がりを譲り受けましたし、それでも必要なものがあるときは、セカンドハンドショップで中古品を買っています」

コロナ禍のロックダウン中でも仕事を続けるために「新しい働き方」を会社に提案した

─コロナ禍による仕事への影響について教えてください。最初のロックダウン中や学校閉鎖中はどのような働き方や生活になったのでしょうか?

「私の仕事は、なかなか就職ができない人たちを支援するというジョブコーチと呼ばれるものです。就職先が見つかれば、彼らが働いているところに出向き、仕事がうまくいっているのかをヒアリングしに行きます。しかし、コロナ禍でこれができなくなりました。私がサポートしているのは、軽度の知的障害や自閉症、聴覚障害といった課題を抱えている人たちでしたので、彼らとオンラインビデオで話し合うという方法に切り替えることも難しかった。

そこで私は会社に〝ワンデルコーチング(Wandelcoaching)〟という方法を提案しました。自転車で彼らが働くところまで行ったら、彼らに外へ出てきてもらいます。そして、1.5mという距離を保ちながら1時間半ほど一緒に散歩しながら話し合っていくというものです」

─シンディさんのほうから提案したのですか?

「そうです。ロックダウンによって、『私たちができることはなくなった』と嘆くスタッフがたくさんいました。私はネガティブなことを言うのが好きではないので、私たちなりにできることもあるはずだと思って、会社に提案しました。ただ、最初はロックダウン中に人を外に連れ出すのはよくないという意見もありました。だから私はとにかく実施してみた。そしてとてもうまくいくことを確信して、散歩している様子の写真を撮って、上司を含め200人の同僚に〝こんなやり方もある〟と提案したのです。いまでは、我々の組織はWandelcoachingを強みの1つと言っているほどになりました」

─では、ビデオ会議システムは使っていないのでしょうか?

「もちろん使っています。たとえば働き手が勤めている会社の上司や雇用主と話し合う必要があります。そうしたときには、コロナ禍以前は直接訪問していましたが、いまはビデオ会議システムで、オンラインでミーティングをすることも増えました。もちろん緊急時には現場に行く必要もあります。いまはオンラインとリアルを組み合わせることで、コロナ禍以前よりも効率よく働くことができていると感じています。特にWandelcoachingはクライアントからの評判もよく、コロナに関係なく続けていくでしょうね」

─部分的に在宅ワークが増えたということですね。在宅ワークに関しては、何か会社からサポートはありましたか?

「残念ながら。そのことに対して、私はかなり意見をぶつけました。会社には労働者を守る責任がありますので、もっとやるべきことあるでしょう、って。たとえば私は1日に6人のクライアントと会うことがあります。この場合、6枚のマスクが必要です。もちろんマスクくらいのお金は出せます。でも、そういう問題ではなく、会社は従業員を守るという姿勢が必要だと思っていたので、必要な分のマスクは配布すべきですよね。そういうようなことを会社側に伝えました。面倒くさい人だと思われたかもしれませんけど(笑)」

ストレス解消のため子どもを寝かしつけた後、毎日1人で1時間の散歩をした

─ロックダウンになって、それまで以上に家族で過ごす時間が増えましたよね。ストレスは感じませんでしたか?

「最初のロックダウンでは学校閉鎖にもなり、家族で新しい生活リズムを組み立てるまでの最初の段階では大きなストレスを感じました。しかし、たとえば家族の全員が家にいることが多かった木曜日は、午前中にヒッデが家のことを担当して私が在宅ワークに集中し、午後は交代するといったように、しっかりとタイムマネジメントをすることで、ストレスは感じなくなりました。それでもやはり、子どもたちがずっと家にいるというのは、息が詰まるものです。ですから夜の8時半に子どもたちを寝かしつけてから、私は毎日のように1時間ほど散歩に出ました」

─それはお1人で?

「はい。もちろん子どもたちが起きてきたときのことも考えてのことですが、それでも私は1人で散歩をしたかった。自分1人の時間を保つことによって、1日のストレスを解消させることができたと感じています」

─そちらの本棚を拝見すると、世界各国の旅行ガイドブックが並んでいます。旅行に行けないこともストレスでしたか?

「そこはあまりコロナと関係ないところです。旅行はコロナが発生する前から、子どもがもう少し大きくなってから再開しようと考えていましたので。

見てわかるように、私は旅行が大好きです。実は子どもができてもバックパックを背負って、世界中を旅行し続けると想像していました。それは可能ではあるものの、幼い子どもとの旅行は子育てにばかり時間を奪われます。あるとき、一体自分ははるばる遠くまで旅行にきて何をしているのか、となることに気づいたのです」

─確かに、せっかく遠くまで旅行にいっても、自由に動き回ることは難しいですよね。

「そう、だから私がいま考えているのは、末っ子が7歳になったときに家族でシベリア鉄道に乗ること。モスクワからアジアまで行くという冒険をすることを計画しています」

─日本でお待ちしてます(笑)。

「そうなるといいですね!」

(インタビューを終えて)
オランダでは、ライフステージに応じて働く時間を調整することが可能です。子育てや介護に限らず、学び直しや趣味などの際、一旦労働時間を短くし、その後に改めて労働時間を伸ばすことができます。さらに、一日あたりの労働時間を伸ばすことによって、週の休みの日数を増やすことも可能です。もちろん、労働時間を短くしても1時間あたりの賃金やその他の条件は一切変わりません。
オランダでは子育て期にこの制度を利用し、協力して子育てをしているパパやママがとても多くいます。なぜ子育て世代が気軽に利用できるのか?それは、子育て世代だけでなく、理由を問わず誰でも利用できる制度であるということが一つのポイントです。シンディさんのご夫婦も、この制度を利用しているようですね。
それにしても、「世界一子どもが幸せな国」であるオランダのパパも、日本のパパと共通の弱点があり、すこしホッとました。

続いて、vol.4では夫であるヒッデさんにお話を聞いていきます。

(著者)
秋山開
公益財団法人1more Baby応援団
専務理事

「二人目の壁」をはじめとする妊娠・出産・子育て環境に関する意識調査や、仕事と子育ての両立な どの働き方に関する調査、啓蒙活動を推進。執筆、セミナー等を積極 的に行う。 近著の『18時に帰る-「世界一子どもが幸せな国」オランダの家族 から学ぶ幸せになる働き方』(プレジデント社)は、第6回オフィス 関連書籍審査で優秀賞に選ばれている。二男の父。

(著書)
『なぜ、あの家族は二人目の壁を乗り越えられたのか?』ママ・パパ1045人に聞いた本当のコト(プレジデント社)
『18時に帰る』「世界一子どもが幸せな国」オランダの家族から学ぶ幸せになる働き方(プレジデント社)

(講演・セミナー例)
〇夫婦・子育ての雑学を知る!「ワンモアベイビー 2人目トリビア」 など
〇著者が語る、オランダの働き方改革 ~オランダが「世界一子どもが幸せな国」になれたわけ~

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