先月は妊活に適した季節はあるのか?という観点から、季節変化が生殖に及ぼす影響についてお話ししました。今月も引き続き、季節変化と不妊治療の一つである体外受精の成績との関連についてお話ししましょう。

体外受精と季節の関係性を調べた研究について

前回の記事では、気温が、貯蔵してある卵胞から発育してくる卵胞の数(AFC)に影響を与えていることをお話ししました。この結果を見ると、体外受精の成績にも影響を及ぼしている可能性があると推測できますね。

これ以外の研究でも、季節と自然妊娠に関する研究は多く行われており、季節と自然妊娠による出産率には、何らかの関係があるようです。このため、体外受精と季節との間に何らかの関係性があるのかについても、研究者が興味が持ち、数多くの研究が行われています。ただ、研究対象症例数が250例以下と少ない症例数の研究から38,000例以上と多くの症例を扱った研究など、その内容は様々であり、かつ、研究機関の場所もさまざま(オーストリア、ベルギー、カナダ、中国、イスラエル、オランダ、スイス、英国、米国など)です。そのため、、季節変化の状態もそれぞれ異なり、これらの研究結果からは、明らかな一定の傾向を認められません。いくつかの研究は、体外受精などの生殖補助医療の結果と季節には関連がないと結論付けている一方で、季節は成績に影響するとする結果を発表している論文もあります。

この記事でご紹介する論文の著者は、以前新鮮胚移植の治療において、季節が体外受精の成績に及ぼす影響を検討した論文を発表しています。この論文では、少しの差ではありますが、夏季において臨床妊娠率の成績がよく、気温と着床・臨床妊娠には正の相関があることがわかりました。しかし、生産率との間には季節の影響は認められませんでした。このような研究の多くは、新鮮胚移植周期の研究です。凍結胚移植周期での季節と成績の関連の研究は2つありますが、胚移植の周期における季節と成績の間には、関連がありませんでした。

しかし、今回ご紹介する論文は、凍結胚を移植する治療周期の成績について、移植時の季節だけではなく、その移植胚が採卵された周期の季節変化についても検討しています。つまり、移植胚が影響を受ける可能性がある2つの時期の季節変化の影響について検討していることになります(Katharine FB, et al. Fertil Steril 117: 539-547, 2022)。

この研究は、ハーバード大学医学部ブリガム&ウィメンズ病院で生殖補助医療を行った1,937人、3,007の凍結融解胚移植周期を解析しています。この解析周期には、卵子の提供を受けた治療周期や、借り腹による治療周期は含まれていません。これら3,007の凍結融解胚治療周期の成績(着床・臨床学的妊娠・自然流産・生産)と、治療に用いた胚の採卵周期、胚移植周期の季節・平均気温・日長との関連を検討しています。

この病院は、米国マサチューセッツ州ボストンにあり、治療を受けた人は、典型的な四季がある気候の場所に住んでいます。よって、季節は気象学の春夏秋冬の4区分、平均気温は<6.7℃、6.7-17.2℃、>17.2℃の3区分、日長は<10.81h、10.81-13.64h、>13.65の3区分を用いて、それぞれの項目と治療成績との関連を解析しています。

採卵する時(周期)の季節は、卵子の発育の質に影響する?

先ず、四季と凍結融解胚移植の成績との関係ですが、図を見てください。 この図は、 採卵日 と胚移植日の季節、治療成績(着床率、臨床妊娠率、流産率、生産率)との関連の オッズ比を示しています。

冬の季節を対照として、冬の季節とその他の季節とを比較しています。縦の破線と各季節の横線の交わりがない状態は、冬との有意な差があることを示します。胚移植日の四季は、どの項目においても差はありませんでした。しかし、採卵日においては、冬に比較してその他の季節との間には着床率、臨床妊娠率、生存率において、有意な差がありました。流産率には差はありませんでした。この結果より、採卵周期の四季は、発育卵子の質に影響を与えており、また、胚移植周期の四季は胚が子宮に着床することには、影響しないことがわかりました。

凍結胚の移植後の成績に影響する採卵周期の気温

次に、採卵周期、または胚移植周期の平均気温と凍結胚移植の成績の関連を検討したところ、採卵周期の平均気温は、3つのグループのうち最高温のグループの成績は、最低温のグループとに比較すると、着床率、臨床妊娠率、生産率において有意に良い成績でした。一方、胚移植周期においては、平均気温は各項目との間には関連を認めませんでした。

次に、採卵周期、または胚移植周期の日長と凍結胚移植の成績の関連を検討したところ、採卵周期の日長は、3つのグループのうち最も日長が長いグループの成績は、最短のグループと比較すると、着床率においてのみ有意に良い成績でした。一方、胚移植周期においては、日長は各項目との間には関連を認めませんでした。

採卵前に気をつけたい体のこととは?

凍結融解周期の胚は、凍結融解手技の影響は受けますが、採卵周期のような高い値のホルモン状態ではないため、子宮内膜の着床環境は、より自然に近い状態であると考えられます。このような状況下で季節の影響を検討すると、季節は胚移植周期の子宮内膜の着床環境には影響しておらず、むしろ採卵周期での卵子の質に影響していると思われます。

この結果からすると、体外受精の治療を受ける際には、採卵周期においては体を冷やさない環境にいることも大切と考えられます。治療を受けている時には、健康にいろいろ気をつけてみてください。

(著者)
齊藤英和

公益財団法人1more Baby応援団 理事
梅ヶ丘産婦人科 ARTセンター長
昭和大学医学部客員教授
近畿大学先端技術総合研究所客員教授
国立成育医療研究センター 臨床研究員
浅田レディースクリニック 顧問
ウイメンズリテラシー協会 理事

専門は生殖医学、不妊治療。日本産婦人科学会・倫理委員会・登録調査小委員会委員長。長年、不妊治療の現場に携わっていく中で、初診される患者の年齢がどんどん上がってくることに危機感を抱き、大学などで加齢による妊娠力の低下や、高齢出産のリスクについての啓発活動を始める。

(著書)
「妊活バイブル」(共著・講談社)
「『産む』と『働く』の教科書」(共著・講談社)

講演・取材のご相談はこちらから