日本の少子化対策は、1990年の「1.57ショック」*を契機とし、子どもを生み育てやすい環境づくりに向けての対策の検討を始め、これまで約30年近くにわたり取り組みが行われてきました。

しかし、出生率が改善されることはなく、2021年は1.30と低迷しています。
では、様々な子育て支援が行われてきた中、現在の子育て環境について、実際に子育てを行っている世代はどのように感じているのでしょう
私たち公益財団法人1more Baby応援団が過去10年に渡って毎年4月に行っている「夫婦の出産意識調査2022」の結果をもとに、考えていきたいと思います。

日本は子どもを産みやすい国、育てやすい国に近づいているか?

まず、「日本は子どもを産み(育て)やすい国に近づいているか」との質問に対し、「あてはまる」「どちらかといえば、あてはまる」と回答した人は、全体では約30%であり、現在子どもがいない既婚者においては約20%にとどまりました。(図1,2)
全体では約70%の人が「子どもを産み育てやすい国に近づいていない」と考えていることがわかります。
この質問については、2018年から5年間にわたり行っていますが、ほぼ変わらない割合となっています。

図1

図2

日本が子どもを産み育てやすい国に近づいていないと考える理由

子育て世代はどのような理由から「産み育てやすい国に近づいていない」と回答しているのでしょうか?その要因についての調査結果をみてみたいと思います。
まず、トップの理由は「社会制度が整っていない(待機児童や国・行政の子育てサポートなどの福祉の問題)」(68.6%)、2位が「保育・学校にかかるお金が高いから」(63.2%)、3位が「給与が低いから、または上る見込みがないから」(60.5%)と続いています。(図3)

図3

政府や自治体が子育て支援に取り組む中、まだまだ「社会制度が整っていない」と考える方が多くいることが分かります。実際の同調査における「二人目の壁」を感じる理由について、下記のようなコメントが並んでいます。

子育てに対しての補償は思っていた以上に薄く、金銭的・時間的な不安は非常に強い。
【福岡県】32歳 男性 既婚_子ども1人 

「夫が多忙でワンオペ気味で、1人育てるのでも大変なのに2人目を考えると躊躇する。政府が児童手当を所得制限したり社会が子育てに優しくないから。」
【青森県】28歳 女性 既婚_子ども1人

「収入が不安定な要素が大きいので1人を育てることで精一杯になると思われるから。また、今後子どもを産むことで自治体からの支援をどの程度受けられるのか不安もあるから。」
【宮城県】36歳 女性 既婚 現在子ども0人

「収入が増えないのに、物価の上昇などで生活費の負担が大きく、将来子どもに様々な教育を受けさせるのに教育費が確保できない可能性があるから。また、所得制限とかもその要因になっていると考える。」
【青森県】27歳 女性 既婚_子ども1人

「思っていた以上に子どもにかかってくる費用は多額なので、実際思っていた理想と現実は違うと1人目を出産して実感させられた。金銭面的に2人目を考えた時に2人を何不自由なく大学に通わせたり子育てをしきれるかと考えた時にやはりためらってしまうというか、不安はあります。」
【茨城県】26歳 女性 既婚_子ども1人

「2人目を育てるにはお金がかかる。配偶者の給与は子どもを1人育てながら生活するには十分だが2人育てるには厳しい。自分が働き出した場合の世帯所得となると何とか育てられそうだが、今後児童手当や行政の教育支援金が所得制限で受け取れなくなってしまう。そうすると2人育てるには確実に厳しい。しっかりした教育を子どもに受けさせたいから、夫婦2人とも10代20代の時から勉学や就職や仕事を頑張ってそこそこの年収を得られるようになったのに、所得制限で子どもが割を食うようでは子どもを育てる気にもなれないから。」
【神奈川県】 35歳 女性既婚_子ども1人

子育てしやすい社会にするために

今回の調査結果から、子育て世代が子育ての基本的な費用や大学までの教育費、自分たちの将来の年金など、長期に渡る不安を感じていることがわかりました。
また、児童手当をはじめとした様々な支援制度に所得制限が設けられていることによって、2人目の出産を厳しいと感じたり、そのような制度の設計から「子育てにやさしくない国」であると感じていることが分かりました。

今の子育て世代や将来子育てを担うもっと若い世代が「子育てしやすい社会」と感じるためには、子どもの成長に合わせた中長期的な支援制度があり、そしてそれは誰もが受けられる仕組みであること、さらにその制度は拡充されることがあっても縮小や廃止はなく、将来にわたって約束された制度であることが必要だと考えます。
このような制度を構築し、社会に子育てしやすい空気が醸成されることが、欲しい数だけ子どもを産み育てられる社会の実現にむけた一歩となるのではないでしょうか。