2017年5月15日(月)、時事通信社と私たち一般財団法人1more Baby応援団による主催のもと、第3回シンポジウム「オランダから学ぶ自治体・企業の働き方改革〜18時に帰る習慣のつくりかた〜」を開催しました。
一般財団法人1more Baby応援団理事長 森まさこ(参議院議員・元少子化対策担当大臣)の挨拶と趣旨説明から始まり、キーノートとして、一般財団法人1more Baby応援団の専務理事である秋山開より、昨秋に行った実地調査をもとにした、世界一子どもが幸せな国であるオランダの「行政と企業の取り組み」を紹介しました。さらに、自治体の取り組みとして髙村謙二氏(裾野市市長)が、企業の取り組みとして長崎健一氏(ソフトバンク株式会社人事総務統括人事本部本部長)が、日本政府の取り組みとして橋本岳氏(厚生労働副大臣 衆議院議員)が、それぞれ基調講演を行いました。その後に行われたパネルディスカッションでは、前出の高村氏、長崎氏、橋本氏に加え、安藏伸治氏(明治大学政治経済学部教授 明治大学付属明示高等学校・中学校校長、元日本人口学会会長)と宋美玄氏(産婦人科医・医学博士)も参加し、日本の働き方改革のために必要なことを3つのテーマに分けて意見を交わし合いました。
1more Baby応援団が昨秋に実施したオランダ調査で得た知見をはじめ、自治体や企業の先進的な取り組み、さらには政府の方針などを交えながら、会場に参加したみなさんとともに「働き方改革」を進める日本が進むべき道について探った今回のシンポジウムの内容についてお伝えします。

待ったなしの日本における働き方改革。
そのヒントは「世界一子どもが幸せな国」にあった

開会の挨拶・趣旨説明 一般財団法人1more Baby応援団 森まさこ

まず、開会の挨拶として、元少子化対策担当大臣であり、一般財団法人1more Baby応援団の理事長である森まさこ(今回は公務のためビデオメッセージでの出演)が、本日のシンポジウムのテーマを紹介しました。今の日本には、仕事と子育てを両立させたり、要介護者を抱えたりしている家族でも、安心して働ける環境の整備が必要であることを指摘。そういった中、今の日本には多様な働き方が求められていると説明。働き方改革は待ったなしの状況であり、その一端として時間外労働の上限規制に関わる労使合意について紹介し、日本が働き方改革を進めるうえで大きなヒントを持つのが、昨年11月に1more Baby応援団が現地調査を行った、「世界一子どもが幸せ」と言われるオランダである旨を述べました。

「18時に帰る」という共通認識を持てたからこそ、
オランダは世界一子どもが幸せな国になれた

キーノート 一般財団法人1more Baby応援団 専務理事 秋山開

次に、一般財団法人1more Baby応援団の専務理事 秋山開が、昨秋に行った実地調査をもとに、世界一子どもが幸せな国であるオランダの「行政と企業の取り組み」を紹介しました。オランダという国を選んだ理由として、2013年にオランダがユニセフによって先進国における子どもの幸福度が世界一とされたことを指摘。続けて、オランダも、30年前は日本と同じように、男性が働き、女性が家庭を守る社会であり、その結果オランダの出生率が、今の日本の数値と同程度の1.46まで低下したと言います。しかし、働き方改革を進めた結果、現在の約1.7にまで回復。その裏付けとして、1moreBaby応援団が毎年行っている「夫婦の出産意識調査」についても言及し、「二人目の壁が存在する」と回答した人の割合が、日本は73.5%である一方、オランダでは26.0%という結果だったことを説明。この結果を見ても、オランダは子育てがしやすい国であることがわかると指摘します。

続いて、オランダにおける働き方改革の最大の転換点とされる1982年に採択されたワッセナー合意をはじめ、労働時間差別禁止法、労働時間調整法、労働とケア法、保育法なども紹介。これらによって、オランダではライフステージに応じて、働き方を自由に選べるようになったことを指摘。さらに、実際にオランダで見聞きしてきた政府や自治体、企業などの具体的な取り組みについても触れました。また、それらの取り組みを支えているのが、「18時に帰る」というオランダ社会で共有している基本的な価値観である旨を述べました。

静岡県内で初となる「時差出勤制度」を導入

自治体の取り組み:静岡県裾野市市長 髙村謙二

続いて登壇し、自治体としての取り組みを紹介してくださったのが、静岡県裾野市の市長である髙村謙二氏。髙村氏は、裾野市についての概要を紹介したうえで、裾野市が行っている人口減少対策と、市役所としての働き方改革をお話しされました。人口減少については、自然増減はプラスである一方で、社会増減でマイナスとなっており、そのうえ子育て世代が転出してしまっている点を強調。今後は住み続けたいと思えるような魅力的な宅地・住宅を提供していきたいと述べました。

さらに、髙村氏は、裾野市役所で2017年5月より完全実施した、「時差出勤制度」を紹介。同制度は、静岡県内の自治体としては初となるもので、たとえば、7時半からの出勤か9時半からの出勤かを職員自身で選ぶことができ、これにより、保育園の送り迎えなどがスムーズになるなどの効果が出ていると言います。また、自治体としての生産性の向上もはかっているそうです。裾野市が、東京からの通勤圏内でもあることを強調したうえで、気軽に遊びに来てほしい、また、ぜひ移住を検討してほしいとお話しされました。

ソフトバンク流の働き方改革・少子化対策とは?

企業の取り組み:ソフトバンク株式会社 長崎健一

次に、企業での取り組みを紹介していただいたのが、ソフトバンク株式会社で人事総務総括人事本部本部長の長崎健一氏。同社では、働き方改革に関して、iPhoneやiPadをすべての社員に支給することや、ペーパーレス化(資料の電子化)によって、場所を選ばない働き方ができる環境を整えたと言います。さらに、これまで掲げていた「ベンチャー精神」「新たに切り拓く」「執念でやりきる」という3つの精神に加えて、「Smart&Fun! ITでスマートに楽しく働こう!」というスローガンを掲げ、進化する新しい技術を使って、クリエイティブでイノベーティブに仕事を行うことを目指していると話します。ITを使ってこれまでの仕事を半分の時間で行い、空いた時間を使って自分の成長のために使うことを促しているそうです。そうして培った知識や能力を仕事に活かすというのが、Smart&Funの基本的な考え方なのだと言います。

働き方改革を促すうえで行っている具体的な施策は、大きく分けて5つ。
いわゆるコアタイムを撤廃した「スーパーフレックスタイム」、メリハリをつけた働き方を推奨するうえで欠かせない「在宅勤務の拡大」、2017年4月から月に1万円支給している「Smart&Funの支援金」、さらに「プレミアムフライデーの積極的導入」や「週1回の定時退社」を実施しているそうです。また、少子化対策についても、手厚い制度を整えていることを紹介。特に、育児休業からの復業率が96%であり、ほぼすべての社員が、育児休業から復帰していることを強調されました。長崎氏は最後に、「情報革命で人々を幸せに」というのが、ソフトバンクの企業理念であり、今後もみなさまの幸せのためにさまざまな面からサポートしていきたいとお話しされました。

日本の労働環境と今後の取り組みについて

国の取り組み:厚生労働副大臣 橋本岳

続いて、現・厚生労働副大臣を務める衆議院議員の橋本岳氏が登壇し、日本の労働環境の現状と、国としての今後の取り組みについてお話しいただきました。今年の3月、政府として「働き方改革実行計画」をまとめたことに触れ、
働き方改革を実行する理由として、人口の減少、その中でも特に労働力人口の減少について指摘。さらに、減少するとされているその労働力人口は、子どもを産み育てていく層でもあるため、「一億総活躍社会」の実現は急務だと話します。また、一億総活躍社会が目指すところは、子育てや介護をする必要があったり、病気になったりしたとしても、きちんと働き続けられることであるとします。その中で、今回、特に橋本氏が問題視していたのが長時間労働。日本の現状は、先進各国に比べて、長時間労働、とりわけ残業49時間以上の割合が高く、フルタイムで働く人の労働時間の長さを指摘。毎年、労災認定されているものだけでも自殺者数(未遂も含む)は、年間100人程度いるとし、こういった方は、本当になくさないといけないと強調します。その一環として、先日、労使での合意に至った、残業時間の上限規制などを挙げていました。また、柔軟な働き方、つまりテレワークに関する既存のガイドラインをさらにわかりやすく実現可能なものに変えていくこと、同一労働同一賃金を目指すために、法律を改正しようと動いていることなどについても触れました。最後に、出生率を高くすること、人として過労死などが出ない働き方を整備すること、そのためには生産性を上げるような取り組みを行うことが必要だとし、厚生労働省としてこれからも引き続き取り組んでいきたいと明言されました。

パネルディスカッション:
オランダから学ぶ日本の働き方改革の方向性

パネルディスカッションでは、フリーアナウンサーである竹内香苗氏の進行のもと、パネリストとして、既出の裾野市長・髙村謙二氏、ソフトバンク株式会社の長崎健一氏、厚生労働副大臣・衆議院議員の橋本岳氏、さらに今回のオランダ現地調査にも参加している明治大学政治経済学部教授の安藏伸治氏と産婦人科医で医学博士の宋美玄氏が登壇されました。

テーマは「ライフステージに応じた働き方の選択」「生産性が評価される人事制度とは」「多様な働き方を認め合う社会の構築」の3つ。これらについて、各々の立場から、さまざまな意見や思いが発せられました。

テーマ①ライフステージに応じた働き方の選択

1つ目の「ライフステージに応じた働き方の選択」について、実際にオランダでの働き方を調査してきた安藏氏は、家族への考え方が違うことを指摘。オランダでは、働く理由は家族のためなのだと言います。したがって、家族の時間を妨害するような働き方はしないというのが基本になっているそうです。オランダ人にとっては、豊かさに対しての渇望よりも、家族が幸せであることが第一義的である一方で、日本は仕事が中心に議論が進んでいるように感じるとも主張し、だからこそ、ライフステージに応じて働き方を選択できるような社会にするためには、まずその価値観から変えないといけないのだと安蔵氏はお話しされました。

また、働き方に関して、橋本氏は正規雇用・非正規雇用という問題もあることを指摘。この点について橋本氏は、同一労働同一賃金も大きなテーマで、課題は正規雇用(フルタイム)で働く人の評価制度と非正規雇用(パートタイム)で働く人の評価制度がまったく違うことだとします。仕事内容が同じであれば、そこに差があるのは非合理的と主張し、政府としてガイドラインの策定を進めていると述べました。

テーマ②生産性が評価される人事制度とは

2つ目は「生産性が評価される人事制度とは」を話し合いました。特に、今、いろいろな企業で進められているテレワークについて、大変興味深いお話がありました。ソフトバンク株式会社の長崎氏は、テレワークにおける管理や評価は、役割と成果で評価していると主張。さらに、週3日まで可能としている在宅勤務についても、実際には多くの社員が週1〜2回の在宅勤務となっているうえ、自宅でもまったく同じように業務を行えており、問題は起きていないとのことでした。管理方法については、最低限のルールを決めているとし、「勤務を開始するときに上司にメールで連絡を入れること」「在宅勤務中は常に電話を取れるようにしておくこと」「勤務を終えるときにはその日の仕事の成果を報告する連絡を入れること」の3つを紹介し、こうしたやり方で、きちんとした管理ができていると感じていると述べました。

産婦人科医であり、2児の母親でもある宋美玄氏は、在宅勤務について、子どもが普通に起きている時間は、在宅だろうとカフェだろうと、まったく仕事にならないと主張。「在宅なら、子育てと仕事を両立できるだろう」という前提で考えるのは、本当にやめてほしいとお話しされました。

テーマ③多様な働き方を認め合う社会の構築

3つ目は「多様な働き方を認め合う社会の構築」です。この点について、裾野市長である髙村氏は、そもそもどうして困っているのかがわからないと、助けようがないことを指摘。だからこそ自治体として、地域の中に話し合いの文化を作っていくことが大事であると述べます。その中で、“適度な田舎”であるとする裾野市では、地区ごとに抱えている課題(介護問題や子育ての問題)を、自分たちで解決するような場作りをお手伝いすることで、多様な働き方を認め合う社会の構築につなげていきたいと語りました。

さらに、多様な働き方について、宋氏は、誰かが多様な働き方をしていることで、他の人にしわ寄せがいくのならば、それは認めづらいことだと指摘。だからこそ、大前提として、人手が足りていないといけないとお話しされました。

以上の3つのテーマで話し合ったパネルディスカッション。パネリストたちからは、歯に衣を着せぬ意見が多数飛び交っていたこともあり、たくさんの示唆に満ちていました。ぜひ、参加者のみなさんには、今回のシンポジウムで得た知見を、各企業や団体などで共有し、実行に移していってほしいと感じました。

このような錚々たるメンバーでおおくりした今回のシンポジウム。実際に日本で働き方改革に取り組む企業や自治体、専門家を交えた議論ができただけあって、単にオランダのことを紹介するだけにとどまらず、今後の日本が進むべき方向性へのヒントを探ることができたのではないでしょうか。

また、シンポジウムの後に行われた懇親会でも、来場者や登壇者のみなさんで、積極的な情報交換や議論が交わされていました。

最後になりましたが、今回参加してくださったすべてのみなさま、どうもありがとうございました!