公益財団法人1more Baby応援団

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みなさんの住んでいるまちは、子育てしやすいですか?
「YES」だという人も、「NO」だという人も、
その「理由」を深く追求したことがあるでしょうか。

2016年3月17日(木)、静岡県裾野市と長泉町の主催、私たち公益財団法人1more Baby応援団による運営のもと、「みんなで子育てするまち」と題したシンポジウムを開催しました。

今回のシンポジウムでは、裾野市長・高村謙二氏、長泉町長・遠藤日出夫氏、1more Baby応援団から安藤哲也氏(NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事)と産婦人科専門医でありテレビのコメンテーターとしても活躍する宋美玄氏にご登壇いただきました。さらに、パネルディスカッションでは、実際に裾野市・長泉町で生活をする4人のさまざまな立場の方にも参加していただきました。

開会の挨拶・趣旨説明

裾野市長 高村謙二

合計特殊出生率2.07を目指して、
あらゆる力を総結集することが大切

「『みんなで子育てするまち シンポジウム』は、まち・ひと・しごと創生における、大きなテーマです」というお話から始まった高村氏の挨拶では、まず人口減少が大きな日本の社会問題である旨が述べられました。

その中で高村氏は、「子どもから大人まで楽しく笑顔あふれるまちづくりを進めていくためには、やはり少子化問題に対し、行動を起こさなければなりません」としています。

実は、裾野市と長泉町は共に合計特殊出生率が1.82と、静岡県内35市町の中でトップであり、都道府県別に見ると、同率が1.8を超えているのは沖縄県のみ。つまり裾野市や長泉町は、これまでの少子化対策について、一定以上の成果をあげているといえるかもしれません。

しかし高村氏は、「(両市町とも)2.07まで引き上げることを目標にしています」といいます。「この目標は決して簡単に達成できるものではない」としながらも、「出産・子育てに直面している子育て世代だけ」ではなく、「子育て世代を取り巻く、あらゆる力を総結集する」ことで、この高い目標を達成することができると言います。たとえば、「日常生活での道路、公園、お店などでのちょっとした配慮」や、企業ならば「従業員の方々が働きやすく、家族との時間を持てる働き方、そういうものを追求していくことが大切」だと語りました。

基調講演①

ファザーリング・ジャパン代表理事 安藤哲也

イクメン・イキメンで人生を楽しむ男性が増えれば、
まちは自然と豊かになっていく

「男性の人生において、働くことだけがあなたの人生ではなく、家族を持ったのだったら、家族と一緒に人生を楽しむことが大事なのです」という父親が家族や地域を育てる役割を担うことの大切さについてお話いただいたのは、ファザーリング・ジャパンの代表理事を務める安藤哲也氏。安藤氏自身、3人の子どもを育て、その間には保育園や児童クラブの父母会長や、企業で管理職として働きながらPTA会長を務めた経験を経て、父親として大きな喜びを感じてきたと言います。

さらに、地域のパパ友、ママ友、ジジ友、ババ友たちと築いていたネットワークが、東日本大震災のときに大きな助けになったというエピソードも。そのときには、「大事なのは遠くの親よりも、近くのパパ友なんだ」ということを肌で感じたそうです。安藤氏は、「父親はイクメンだけじゃなく、イキメン、つまり地域で活躍する男性」になっていくことの重要性を語りました。

もちろんそうした父親の育児参加は、一筋縄ではいきません。安藤氏も、「そういった今の30代のイクメン世代は、『子どもを産んでも女性も働くよね』あるいは、『男性も子どもができたら育児をするのはあたりまえだよね』って思っている。ですので、そういう意識はどんどんよくなっていくんだけど、やっぱりその地域やあるいはその職場の問題がある。ここをなんとかしたい、ということです」と、父親の育児参加には、本人の意識以外の部分での施策や地域社会の協力が必要であることを強調します。

「夫婦関係の構築、子どもの教育だけでなく、企業にとっても、生産性の向上やメンタルヘルスの改善による離職率の低下などにもつながる」という父親の育児参加。そして、仕事だけでなく人生、育児、趣味、介護、地域活動といった寄せ鍋型のワーク・ライフ・バランスを整えることで、自分の人生を楽しめることにもつながるのだとか。そういう男性が増えていけば、まちも自然と豊かになっていくのだと、安藤氏は語りました。

基調講演②

産婦人科専門医 医学博士 宋美玄

ママはこうあるべきと決めつけない

「産婦人科医を15年間くらいやっているのですが、この間40歳になって、35歳と39歳で、2回高齢出産をしています。現在絶賛授乳中です」という自己紹介から始まった産婦人科医の宋美玄氏のお話では、「ママとはこうあるべき」と決めつけるのではなく、「赤ちゃんが可愛い」と思えているならそれだけでいいとまわりがサポートしてあげることの大切さを、ご自身の経験から語っていただきました。

さらに、妊娠・出産がいかに医学的に見て、母親の身体や精神が激動の時期にあるかについても説明。たとえばマタニティブルーズについては、「ドラマとかだと、『子どもができたけど、ちゃんと育てられるかしら』というように表現したりしますが、実はそうではなくて、出産の前後にジェットコースターのようにホルモンバランスが変わることです。抜け毛くらいだったらいいんですけど、体調も変化するし、メンタルにも影響がある」と、産前・産後のママへのケアがいかに大切かを述べました。

また、頻繁に話題にあがる授乳についても、「お母さんがどれくらい頑張りたいかというのを、まずは聞いてみることが重要」だとし、母乳じゃないといけないだとか、粉ミルクを使えば父親も育児参加できて合理的だなどと、決めつけないこと、正解がないことを頭に入れた上で、周囲がママに寄り添ってあげてほしい、と宋氏は言います。

みんながハッピーに過ごすために、「お母さんの体と心や、まわりの環境で起こっていることを、ぜひお母さん以外のまわりを取り巻くかたが理解をしてあげて、お母さん・お父さんが、楽しく我が子を可愛いと思いながら子育てできるようなサポートというのをしてもらえたら」というお話で締めくくりました。 

パネルディスカッション

「みんなで子育てするまち」の実現に向けて

パネルディスカッションは、安藤哲也氏の司会進行のもと、裾野市に工場を構えるライオンファイル株式会社代表の勝又規雄氏、子育て支援団体のどっか〜ん裾野の代表柏木江里香氏、元子ども会会長の尾崎徳行氏、元小学校PTA会長の鈴木真澄氏、そして基調講演をしていただいた宋美玄氏を交えた5人に参加していただきました。

テーマは全部で4つ。「父親の育児参加はなぜ必要か」「ママ友・パパ友は、出産育児にどんなメリットがある? ママ友・パパ友を作るにはどうしたらいいの?」「企業に求められている子育て支援について」「子育て世代が“住民が優しい・温かい”と感じるまちとは?」について、それぞれの立場から、多様な意見が飛び交いました。

最初の「父親の育児参加」については、宋氏から「なぜ必要と考える前に、父親が育児に参加しなかったらどうなるかを考えるべき。母子が孤立すれば、第二子以降の出産にも、親子の幸福にもつながらないので、とやかく言わずに父親には育児に参加してほしい」というお話がありました。また、実際に複数の子どもを育てている柏木氏、鈴木氏からも実体験をもとにした父親の育児参加の大切さが語られました。

「ママ友・パパ友を持つことのメリット」については、「安心感が得られる」「情報交換ができる」「地域社会と関われる」という意見がありました。
「ママ友・パパ友はどうやって作るか」という点については、「子どもを接点にして自然とできた」「幼なじみがそのままパパ友になった」といった意見があった一方で、「特に必要だとは思わない」という声もありました。その理由として、「仕事が忙しいから、空いた時間は家族だけで過ごしたい」などが挙げられていました。

「企業に求められる子育て支援」については、勝又氏が「雇用の安定が第一。そのために、休日を二時間単位で取れる制度を設けるなど、休みを取りやすくした」というお話がありました。その結果、同社では、高い出生率を誇っていると言います。また、「企業にはイクボスが必要だ」という意見も出ていました。

「子育て世代が“住民が優しい・温かい”と感じるまち」については、「子ども会」という地域活動の仕組みが尾崎氏により紹介されました。同組織によって、地域の人が子どもを育てるという意識は「もともとある」と言います。その中で、「地域活動に積極的に関わりたい父親を探すことが重要」という意見もありました。

みんなで子育てするまち 行動指針発表

裾野市と長泉町は、理想の数だけ子供を産み育てられるまちづくりに取り組んでいます。そのためには子育て支援に関する制度だけでなく、地域や企業の風土もとても大切だと考えています。子育て世代に優しく子どもの笑顔があふれ、住民一人ひとりが未来への希望を感じられるまち、それがこれから目指すみんなで子育てするまちです。それを実現するための行動指針を、裾野市長高村謙二氏が以下のように発表しました。

  • 1. 私たちは子どもを見たら優しくほほえみかけます
  • 2. 私たちは、泣いている赤ちゃんに対し、笑顔を振り向けます
  • 3. 私たちは、優先席でなくても妊婦さん・赤ちゃん連れの方に席を譲ります
  • 4. 私たちは、まちの中、車の運転時、ベビーカーや子どもを見守ります
  • 5. 私たちは、ベビーカーの階段の上げ下げ、ドアの開閉、電車やバスの乗降を
    積極的にお手伝いします
  • 6. 私たちは、赤ちゃんや子どもを連れての買い物や食事を歓迎し、困っていればサポートします

イクボス宣言

裾野市長 高村謙二・長泉町長 遠藤日出夫

「みんなで子育てするまち行動指針」を、まずは行政が実行すべく、この日、裾野市長高村謙二氏、長泉町長遠藤日出夫氏、裾野市役所、長泉町役場の管理職の代表者総勢25名が、イクボス宣言を行いました。

イクボス宣言

私は街中に笑顔あふれる、みんなで子育てする街の実現に向けて、組織としての成果をあげつつ、職員それぞれのワーク・ライフ・バランスの実現を支援し、自らの仕事と私生活を楽しむイクボスとなります。
私は企業や各種団体と連携し、イクボスを増やし、地域全体で子育てを尊重する子育てに優しい地域づくりに取り組みます。

裾野市長 高村謙二
長泉町長 遠藤日出夫

閉会の挨拶

長泉町長 遠藤日出夫氏

産業界、子育て世代、地域、行政が一体となって
地域全体で子育てする気運を醸成したい

最後に、長泉町長の遠藤日出夫氏から、閉会の挨拶がありました。遠藤日出夫氏は「先ほど、高村市長と私が宣言しましたとおり裾野市と長泉町は、これからみんなで子育てするまちの実現にむけ、産業界、子育て世代、地域など、あらゆる立場の方々と、行政が一体となって地域全体で子育てする気運を醸成する取り組みの推進を図って参ります」と述べ、そのためにも、「広く地域全体を対象に課題の想いを共有するための情報発信や、各分野における理解を深めるためのワークショップ、セミナーの開催、今回のようなシンポジウムを開催していきたい」と語りました。

「みんなで子育てするまち」というテーマについて話し合った今回のシンポジウム。 やはり子育てにおいて大切なのは、子育て世代だけではなく、あらゆる立場の人が当事者意識を持つことだということを感じました。

行政の制度や施策も重要なことですが、それ以上に一人ひとりの意識をどう変革させるかということにつきるのではないでしょうか。