先回は、一日の生活習慣が陰嚢(いんのう)表面温度に影響すること、パソコンを膝の上で長時間作業すると陰嚢表面温度が上昇すること、肥満も陰嚢表面温度の上昇に影響していること、陰嚢表面温度の上昇が造精機能を障害し、1℃上昇すると精子濃度が40%下がることについての論文をご紹介しました。今回も引き続き、生活習慣で造精機能に影響を及ぼす可能性がある習慣について研究した論文をご紹介しましょう。

サウナは精子の質と数に影響する?

サウナはどうでしょうか?リラックスするので、多くの方が利用されていると思います。全身の体温も上昇するため、当然陰嚢表面温度も上昇します。サウナが造精機能に及ぼす影響について研究した論文があるのでご紹介します( Garolla, A et al. Human Reproduction 28, 877–885.2013. )。

この研究では、健康な10人の男性にフィンランド式サウナ( 摂氏80から90℃、湿度20から30%のサウナに15分間、 週に2回 3ヶ月間)に入ってもらい、 サウナ開始前とサウナに3カ月間入った後の精液所見と、精子の遺伝子やミトコンドリアの変化について調べています。 サウナ後は、「サウナ3か月終了直後」、「終了から3か月後」、「6か月後」の3回のタイミングで精子の状態を検査しています。図1を見てください。

サウナ開始前と比較すると、3か月間サウナに入った直後の精子濃度と総精子数は優位に低下しています。また、サウナ終了後から3ヶ月経った時点では精子濃度、総精子数は回復傾向を示し、サウナ終了6か月後では、ほぼサウナ前の状態に回復しています。また、この研究では精子の数ばかりでなく、精子の質についても検討しています。サウナ前とサウナ直後を比較すると、精子の質にかかわる因子である精子染色質の凝縮や、ミトコンドリアの機能も影響を受けていることが証明されており、サウナ終了後3か月、6か月後には回復していました。これらの結果からすると、サウナを利用していても妊活して妊娠している人は多くいると思いますが、もし、妊活中なのになかなか妊娠できない時は、一時的にサウナ習慣をやめたり、または長時間お風呂に入る習慣を中止してみるのも良いかもしれません。

精子に良い下着の選び方

陰嚢表面温度と精子の関連の研究はこれ以外にも数多く行われているので、さらにいくつか、ご紹介しましょう。まずは下着と陰嚢表面温度について検討した研究についてお話しします(Jung, A.,et al. 2005. Human Reproduction 20, 1022–1027, 2005)。図2を見てください。

この研究では、「ゆるい下着」と、「きつい下着」を付けた時と、「下着を付けない状態」の3つの状態で、歩行した時と座っているときの陰嚢表面温度について測定しています。座っているときは、「ゆるい下着」、「きつい下着」、「下着を付けない」の3つの状態とも、時間が経つにつれて陰嚢表面温度は上昇し、30分ぐらい経過すると温度はほぼ同じ温度になり、一定になります。座った状態を開始した時点では、下着を付けた状態と比較すると、付けない状態は0.5℃ぐらい低値です。また、「きつい下着」と「ゆるい下着」の比較では、ゆるい下着の方が全経過中において少しだけ低温でした。

立って歩行中の場合は、座っているときと比較すると3条件とも低温値を示し、低い方から「下着を付けない」、「ゆるい下着」、「きつい下着」の順番でした。このことからも、長く座っていることをなるべく避け、歩く動作を入れることと、「きつい下着」よりは「ゆるい下着」を選択することが考慮されるべきと思われます。

また、「ゆるい下着」と「きつい下着」を使用した際の精子濃度、総精子数、総運動精子数を比較した研究した報告もあります。(Lidia Minguez-Alarcon L et al. Human Reproduction 33; 1749-1756,2018)。この研究ではゆるい下着を付けたほうが精子濃度は高く、総精子数、総運動精子数も多いと報告しています。これらのことより、妊活してもなかなか妊娠に至らない方は、ゆるい下着を付け、陰嚢表面温度を下げ、精子の所見をよりよくすることも一つの方法だと思われます。

テレビの視聴時間と精子濃度の関係性

座っていると陰嚢表面温度は上昇しやすいことからすると、上記以外にもいろいろな生活習慣を考え直す必要がありますね。例えば、長時間テレビを見ている方の精子濃度に関する研究があります(Priskorn, L et al. American Journal of Epidemiology 184, 284–294.2016.)。この研究には1210人の健康な男性が参加しています。一日のテレビを見る時間が0時間の人では、平均精子濃度は5200万/mlであるのに対して、テレビを一日5時間以上見る人では3700万/mlと、有意に濃度が低下していました。また、総精子数もテレビを見る時間が0時間だと15,800万である一方、5時間以上テレビを見る人では104,000万と減少していました。長時間座ってテレビを見る習慣がある人は、気を付ける必要がありますね。

最後にお伝えしたいこと

生活習慣として長年行ってきたことが、造精機能に影響する可能性もあることを注意していただきたくために、今回取り上げてご紹介しました。しかし、このような習慣がある人のすべてが不妊となっているわけではありませんので、妊活してもなかなか妊娠にたどり着けない夫婦の場合には、これらの生活習慣にも注意されるとよいと思います。あまり敏感になって、あれもしない、これもしないだとかえってストレスでよくないと思います。適度に心配されて、ご自分の妊活に生かしてください。