妊娠し難くなる病状をもつ疾患である多嚢胞性卵巣症候群は、このコラムでも何回か取り上げていますが(多嚢胞性卵巣症候群の原因と対策は?~多くの人に共通するビタミンDとの関係性~ / 不妊の原因となる多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)~その治療法と自分で出来ること~)、妊娠を考えている方にとっては、大きな影響がある病態です。月経不順があることも多く、場合によっては月経があっても排卵を認めない無排卵周期症や、無月経症であったりします。このため、妊娠し難い状態となります。

多嚢胞性卵巣症候群になる人の特徴について

欧米では、この疾患は肥満の方に多いのですが、日本を含めたアジア人では、肥満の方はそれほど多くはありません。また、この疾患の身体的特徴として男性化があり、欧米では多毛など身体的男性化が顕著なことが多いと言われていますが、日本人はその傾向が弱いです。

検査結果では、AMH(抗ミユラーカンホルモン)、男性ホルモン、LH(黄体化ホルモン)が高値で、経腟超音波検査では卵巣に小さな卵胞を多数認めます。治療法としては排卵誘発法が一般的でクロミッド®やレトロゾール®といった経口排卵誘発剤やFSH(卵胞刺激ホルモン)製剤の注射が用いられています。これらの排卵誘発剤である程度の成果が得られていますが、単一卵胞発育がなかなか難しく、複数の卵胞が発育して多胎になることもあり、妊娠中の母体にリスクとなることがあります。どうしても多数の卵胞が発育してしまう人には、体外受精法による治療をお勧めしています。このように、多嚢胞性卵巣症候群の根本的な原因が不明のこともあり、この疾患の治療には、薬剤投与による医学的な介入が一般的に行われてきました。

 前回のコラム「不妊の原因となる多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)~その治療法と自分で出来ること~」でお話したように、できるだけ薬に頼らず、ご自分の努力で体の状態をより良い方向に変えていくことができれば、これに越したことはありません。前回のコラムで、自分が出来ることとして、①運動をして筋肉を増強すること、②間食を止めること、の2点をご紹介しました。今回は面白い論文を見つけたので、ご紹介します(Shang Y, Zhou H, He R, Lu W.Front Endocrinol (Lausanne). 2021 Nov 1;12:735954. doi: 10.3389/fendo.2021.735954. eCollection 2021.PMID: 34790167 )。

多嚢胞性卵巣症候群の改善には食事が大切?

この論文は、多嚢胞性卵巣症候群と食事療法を検討した1113論文をメタ解析した論文です。1,113本の論文から今回の研究を行うにあたって研究方法が妥当な20論文を抽出し、検討しています。その結果、多嚢胞性卵巣症候群の人に食事療法を行うことで、性ホルモン結合グロブリンが上昇し、AMH・男性ホルモンを減少させると共に、男性化の兆候を軽減し、臨床妊娠率や排卵を改善、月経周期を正常化し、妊娠後の流産率を低下させる効果あったと報告しています。すなわち、食事療法によって、多嚢胞性卵巣症候群の状態を改善できる可能性があるとのことです。多嚢胞性卵巣症候群の原因は、まだ解明されていませんが、もしかすると、糖尿病のように食生活の影響を多分に受けている病態なのかもしれません。

どんな食事内容が効果的か

この研究で用いられた食事療法は、①低炭水化物食、②低グリセミック指数/負荷食、③DASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食、④地中海式食事で、肥満や糖尿病、高血圧、心血管疾患、癌、認知症の予防、リスク軽減にも良いと言われています。

①低炭水化物食

低炭水化物食は、米やパン、麺類、じゃがいも、果物など、炭水化物(糖質)を多く含む食品の摂取を制限して、代わりに肉や魚、卵、チーズ、バターなど、タンパク質と脂質が豊富な食品を積極的に食べる食事です。低炭水化物食には、さまざまな方法がありますが、動物性食品の飽和脂肪酸やコレステロールを過剰摂取することを避け、食物繊維の多い全粒穀物、シリアル、玄米、野菜、大豆、豆類、ナッツなどを摂取することが大切です。

②低グリセミック指数/負荷食

 低グリセミック指数/負荷食は、肥満や糖尿病の予防や改善を目指すために、食品が血糖値に与える影響を示す指標であるGI(グリセミックインデックス)やGL(グリセミックロード)をもとに、低GI・低GLの食品を選んだり、食べる順番や噛み方などで血糖値の上昇を抑えることで、脂肪の合成や蓄積を防ぎ、健康的な体重管理を目指します。低GIや低GLの食品には、全粒穀物、ナッツ、豆類、果物、非でんぷん質野菜などがあり、高GIや高GLの食品には、ジャガイモ、白米、白パン、甘い食品などがあります。

③DASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食

DASH食の特徴は、果物、野菜、全粒穀物、低脂肪の乳製品などを多く摂り、食塩、砂糖、飽和脂肪などを減らすことです。これにより、カリウム、カルシウム、マグネシウム、食物繊維などの栄養素をバランスよく摂取できます。

④地中海式食事

地中海式食事は、地中海沿岸の国々の伝統的な食事スタイルであり、その特徴は、植物性食品を中心に据え、オリーブオイルを主要な脂質とした食事です。肉や卵、乳製品を控えめにして、野菜と豆、穀物と魚を多めに摂るようにします。

これらの食事を摂取してから効果が表れるのは6か月以降のことが多く、長く続けるほど効果が大きくなるそうです。また、これらの食事のうち、低炭水化物食は妊娠に関わる結果に大きく関与しており、さらにこれらの食事の総カロリーを制限すると、男性化兆候の改善が著しいそうです。

現代は仕事等に忙しく、食事になかなか気を配れませんが、単にカロリーだけに気を配るのではなく、それぞれの食品の摂取バランスについても気を配ることが体の健康を維持し、また不妊症の状態から脱却できる可能性があるため、ぜひ意識してみてください。