皆さん、こんにちは。国立成育医療研究センターで周産期・母性診療センターの副センター長をしている齊藤です。

私は、産婦人科医として、長年にわたって不妊治療の最前線に立ってきました。そうした中で、みなさんにぜひ伝えたいのが、〈正しい妊娠・出産に関わる知識を知ったうえで、自分に合ったライフプランを立ててください〉ということです。

前回は主に男性に関する医学的な事実を見てきました。今回は、女性に関する妊娠適齢期について、妊娠率と流産率に分けて考えていきましょう。

20代後半でもすでに妊娠の確率は下がっている

本稿では、妊娠率について考えてみます。妊娠は、卵子が卵巣から排卵する時期にタイミングを取る(性交を行う)と、精子と卵子が出会う(妊娠する)確率は、100%ではありませんが、もっとも高くなります。排卵時期とタイミングがずれると、当然のことながら妊娠率は低下します。

ですから、排卵日周辺を横軸に取り、その時期のタイミングによる妊娠率を縦軸に取ると、排卵日を中心に山型となります。次の図7を見てください。このグラフは年齢を3つのグループに分けて、それぞれのグループでのタイミングの時期とその妊娠率の関係を表したグラフです。

各年齢のグループのピークに注目してください。いちばん若い19〜26歳のグループでもピークは約50%です。27〜34歳のグループのピークは約40%、35〜39歳のグループでは約30%になっています。すなわち、20代の後半からタイミングによる妊娠の確率が下がるということがわかります。

また、このグラフには実線と破線があり、破線のグループは女性よりもパートナーである男性の年齢が5歳以上高齢のグループの妊娠率を表しています。実線と破線が明らかに離れているのは、女性が35〜39歳のグループです。つまり、この破線グループは男性の年齢が40歳以上となり、男性でも40歳を超えると相手の方を妊娠させる能力が低下することがわかります。

「卵子の老化」と呼ばれる現象は、卵子の“数”と“質”。

妊娠率に影響を及ぼす因子として、「卵子の老化」がクローズアップされたことがあります。でも、いったいこの「卵子の老化」とは、医学的に見てどのような現象のことなのでしょうか?

医学的な見方をすると、「卵子の老化」には2つの現象があります。一つは、「卵子の数」の減少で、もう一つは「卵子の質」の低下です。

このうち、「卵子の質」を評価するホルモンや物質は、まだ医学的には明確にされていません。しかし、「卵子の数」に関しては、卵子の数を推定できるホルモンの測定ができるようになりました。卵子の数と年齢との関係は、図8にあるように、すでに1971年に調べられています。

図8の調査によると、卵子は母親の子宮内にいるとき、すなわち胎児のときには作られていて、妊娠5か月の頃にピークをむかえます。このとき、約700万個の卵子ができます。しかし、母親のお腹から出てきたときには、約200万個に減少し、思春期(月経が開始する頃)には20~30万個と、さらに減少します。

つまり、卵巣にある卵子の数は、排卵をしていなくても減少していくのです。そしてこれは、病気ではまったくありません。生理的に、自然に起こっていることなのです。思春期には20~30万個あった卵子の数は、閉経をむかえる50歳頃にかけて、0個まで減少します。

もしかしたら、皆さんの中には、「一回の月経周期に普通1個排卵されるのだから、1年では12個、40年間で480個しか減少しない」と思われておられる方もいるかもしれません。しかし、この図8からもわかるように、思春期には20~30万個あった卵子は、どんどんなくなっていくのです。このような現象を知っただけでも、人は加齢にともなって妊娠しにくくなることが推測できると思います。

先ほど、「卵子の数を推定できるホルモンの測定ができるようになった」とお話ししましたが、そのホルモンの名称は、AMH(抗ミュラー管ホルモン)といいます。このホルモンは採血をして測定します。このホルモンを各年齢で測ってみると、図9のようになります。

この図では、各年齢のAMHの平均値(標準偏差*)と中央値*が記載されています。平均値で見ると、やはり若い20代が高く、加齢とともに低下することがわかります。このことから、AMHには、卵巣の卵子の数が反映されていることがわかります。

(*標準偏差とは、数値のばらつき具合を表すもの)
(*中央値とは、すべての数値を小さい(大きい)順に並べたときに、ちょうど真ん中にくる数値のこと)

「卵子の数」は個人差があり、年齢だけでは推測できない

ここで注目していただきたいのは、標準偏差が大きいということです。25歳でも、標準偏差における下限にいる人は、平均でいうと47歳と同じ程度の卵子の数しか持っていないことになります。また、44歳で標準偏差の上限の人だと、36歳の人と同じぐらいの卵子の数を持っていることになります。

すなわち、持っている卵子数は個人差が大きく、年齢だけでは推測できないということです。ですから、44歳で妊娠できた人がいたとしても、すべての44歳が妊娠できるのではないということです。妊娠できる人もいれば、そうでない人もいるということです。ですから、たとえばワイドショーなどで、高齢の女性タレントの妊娠・出産の話が話題にあることがありますが、そのときに20〜30代の女性視聴者が「自分も高齢出産で大丈夫」と思うのは、やや軽率だと言えるでしょう。もちろん、そのタレントと同じように高齢の女性が、「精神的に励まされた」と感じる分には悪くないことですが。

また、一般的に平均や標準偏差というのは、標準偏差の上限より上、または標準偏差の下限より下に、それぞれ15%程度いると言われています。そのことを考慮すると、たとえば、20代の後半でも、かなり妊娠が厳しい人がいることが推測されます。

つまり、人が持っている平均の卵子数は、年齢とともに減少しますが、その個人差は大きく、若くて少ない人もいれば、高齢でも数多く持っている人もいる、ということです。これは、ぜひ知っておいていただきたい大切なことです。そして、妊娠を望む方であれば、「妊娠するには、なるべく早く妊娠時期を計画するほうがよい」ということも頭に入れておくことも大切です。

こうした話は、病気を持っていない健康な方が、加齢によって妊孕性が低下するという説明です。ですから、これに病気が加わると、さらに妊孕性は低下する可能性があります。特に、生殖年齢における加齢にともなって増えてくる子宮内膜症は、大きく妊孕性に影響します。

今回は女性の妊娠適齢期を考えるうえで重要な、妊娠率について見てきました。次回は、もう一つの大きな要因である流産率について、医学的なデータを見ながら考えていくことにします。

(著者)
齊藤英和

公益財団法人1more Baby応援団 理事
梅ヶ丘産婦人科 ARTセンター長
昭和大学医学部客員教授
近畿大学先端技術総合研究所客員教授
国立成育医療研究センター 臨床研究員
浅田レディースクリニック 顧問
ウイメンズリテラシー協会 理事

専門は生殖医学、不妊治療。日本産婦人科学会・倫理委員会・登録調査小委員会委員長。長年、不妊治療の現場に携わっていく中で、初診される患者の年齢がどんどん上がってくることに危機感を抱き、大学などで加齢による妊娠力の低下や、高齢出産のリスクについての啓発活動を始める。

(著書)
「妊活バイブル」(共著・講談社)
「『産む』と『働く』の教科書」(共著・講談社)

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