現在、異次元の少子化対策が盛んに議論されています。若いころから仕事とともに家庭も充実したものになるような政策が打ち出され、実行されていくと、若いころから妊娠・出産を計画することができるようになるので、多くの人が不妊で悩まずに済むようになります。現状がどの程度改善されるかが楽しみです。

さて、今回は比較的高齢になってから体外受精を受けることになった人のうち、体重が適正範囲を逸脱し、肥満や痩せとなっている人の場合について考えてみることにします。

妊娠・出産のリスクを軽減する体重について

 肥満や痩せに関しては、一般的な健康にも影響しますし、妊娠・出産にも影響することは何回かお話ししてきました。

①体外受精での流産と体重の関係性について~体重が正常胚(正倍数体胚)移植の成績の及ぼす影響
妊娠と体重の関係について~あらゆる年齢層の方ができる妊活①

適正体重は、BMIで19~24付近だと言われており、体重がこれより重い場合も、軽い場合も、健康や妊娠・出産に対する様々なリスクが増してきます。私が診ている患者では、BMIが19より低い患者さんの方が多数ですが、BMIが24以上の方も一定数います。肥満の人が痩せるだけでも妊娠しやすくなり、妊娠出産時のリスクも軽減できるので、治療を開始のする際には減量を考えることをお勧めします。

しかし、高齢な患者さんの場合、高齢化に伴う妊孕性の低下も考慮する必要があります。体重を減量・増量させることは簡単ではなく、適正体重になってから体外受精の治療を開始することにする場合、体重の減量または増量のために長期間にわたり不妊治療を延期することになり、患者さんにとっては必ずしも得策ではありません。では、年齢と肥満・痩せの状態で、体外受精を先に行うべきか、または体重の減量・増量を先に行うべきか、これについてどのように考えればよいのでしょうか?

 この問題を研究した論文があります(Rafael F, et al. Hum Repro 2023 Mar 16; dead042.  doi: 10.1093/humrep/dead042. Online ahead of print)。この論文は、後方視的研究で、18の体外受精クリニックで体外受精を行った14,213人を、体重別に「やせ群(BMI<18.5kg/m2)」、「最適群(18.5-24.9kg/m2)」、「過体重群(25.0-29.9g/m2)」、「肥満群(>=30.0kg/m2)」に分け、各年齢における採卵1回あたりの累積生児獲得率(一回の採卵手術で受精し、発育した総ての胚を新鮮胚移植、または採卵周期で凍結し、後の月経周期に胚を融解移植する治療により生児を得ることができた確率)を算出しています。年齢、BMIは採卵時の値を用いています。また、卵胞刺激法や培養液は、各施設の判断により決定されています。また、自然周期や低刺激の卵胞刺激患者は、この研究からは除外されています。さらに、提供卵子を用いた治療や妊孕性温存のための卵子凍結治療も除外されています。

年齢と体重で考える治療の優先順位について

表を見てください。この表は、30歳から43歳の各BMI群別の累積妊娠率です。各年齢の累積妊娠率は、BIMが適正群で最も高く、これより痩せていても太っていても低くなっています。このことから、年齢がいくつであっても、適正体重であることが、妊娠には大切なことがわかります。では、痩せの人や肥満の人が適正体重になるために1年を要すると仮定し、何歳だと体外受精の治療よりも体重の適正化を行った方がよいか、この表を使って検討してみましょう。

先ず、過体重群の人が1年かけて適正体重になったときに、1年後の適正群の累積生児獲得率が体重を減らそうとしたときの過体重群の累積生児獲得率よりも高ければ、年齢は1歳高齢になるものの体重を減らす意義があります。
このことから、過体重群では翌年の適正体重の累積生児獲得率が高くなるのは、34歳までです。
35歳以上の場合、最初に体重を減らす意義はなく、最初から体外受精を受ける方が累積妊娠率が高いということになります。
肥満群の人が1年かけて適正群の体重になる場合では、38歳までは最初に体重を減らす意義があります。
また、やせ群では32歳までは最初に体重を増やす意義があります。この情報を得て、頑張ることができる方は頑張ってみてください。

年代別に推奨する治療と体重の優先順位について

しかし、多くの方がご経験されたことがあると思いますが、2,3㎏痩せる、または太るのだけでも結構苦労します。体重の増減に1年以上かかってしまう場合は、体重適正化の意義が得られる年齢も変わってしまいます。ですので、この情報を知っても迷ってしまう人も多いと思います。充分に検討しても、1年間で適正体重にできることに確信が持てる方は、あまり多くないと思います。

ここからは私見ですが、私が考えるに、20代の方であれば先ずは適正体重を目標にして1年は頑張ってください。30代の方は、日々の体重コントロールに努力しながら、時を置かずして体外受精を選択していくことを提案します。私の診ている患者さんの多くは、なるべく早く妊娠したいと考えています。その場合治療として体外受精が必要であるならば、時を置かずして体外受精を選択していくことの方が、精神的ストレスも少ないと考えています。また、体重も重要な因子ですが、年齢が上がることも妊娠・出産の時だけではなく、その後の子育て期間中のリスクに影響します。

妊娠とは出産で終わりではなく、その後の20年以上の子育て期間も考慮に入れ、考えるべきだと思っています。今回、この記事をお読みいただいたことを機に、もう一度ご自身の健康状態やライフプランを考えてみていだけると幸いです。