不妊でお悩みの方の中には、サプリメントを服用されている方もいらっしゃると思いますが、どのような成分を摂取したら良いかお悩み方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、不妊や習慣流産の治療で用いられているラクトフェリンについてお話をしたいと思います。

ラクトフェリンの役割

ラクトフェリンは、授乳開始時に分泌する最初の母乳である初乳(しょにゅう)に100mlあたり約600mgと高濃度に含まれており、分娩後3週以降でも約200mg含まれています。このラクトフェリンは、細菌やウイルスから赤ちゃんの体を守る感染防御機能などの役目があるため、新生児期に母乳を与えることはとても大切だと考えられています。

また、成人においても同様に感染防御作用があり、かつ内臓脂肪の蓄積を抑制するため、高血圧、高血糖、脂質異常などの生活習慣病の予防・改善にも効果あると期待されています。さらに、発がん予防や、腸内のビフィズス菌を増やして腸内細菌のバランスを整えることや関節炎・大腸炎の改善効果、歯周病や胃の中に存在するピロリ菌にも強い抗菌作用を示します。また、ラクトフェリンは鉄と結びつく性質があるため、鉄と一緒に摂ることで貧血を予防・改善できます。

卵子の質に影響するラクトフェリン

ラクトフェリンは人間の初乳以外でも、涙、唾液、血液に含まれており、生殖の領域でも子宮や膣の分泌物、子宮頸管粘液、羊水、精漿、卵胞液などに含まれる糖タンパク質です。このためラクトフェリンは、生殖器官で生態機能の維持、有益菌の保護・発育や細菌、ウイルス感染の防御などの役割を担っていると考えられており、これらの役割等について、色々な研究が行われています。

2007年に、矢内原らが卵胞液中のラクトフェリンと体外受精の成績を検討した研究があります(Yanaihara A, et al. Fertil Steril 87,(2), 279-282 2007)。35人の体外受精患者から70検体の卵胞液を集め、卵胞液中のラクトフェリン濃度を検討しています。この結果、媒精(卵子に精子をかける操作)後、受精した卵子を含んでいた卵胞液のラクトフェリン濃度は、受精しなかった卵子を含んでいた卵胞液に比較し、高濃度でした。また、受精発育した胚を形態で分類して検討すると、良好胚となった卵子を含んでいた卵胞液の方が、形態不良胚となった卵子を含んでいた卵胞液よりもラクトフェリン濃度は有意に高濃度でした。
これらの結果より、ラクトフェリンは卵子の質に影響を与えていると考えられます。

また、産科領域でも、流産や早産を繰り返している患者の中で抗生物質の投与ではなかなか治らない難治性の膣感染症、慢性羊水感染症の症例にラクトフェリンを投与することによって好成績を得たとの研究結果があります(Otsuki K. et al.Biochem CellBiol, 2017 ;95(1)331-33)。この研究では、経口と経膣的にラクトフェリンを1か月間投与した後の膣の細菌叢を検討しています。6症例の全てにおいて、有害な菌が減少して正常な細菌叢であるラクトバチルスが優位となっています。

不妊や流産の治療にも用いられるラクトフェリン

最近、不妊治療領域では、慢性子宮内膜炎が体外受精の成績に影響を及ぼしていることが注目されています。このため、子宮内膜の検査として子宮鏡用いて、子宮内膜の微小なポリープの有無や、内膜の浮腫があるかなどの子宮の状態を観察し、さらに子宮内膜組織の一部を生検し、組織学的にも検査しています。さらに、子宮内膜マイクロバイオーム検査(子宮の細菌環境が胚移植に最適な状態であるかどうかを判定する検査:正常細菌叢でみられるラクトバチルスが多いか?を検査する)や感染性慢性子宮内膜炎(ALICE)検査(分子遺伝学的方法を用いることで、微生物学的レベルで感染性慢性子宮内膜炎の原因となる特定の細菌検出する検査)があります。

これらの検査方法で、慢性子宮内膜炎が見つかると、抗生物質の投与が行われます。さらにもう一つの選択肢として、プロバイオティクスと称して、生殖器官の正常細菌叢(せいじょうさいきんそう)である乳酸菌を増やす方法があります。この治療方法は、まだエビデンスが高い方法とは言えないようですが、多くの施設で使用されています。この際に用いられるのがラクトフェリンです。このラクトフェリンを使用したパイロット的な研究があります(Kitaya K, et al. Arch Gynecol Obstet. 2022, 306(5); 1761-1769)。

この研究では習慣流産の症例で、子宮鏡検査の所見と子宮内膜の組織学検査で慢性子宮内膜炎と診断された症例に対し、ラクトフェリン700mgを28日間以上経口した後に凍結融解した胚を移植し、ラクトフェリン投与の効果を検討しています。ラクトフェリンを投与すると、ラクトバチルスが優位(90%以上)となる症例が増加し、かつ、ラクトバチルス率が改善した症例群は、率が改善しなかった症例群に比較し、高い生産率となったと報告しています。このように、体外から経口的、あるいは経膣的に投与されるラクトフェリンは、生殖器官のラクトバチルスを増加させ、感染防御や生殖器官の正常生体機能を向上させる可能性があります。

効果的なラクトフェリンの摂取方法について

最後にラクトフェリンについてまとめてみると、ラクトフェリンは生理的に生体でも産生されており、生体の健康的な機能維持に役立っており、免疫機能を高め、高血圧、高血糖、脂質異常などの生活習慣病の予防・改善にも効果あり、体外からラクトフェリンを摂取することで、さらにこれらの機能を高めることができます。

ただ、ラクトフェリンは熱や酸に弱いため、摂取するためには胃を通過する際に胃の酸性から守られ、腸で溶けて吸収されるように設計されたサプリメントとして服用する必要があります。ラクトフェリンは、体の健康増進の面からもサプリメントとして摂取することは効果が期待できると考えられますので、不妊または習慣流産で悩んでいる人は、積極的に摂取することを考えてみるのも一案だと思います。