今回は人口減少について考えてみましょう。皆さんもご存知のように、日本の出生数が毎年減少しており、一番最近の確定値データの2020年には、811,622人が出生し、1,439,856人が死亡しています。ですので、自然増減数はマイナス628,234人となります。今後もこの差は大きくなり、日本の人口は急速に減少すると考えられています。

人口減少によって起こること

国土交通省の白書では、この減少が国民に及ぼす影響についてより具体的に述べられています。

①生活関連サービスすなわち、小売・飲食・娯楽・医療機関等の施設数の減少
このため、地方においては、サービス業等の第3次産業は地方圏の雇用の6割以上を占めているため、こうしたサービス産業の撤退は地域の雇用機会の減少へとつながり、さらなる人口減少を招きかねないと懸念されています。

②税収減による行政サービス水準の低下
それまで受けられていた行政サービスが廃止又は有料化されるといった場合が生じることも考えられ、結果として生活利便性が低下することになります。さらに、高度経済成長期に建設された公共施設や道路・橋・上下水道といったインフラの老朽化問題への対応も必要となってきます。

③地域公共交通の撤退・縮小
地方の鉄道や路線バスにおいて、不採算路線からの撤退や運行回数の減少が予想され、これらの衰退が地域の生活に与える影響は大きいと考えられます。

④人口が減少するため空き家が増加
地域の経済・産業活動の縮小や後継者不足等によって空き店舗、工場跡地、耕作放棄地等が増加します。このため、地域の景観の悪化、治安の悪化、倒壊や火災発生といった防災上の問題等が発生し、地域の魅力低下につながってしまいます。

⑤地域のコミュニティの機能が低下
町内会や自治会といった住民組織の担い手が不足し共助機能が低下し、地域住民によって構成される消防団の団員数の減少による地域の防災力を低下、また、児童・生徒数の減少が進み、学級数の減少、クラスの少人数化、学校の統廃合という事態も起こります。こうした若年層の減少は、地域の歴史や伝統文化の継承を困難にし、地域の祭りのような伝統行事が継続できなくなるおそれがあり、住民の地域活動が縮小することによって、住民同士の交流の機会が減少し、地域のにぎわいや地域への愛着が失われていく可能性があります。

地方で始まっている人口減少の様々な影響は、このまま人口減少が進めば大都市圏でもいずれ顕在化する問題です。人口減少を漠然とした危機意識ではなく、自らが居住する地域でも起こり得る身近な問題として認識を共有することが重要と考えます。そのうえで、地域全体として人口減少がもたらす問題に立ち向かっていく必要があると思われます。

合計特殊出生率からみる人口減少

人口減少を実数で考える場合以外に、合計特殊出生率という指標を用いて考える場合もあります。厚生労働省のホームページの説明では、合計特殊出生率とは、「15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの」で、「期間」合計特殊出生率、「コーホート」合計特殊出生率の2つの種類があり、一人の女性がその年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子どもの数に相当します。

「期間」合計特殊出生率は、ある期間(1年間)の出生状況に着目したもので、その年における各年齢(15~49歳)の女性の出生率を合計したものです。女性人口の年齢構成の違いを除いた「その年の出生率」であり、年次比較、国際比較、地域比較に用いられています。また、コーホート合計特殊出生率はその世代が50歳に到達するまで得られないため、それに相当するものとして期間合計特殊出生率が一般に用いられています。 

日本の合計特殊出生率は1950年3.65でありましたが、以降低下傾向にあり、第2次ベビーブームに再度上昇し1967年に2.23なりますが、以後低下にしています。1974年には人口置換水準である2.07を割っています。人口は人の社会移動にも影響されますが、出生数の恒常的減少により、日本の人口が減る原因が確立しました。日本の人口は2004年12月にピークを迎え12,784万人となり、以後減少に転じています。2021年の合計特殊出生率は1.30となって、前年の1.33よりもさらに0.03減少し、少子化に拍車がかかっています。

コロナ禍における出生率の国際比較と要因分析

2021年の出生率は、初めて新型コロナの流行の影響を受けた年の妊娠出産であったため、2020年に比較し下がるのは当然のように思われます。世界でもコロナが猛威を振るっていたので、世界の各国で同様の傾向がみられると思っていたのですが、実際調べてみるとそうではありませんでした。日本、韓国は2020年に比較し、2021年の合計特殊出生率は低下しましたが、フィンランド、英国、米国、スウェーデン、フランスなどの国では、同様にコロナの影響を受けたにも関わらず上昇していました。

これの原因を解析した北爪匡ら(出生率反転、波乗れぬ日本 先進国の8割上昇、日経新聞社、「チャートは語る」https://www.nikkei.com/article/)によると、これらの差は各国のジェンダーギャップ指数に相関する説明しています。ジェンダー指数は経済、政治、教育、健康の4分野のデータに関する統計データから算出する指標ですが、これら欧米各国はこの指数の上位にあります。日本は教育関連のデータ指数は1位ですが、それ以外が悪く、総合指数では146か国中116位となっています。

これは推測ですが、コロナ禍でテレワークがすすみ、男性が家にいる時間が増えたのだと思います。欧米各国では、すでに家庭での家事育児の仕事の男女の分担が平等となっている家庭が多いので、男性が家にいる時間が増えることで家事育児要員が一人増える状況になることになると思いますが、日本では、まだまだ家事育児の男女平等が進んでおらず、男性が家にいることでかえって女性の家事負担が増えたのかもしれません。

少子化の解消に向けて

今年は男性の育児休業取得促進を目的として、子どもが誕生した直後の8週間以内に最大4週間の休みが取得できる「出生時育児休業」の法律が施行されました。共働きが主流の現在においては、これを手始めとして男性自らが育児家事に参加することが当たり前であると考えるように意識改革することが大切であり、また、社会全体が男性の家事育児参加をサポートしていく制度を確立していくことも大切だと思われます。さらに現在、内閣府の全世代型社会保障構築会議が検討を進めている社会制度改革案が実りあるものになっていくことが、人口減少を食い止める道筋であると期待しています。