プレコンセプションケアとは、妊娠前に健康管理を行うことによって、妊娠出産をより安全にしようとする取り組みであり、はじめて始まったのは米国でした。米国では、2000年代に「出産年齢の高齢化」、「未婚での出産増加」、「意図しない妊娠の増加」や「早産発生率の増加」が顕著となり、社会問題となっていました。

この状況を改善するために、CDC(疾病予防管理センター)は2006年 “プレコンセプションヘルス”と “プレコンセプション・ヘルスケア”の概念を提唱し、妊娠出産期の健康管理を促しました。その後、2013年にはWHOがコンセンサスミーティングを開き、世界中で特に生殖年齢期に蔓延している種々の問題;「栄養状態」、「ワクチンで予防可能な疾患」、「遺伝子の状態」、「環境衛生」、「不妊症と不育症」、「女性器切除」、「早期の望まない妊娠と間隔が短い妊娠」、「性感染症」、「HIV」、「対人 暴力」、「メンタルヘルス」、「薬物(精神作用物質」の使用」、「タバコの使用」にも焦点を当て、これらの項目を健康管理の項目に追加し、“プレコンセプションケア”として提唱しました。各国がどの項目を強調して取り組むかは、各国の事情によって少しずつ異なると思います。

日本におけるプレコンセプションケアの推進

また、日本でも近年、出産の高齢化が進み、妊娠に関わる障害が増加してきたため、“プレコンセプションケア”の概念を導入し、男女ともに性や妊娠に関する正しい知識を身に付け、思春期から生涯にわたって健康管理を行うよう促す取組みを構築しようとしています。

令和3年2月9日閣議決定された成育基本方針の中に、成育過程にある者等に対する保健に関しての(1)総論の中に、「安心・安全で健やかな妊娠・出産、産後の健康管理を支援するため、プレコンセプションケアの実施などの支援を求める者や、支援が必要と認められる成育過程にある者等に対して適切に支援を実施するなど、需要に適確に対応した切れ目のない支援体制を構築する」、(5)生涯にわたる保健施策の中に、「男女を問わず、相談支援や健診等を通じ、将来の妊娠のための健康管理に関する情報提供を推進するなど、プレコンセプションケアに関する体制整備を図る。特に、若年女性の痩せは骨量減少、低出生体重児出産のリスク等との関連があることを踏まえ、妊娠前からの望ましい食生活の実践等、適切な健康管理に向けて、各種指針等により普及啓発を行う。」と「プレコンセプションケア」という文言を記載して、この思春期から生涯にわたって健康管理を促進しようとしています。

プレコンセプションケアは妊娠・出産だけでなく将来の健康維持にも

晩産化傾向にある日本にとっては、プレコンセプションケアは、妊娠・出産を安心・安全で健やかにするとともに、児の健康増進にも役立ちます。さらに、産後においても健康を推進するとても大切な健康管理の取り組みであると言えます。20代、30代においては、企業検診による健康管理がありますが、プレコンセプションケアは思春期に始まり、女性だけではなく男性も含めての健康管理の取り組みであり、特徴的なことは妊孕性を含めた健康管理であることです。さらに、この年代に自ら健康を管理・維持する習慣が身につくと、生涯にわたって、健康を維持することができるようになります。高齢化が進む現在社会においては、高齢まで健康を維持し、楽しく仕事や余暇を充実させることができる可能性を高めることができます。是非このプレコンセプションケアを、ご自分の健康管理に役立てていただければと思います。

東京都の取り組み、AMH検査が無料で受けられるゼミも

一方、東京都では、若い世代がプレコンセプションケアに興味・関心を持ち取り組むきっかけとなるよう、2023年8月より「TOKYOプレコンゼミ」を随時開催しています。詳しくは東京都のホームページ
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/shussan/preconception.html をみてください。
2023年12月までにすでに6回開催されており、来年も月1回程度、都内各所にて開催予定(会場とオンラインによるハイブリッド開催)です。この講座内容は、(1)未来の家族を考えたときに知っておきたい生活習慣、知っておきたい検査値(自分が持っている卵子の数が推定できるAMH検査、風しん抗体検査)、妊娠成立に関する知識、(2)妊娠・出産前のヘルスチェック支援のご案内です。この講座を受けることができる方は、妊娠・出産をこれから考える、都内在住の18~39歳(パートナーの有無は問いません。)です。

このゼミを受講すると、協力医療機関でAMH検査を無料で受けることできます。ただし、検査結果について国立成育医療研究センターの医師から助言・相談を受け、終了後に都のアンケートに回答することが求められます。また、検査日における対象者の年齢が18歳以上40歳未満であることが必要です。また、ゼミでは、無料で風しん抗体検査・予防接種を受けられる助成制度についても案内しています。無料で受けられる点はとても良いのですが、忙しい人にとって、AMHの検査のために3回(ゼミ、AMH採血、検査結果の助言・相談)に渡って時間を割くのは大変かもしれません。

 AMH検査や風しん抗体検査・予防接種は、プレコンセプションケアの健康管理の重要な項目の一つなっています。これらの検査や予防接種をきっかけに、体の健康増進を図っていただければ幸いです。