皆さんは、仕事などで忙しくなると、ストレスを感じることも多々あるかと思います。妊娠中の場合は胎児がお腹におり、大きく成長していくことによって、さらに身体的にも、精神的にもストレスが増加します。しかし、妊娠中のストレスは胎児にさまざまな影響を及ぼす可能性があることが知られています。

なぜストレスを受けると早産、低出生体重児が増加するのか

一般的には、日常生活の中で一時的に感じるストレスであれば、赤ちゃんへの影響もそれほど大きくありません。しかし、一時的なものでも大きなショックや慢性的なストレスを受けると、赤ちゃんへの影響は大きくなると考えられています。
ストレスを受けると交感神経優位となり、血管が収縮します。ストレスが長期間に及ぶと、慢性的な子宮収縮や子宮への血流悪化を起こして胎児が栄養不足となり、胎児の発育が不良となります。その結果、胎児発育不全がおこり、早産や低出生体重児の確率が高くなると言われています。また、妊娠12~22週ごろであっても、流産する割合が増加すると言われています。

さらに、母体が慢性的なストレスを受けると、「コルチゾール」と呼ばれる副腎皮質ホルモンが母体で多く分泌され、胎盤を通過して胎児に届きます。この結果、神経発達に影響を与え、生まれてきた赤ちゃんが情緒不安定やうつ、ADHD(注意欠如多動症)になることもあるといわれています。

妊娠中にストレスを受けた場合の対処法

このように、妊娠中の長期間のストレスは胎児に重大な影響を及ぼすため、ストレスを早めに軽減する必要があります。そのためには、なるべくリラックスして、適度な運動や十分な睡眠を心がけることが大切です。また、何か心配なことがあれば、早めに担当医に相談することも重要となります。

最新報告!妊娠中に受けたストレスによる子どもへの影響

最近、妊娠中のストレスが胎児の出生後の思春期発来時期にも影響すると言う、興味深い研究論文がありましたのでご紹介します( Anne GAML-SØRENSEN, et al. Fertility and Sterility. DOI: https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2024.06.001)。この研究論文は、2024年6月1日に受理されたばかりで、雑誌掲載はまだ数か月先です。これまでにも、妊娠中のストレスが児の思春期発来時期に及ぼす影響について研究されてきました。その数は4報あり、内2報は「思春期発来時期が早まる」という結果で、他の2報は「影響が無い」という結果で、相反する結論でした。また、いずれの研究もサンプルサイズが小さいため、多数の症例を用いた研究が必要でした。
この研究では、妊娠中にストレスを受けた母親から生まれた児(男女)において、「思春期発来時期が変異しているか」について検討され、かつ、「子供の体格指数(BMI)」や「子供の発育環境の心理社会的ストレスによる影響を受けるか」についても検討しています。

対象となった症例は、デンマーク国立出生コホート(DNBC)に登録された症例で、2つの種類のデータを結合しています。
1つ目は主に母親のデータで、1996年から2002年に妊娠された症例から約92,000人を抽出しています。妊婦は妊娠16週と32週にコンピューター支援電話インタビューを受けています。このシステムで、妊娠中の生活ストレス(life stress)と感情的苦痛(emotional distress)についても調査しています。また、児が出生後7歳と11歳の時点でフォローアップの質問を郵送しています。

2つ目のデータは、2000年から2003年に出生した22,439人の児です。ウェブを用いて、11歳から半年ごとに思春期全般にわたり思春期発来に関する質問に答えてもらっています。これらデータを用いて、「母親のストレス」と「思春期発来時期」との関連について比較検討しています。

ストレスや苦痛に関する質問内容は、評価の定まったスクリーニングツール(The Events Questionnaire, The SymptomChecklist, The General Health Questionnaire )に基づいて行われました。また、 思春期発来に関する調査は、11歳から思春期の全体にわたって半年ごとに測定されています。調査項目としては、タナー段階1-5(女子の乳房と陰毛の発達、男子の生殖器と陰毛の発達)、女子の初経、男子の声変わりと初めての射精、男女両方のにきびと腋毛の発生の状況により評価されました。また、子供のBMIや子供の心理社会的ストレスによる影響も別のシステムで調査されています。
また、潜在的な交絡因子である、親の職業、最終学歴、結婚状態、初経、妊娠前BMI,出産年齢,分娩回数などを調整し、解析しています。

妊娠中のストレスによって子どもの思春期発来が早まる

最終的に、思春期コホートから抽出した合計14,702人の児(男女)の思春期発来時期とその母親の妊娠中のストレス・苦痛との関連を解析しています。
母親が妊娠中に高い生活ストレスを受けた場合、女性では 1.8ヶ月、男性では0.9ヶ月、思春期発来が早まりました。高い感情的苦痛を受けた母親の児では、女性では1.5ヶ月、男性では1.7ヶ月、思春期発来が早まりました。母親の生活ストレスと感情的苦痛の両方では、女性では 2.8ヶ月、男性では1.7ヶ月、思春期発来が早まりました。また、ストレス・苦痛は、容量依存的に思春期発来を早めました。さらに、これらの影響は、子供のBMIや子どもの心理社会的ストレスによる影響は受けませんでした。

この結果から、妊娠中のストレスは明らかに児の思春期発来に影響しますが、その変化は最大でも3か月ぐらい早まる程度です。このことから、皆さんが個々に思春期発来が早まることを心配されることはありません。しかし、もしかすると、思春期が早まることによって長期間の健康管理といった観点からすると、集団レベルの現状問題に直結するかもしれません。

いずれにしても、妊娠中のストレスは胎児発育影響しますので、長期間のストレスは避けるようにしてください。