1more baby 応援団の読書者のみなさんは、その名の通り、二人目を持つことに関心が高いと思います。もちろん、一人目を持つ子ことに悩んでいる方にも読んでいただきたいと思っています。今回は少し趣を変えて、日本の生殖補助医療(ART)の現状についてお話しましょう。

私はこの話題をほぼ毎年、新しい結果が公表されるときに、いろいろなところで解説しています。今年も日本産科婦人科学会雑誌11月号に、2017年の生殖補助医療の関する記事が掲載されたので、皆さんにお話したいと思います。
もちろん、一般不妊治療や高度生殖医療である生殖補助医療によって妊娠するよりは、自然に妊娠されるのがベストですが、頑張ってみてもなかなか妊娠しない時は、一般不妊治療や生殖補助医療の助けを借りることも大切と思いますので、日本の生殖補助医療の現状を知っていただくことは、決して損ではありません。

日本全体の出生児の16.2人に一人は生殖補助医療により妊娠出生

2017年の治療数は前年よりも420増え448,210となり、この治療が開始されて以来年々増加し最高の治療数となりました。それ以前の9年間が前年に比較し毎年約3万件増加していたのに比べると微増です(図1)。

図1

しかし、ここ数年は、そろそろ、年間の総生殖補助医療治療数は減少に転じるのでは、と推測されていました。この原因は①第二次ベビーブームで出生した人のピークが46歳を超え、いわゆる生殖年齢人口が急速に減少し始めたこと、②特定不妊治療助成制度の年齢制限43歳未満が実施され、この改訂された制度の移行期が終わり、完全実施となったこと、③妊娠適齢期の知識が広まり始めたことにより妊娠を考える方が少しずつ若い方に移りつつあることが考えられます。③に関しては1more baby 応援団の活動も寄与していると考えています。

今後、生殖補助医療の治療数は減少に転じることが予想されますが、この要因として先に挙げた3つの要因のほかに、働き方改革が十分成果が上がることが影響すると推測しています。特に男性の職場や家庭での働き方が変わり、家庭の仕事のために職場を休みやすくなり、かつ、家庭の仕事も男女平等に分担される社会が形成されることにより、若い時期に家庭を持つ環境が整い、自然妊娠される人が増えると予想されます。

 図2は、生殖補助医療の出生児数の年次変化です。

図2

毎年増加の一途をたどり、2017年の治療では56,617人が出生し日本全体の出生児の16.2人に一人は生殖補助医療により妊娠出生した児となります。実に多くの方が妊娠するために、生殖補助医療を頼っていることがわかります。特にこのグラフでわかるように、2008年以降、凍結融解胚移植で妊娠出産した児が多い(約85%)ことが日本の特徴です。これは2008年から、胚移植の数を原則一個に制限したことが影響しているものと考えています。

図3をみてください。このグラフは毎年の生殖補助医療で出生した児が日本全体の出生児に占める割合を推計しグラフにしたものです。

図3

ご覧のように、毎年上昇し続けています。今後も生殖補助医療で出生した児の割合が増えることが予想されますが、私としては、また皆さんもそのように考えていらっしゃると思いますが、できれば自然妊娠できるように若い時期に妊娠をするライプフランを計画していただけたらと思います。

図4は2017年ART治療の年齢別成績結果です。

図4

毎年、このグラフを作成していますが、その数値は毎年ほとんど同じです。また、分母と分子の違いにより数値が異なるので、分母と分子が何であるか、よく注意してみてください。
妊娠率・生産率は、年齢とともに低下します。おおよそ32歳ぐらいまでは一定で、それより高齢になると徐々に低下し、36歳を過ぎると下降が顕著になります。また、流産率も、32歳ぐらいまでは一定であり、それより高齢になると徐々に上昇し、36歳より顕著に上昇しています。さらに、45歳での生殖補助医療の治療開始当たりの生産率は1%を割ります。
ですので、生殖補助医療を受ける必要がでてきても、32歳ぐらいまでに治療が受けられるライフプランを立てるほうが、より効果的に治療を受けることができるといえます。
また、この年齢因子は全員に降りかかる不妊因子ですが、これ以外にも個人は個人特有の不妊因子を持つ場合もあるので、それを含めてご自分のライフプランを考えておくことが大切だと思います。

45歳での生殖補助医療の治療開始当たりの生産率は1%を割るのに、その年齢の母親から生まれた総ての児に占める生殖補助医療により出生した児の割合はかなり多い。

図5は2017年の各年齢群における日本全体の出生児に対する生殖補助医療で出生した児が占める割合の推計値です。

図5

25歳から29歳の母親から出生した児のうち、生殖補助医療で出生した児の割合が1.0%であり、この年齢では妊娠を生殖補助医療に頼る率はかなり低率であることがわかります。
しかし年齢が高くなると生殖補助医療で出生した児の割合が高くなり45歳から49歳の群では39.7%となっており、高齢のお母さんでは、生殖補助医療で治療し妊娠・出生した児が多くいることがわかります。
この数値には皆さんも驚いたと思います。
図4でお示ししたように、45歳での生殖補助医療の治療開始当たりの生産率は1%を割るのに、実際に生まれている児においては、生殖補助医療で出生した児の割合は1/3以上となっているのですから。
すなわち、年齢が高くなると、生殖補助医療1回あたりの妊娠率は下がり、治療してもなかなか挙児を望めない確率になるのですが、それでも、高齢な方が児を持つための方法のうち、確率の高い方法は生殖補助医療であるということになるのかもしれません。

 1 more baby 応援団の読者の多くは二人目、三人目を考えておられるのと思います。
日本の母親の平均第一子出産年齢の30.7歳を考えると、二人目、三人目目の時はさらに年齢が高齢化しています。
ですが、今回日本の生殖補助医療のお話ししたことからわかるように、その年齢では、年齢による妊孕力の低下が表れ始めており、不妊治療をしても、妊娠率が低下してきています。

今回の情報も含めて、なるべく若い時期から、ご自分の希望する子どもの数に沿ったライフプランに役立てていただけたら幸いです。