不妊治療をしている私にとって、年の瀬が押し迫ると気になるのが、今年の出生数や生殖補助医療の現状です。不妊治療が国の少子化対策に大いに寄与できるとは思いませんが、子どもを持ちたいと望んでいる方に一人でも多く、挙児が叶うようにと思って治療しています。
一方、一人でも多くの方が、ご自分の妊孕力が在るうちに、不妊治療をせずに自然に妊娠されるよう願っており、このコラムを通じていろいろな情報を発信してきています。

減少を続ける日本の人口。新型コロナウイルスの影響は?

日本の出生児数は毎年減る一方ですが、2019年の出生数の確定値は2020年9月に発表されましたが、865,239人でした。2019年出生数の推計値が発表されたのは、2019年12月24日で、その出生数は864,000人でした。確定値との差は1200ほどであり、かなり正確に推計ができていると思います。

2020年の推計値も12月に発表される予定でしたが、発表がキャンセルされました。この理由として、昨年のはじめより新型コロナウイルスの感染が起こり、例年と異なり不確定要素が多く、精度の高い数値を出せないことによるそうです。

2020年の1~10月までの出生数は、速報値によると733,907人で、前年同期の751,141人と比べて約1万7千人減少しています。2020年11月と12月はさらに新型コロナの影響を強く受ける可能性があるため、さらに減少するかもしれません。若い世代の女性が年々減少していることに加え、新型コロナウイルスの影響が続きそうですね。

2021年の出生数は、年始より新型コロナウイルスの影響も受けた数値となるため、大幅な減少となる可能性があります。2020年の1月から10月までの妊娠届数は前年同期までの値と比較すると-5.1%です。よって、2021年の出生数は、2020年より大幅に減少することが予想されます。このように出生に関わる数値を見てくると、日本の人口が急速に減少していくように思えて、とても心配になります。

出生数の減少に反比例して増え続ける体外受精の件数

一方、体外受精などの生殖補助医療の現状というと、2020年10月に発表された2018年の治療成績データが一番新しく、このデータから読み解くことができます。治療数は年々増加し、2018年の治療数は454,893件で昨年よりも若干増えました。

また、この治療により、56,979人が出生しました。この出生数も年々増加しています。
この結果、日本全体の出生数に占める生殖補助医療による出生児数の割合も年々増加し、2018年の治療では、15.2人に一人、6.6%となっています。
図1のように最近10年の上昇率は急こう配となっています。

この現象は、日本の晩産化の影響と考えられます。高齢になって生むことになると、妊娠できず不妊治療を受ける方が増加し、必然的に不妊治療で出生する子どもが増えます。特に、体外受精などの高度不妊治療は不妊治療の中でも最終手段であり、この最終手段に頼り妊娠出産する結果といえます。

不妊治療で体外受精を選ぶ時の理由とは

我々が最終手段として、体外受精を選ぶ理由があります。一般に体外受精をしても、年齢が高いと治療あたりの妊娠出産率は下がると言われています。しかし、図2をみてください。

図2は、日本で生れた赤ちゃんのうち、体外受精で生まれた赤ちゃんの割合を、お母さんの年齢別に示しています。
これによると、お母さんの年齢が若い場合、体外受精で生まれた赤ちゃんの割合は少なくなっています。例えば、25歳から29歳のお母さんの場合、1%の方が体外受精で赤ちゃんを授かっています。

しかし、40歳から44歳のお母さんから生まれた赤ちゃんでは、その26.2%が体外受精の治療によって生まれています。。この結果からも、高齢で妊娠を望む方の治療では、体外受精の治療あたりの妊娠率や出生率は低くなりますが、年齢が若い方に比べて多くのケースでこの治療を選択していることが分かると思います。

生殖補助医療の年齢別の成績について

最後に図3をみてください。これは、日本産科婦人科学会が毎年作成しホームページに公開している生殖補助医療の年齢別成績です。

先ほども述べたように、年齢別成績では、治療開始あたりの妊娠率や出生率は患者の年齢が高くなると低下します。
32歳ぐらいまでは治療あたりの出生率は20%を越えていますが、それより高齢になると徐々に低下し、36歳以上では急速に低下します。

このことからもわかるように、最後の砦の治療である体外受精をしても、32歳を超えると妊娠しづらくなる方が出てくるということになります。
ですので、体外受精の治療を受けることを考慮したとしても、32歳までに受けたほうが年齢の影響を受けにくいということになります。

ライフプランを作る時に考えてほしいこと

これらの結果から、私が皆さんに提案することは、できれば自然妊娠できるように若いうちに出産するためのライフプランを考えてほしいということです。
そして、何人子どもが欲しいと考えていても、生み終える年齢は32歳とするのがベストであると思っています。
もしも、不幸にして自然妊娠できずに体外受精に頼ることになったとしても、この年齢までであれば、加齢の影響を受けずにこの治療を受けることができる可能性が高いからです。

ライプフランは人それぞれであり、自分独自のものです。ぜひ、皆さんの希望に沿ったプランを立ててください。でも、子どもを希望するのであれば、そのプランが皆さんが親から授かった妊娠や出産の能力を最大限に生かせるようなライフプランであってほしいと願っています。