2022年4月に改定された新たな診療報酬では、不妊治療が保険適用されることになりました。賛否両論もあるその具体的な内容については、こちらの齊藤英和氏の記事や厚生労働省のホームページを参照いただければと思います。いずれにしても言えるのは、これまで以上に不妊治療への注目度が高まることではないでしょうか。

そこで今回は、第一子、第二子ともに不妊治療の末に妊娠・出産した溝端浩司さん・朱音さん夫婦(仮名)の経験談をご紹介していきます。第一子を体外受精で授かるまで5年以上の歳月がかかった溝端夫妻は、その約2年後に凍結保存していた受精卵で第二子の妊娠・出産をしています。

前半では第一子における不妊治療のエピソードを中心に聞いていきました。後半となる本稿では、凍結保存していた受精卵を使った第二子における不妊治療のお話を中心に聞いていきます。

(動画のご紹介)
妊活【密着取材】第4弾! 痛い?怖い?不妊治療や卵子凍結保存で行う『採卵手術』に同行取材してみた!

男性に不妊の原因があるとわかったときに夫婦が感じたこと

最初の産婦人科医院ではタイミング法を試みるもうまくいかず、その後に訪れた別の不妊治療をメインに行っている医院で「精子の数が少ない」という男性不妊を指摘された溝端夫婦。では、そのときどのような思いを抱いていたのでしょうか。

「実は、男性不妊の治療を受けるという選択肢も提示されました。けれども、同時に先生から男性不妊は原因不明で解決しないことも多いという説明を受けました。なぜ精子がこんなに少ないのかという原因を突き止めようとする時間があったら、一刻も早く体外受精をするのはどうでしょうか、というような感じでした」(朱音さん)

「最初に先生から精子が少ないと言われたときは、〝まさか〟という感じで驚きました。別に体に不調があったわけでもないですし、普通だと思っていたので」(浩司さん)

しかし、実際に調べたうえで、数字で示されたことはプラスに働いたと考えています。浩司さんは続けます。

「もちろん『なんでこうなったんだろうか』って少しは落ち込んだんですけど、それよりも『これが現実なんだから、その中でできることはなんだろうか』というところに思いは移っていきました。おそらく精子の数が少ないことがわからないままだったら、ずっと同じことを繰り返していただろうし、結果的に子どもができなかったかもしれないですし。いずれにしても、割とすぐに切り替えはできました。前向きになるしかないって」

常に2人で話し合い、納得しながら進めてきた

浩司さんは男性不妊がわかる以前から非常に協力的だったそうです。最初に産婦人科医院に行ったときから仕事の休みを病院の予約に合わせて取るなど、常に朱音さんに付き添ってきました。

「1人ではできないことだから、もうずっと2人で一緒にやってきました。私の周囲には不妊治療に際して旦那さんの理解が得られず、お金もかかるので揉めているという話も聞きますが、うちの場合は本当にすごく協力的なのでなんで私ばかりみたいなことは一切思ったことがないです」(朱音さん)

浩司さん自身も、できる限りのことをしてきた自負があるため、自分の精子の数が原因だと聞いたあとでも、人工授精や体外受精を進めていくにあたって後ろめたい気持ちになることはなかったと言います。

「結局、ずっと2人で話し合いながら進めてきたし、先生の話も2人で聞いて、2人で納得しながら進めてきたので」(浩司さん)

ちなみに初期の段階で精子を調べるという話にならなかったことに関しては、「仕方はない」と感じており、夫婦の間でのわだかまりはないようです。

「もちろん精子の数が少ないと言われて、色々と試みた部分はあります。たとえば人工授精のために精子を運ぶ際に工夫を凝らしてみたり、男性不妊に効くという漢方薬を処方してもらって飲んでみたり。漢方は1年くらい続けましたが、毎月10万円くらいかかっていたので、(医療費が上がる)体外受精に切り替えるときにやめましたが」

1人目の子育てをしてみたら、もう1人欲しくなった

第一子を無事に産むことができ、家族3人での生活が始まると、当初は「1人で十分」と感じたと言います。しかし、第一子が生後10ヶ月を過ぎたあたりで、「もう1人」と意見が変わっていったそうです。

「1人を産むのにこんなに時間がかかって、子どもってそんなに簡単にはできないことがわかって、それならもう1人で十分と思っていたんです。けど、ちょうどお正月に〝今年の目標〟について夫婦で話していたときに、『2人目がほしい』って言いました。これは少し前から漠然と頭にあったことでした。またこの可愛い期間をもう1回あってもいいのかなって思っていたんです」(浩司さん)

「それまで夫は『いやあ、俺はもう1人で十分かな』って言い続けてきたので、けっこうその言葉に驚いたんですが、おそらくうちの場合は、子育てをすごく共有してきたし、生まれる前からも子育てに関する色んな認識を合わせていたことが大きかったんじゃないかと。もし私が1人で子育てをしていたら、夫はそんな感覚にはならなかったんじゃないかと思います。同じモチベーションというか、同じような温度感で『2人目にも臨んでみよう』ってなったのは、子育ては関われば関わるほど大変だけれども、同時にかわいいと思えてきたからでしょうね」(朱音さん)

そうした2人目への思いが芽生えたのは、1人目のときに凍結保存していた受精卵(胚盤胞)があったことも関係していたのでしょうか。

「それがあるからとかないからとかは関係なかったですね。ただ単純に2人目がほしいと思った。そのうえで、たまたま保存していた受精卵があったという感覚です」(浩司さん)

「たとえ採卵からだとしても、2人目のための体外受精には臨んでいたと思います。言い方はアレですけど、受精卵があったのはラッキーだなという感覚が近い。私たちが仲良くさせてもらっている夫婦は、何回採卵してもなかなか受精卵に至らなくて、やっとできた1個で1人目が生まれたんですね。そうなると、2人目がほしいなと思っても、やっぱり1人の子育てをしながら、あのきつい採卵を何度も経験するのかと思うと、二の足を踏んでしまうと言っていたので」(朱音さん)

凍結保存している受精卵に対する溝端夫婦のスタンス

凍結保存していた受精卵を使って第二子の出産に臨んだ溝端夫婦ですが、最初はタイミング法による自然妊娠が頭によぎったと言います。

「実は、2人目はできやすいって聞いていたので、次こそタイミング法でどうかなと思って病院に行き、2回くらい挑戦してみました。それと同時に、精子の検査などをもう一度やってもらったんですが、数字は変わっていなくて……。やっぱり凍結保存していた受精卵を戻すほかないかってすぐに切り替えました」(浩司さん)

「先生に『2人目はできやすいっていう話もありますけど』って聞いてみたんです。そうしたら『そんなエビデンスはありません。あくまで確率の問題で、それは1人目のときと変わっていない』と言われました。なんかきっぱりとそう言われることが、逆にありがたいなって思っています」(朱音さん)

中途半端に「大丈夫かもね」と言われていたら、揺らいでしまっていたかもしれないと当時を振り返る朱音さん。こう続けます。

「もちろん寄り添ってもらいたいという人もいるでしょうけど、私たちは結果が大事だった。『こんなに頑張ったけどダメだったね』では意味がないわけで。特に2人目のときには、すでにある程度の知識も経験もあったので、切り替えはより早かったと思います」(朱音さん)

結果、凍結保存していた2つの受精卵のうちの1つを使って、第二子を無事に妊娠・出産することができた溝端夫婦。実は、さらにもう1つの受精卵が残っていると言いますが、現段階では第3子について、「こうしよう」という方針は定めていないそうです。

「そもそも最初のときにも、『絶対に2人目がほしいから保存しておく』というような強いモチベーションがあったわけではありませんでした。病院から『どうしますか?』って聞かれて、せっかくお金をかけて採卵できて、受精もしたのだから、とりあえず凍結しておこうかってくらいのラフな感じでした。そうした気持ちは今も割と変わっていなくて、2人目が成長してきた段階で『もう1人』と思えたら、臨んでみようかなという感じです」(朱音さん)

※本インタビュー記事は、不妊治療を経験した人の気持ちや夫婦の関係性を紹介するものです。記事内には不妊治療の内容も出てきますが、インタビュー対象者の気持ちや状況をより詳しく表すためであり、その方法を推奨したり、是非を問うものではありません。不妊治療の内容についてお知りになりたい方は、専門医にご相談ください。