子宮内膜症は不妊症の主な原因の一つとしてよく知られています。50年ぐらい前は、不妊原因に占める子宮内膜症の割合は5%ぐらいと言われていましたが、今では約25%と高い割合になっています。このように、不妊の原因として子宮内膜症が増加してきた理由の一つとして、妊娠する年齢の高齢化が挙げられます。近年、第一子出産年齢が男女ともに高齢化し、この40年間で約5歳、高齢化しました。

子宮内膜症の原因

子宮内膜症の罹患率が高齢化するほど高くなる理由は、子宮内膜症の発生機序によるものと言われていました。すなわち、月経血の逆流です。月経血は子宮から膣を通って体外に排出されるのが主なルートですが、一部が卵管を通って腹腔内に到達すると言われています。この月経血に含まれる子宮内膜の細胞が、子宮の周りの卵巣や腹膜に接着増殖し、子宮内膜症が起こると考えられてきたらからです。よって、初経からの月経回数が多いほど、月経血の逆流回数が多くなるわけですから、年齢が高くなるほど子宮内膜症に罹患する確率が増加するという事はうなずけます。

 また、若いころから妊娠を繰り返すと、妊娠中は月経が来ないため、月経回数が減ります。さらに、妊娠中のホルモンの上昇が、なりかけている子宮内膜症を治療すると言われています。昔は若いころに妊娠し、また出生児の数も多かったため、このことが子宮内膜症の発生を抑制していました。

子宮内膜症の治療

子宮内膜症の治療はホルモン療法が主流となっており、ジエノゲスト(黄体ホルモン系薬剤)は新しい子宮内膜症治療薬です。この薬剤は、黄体ホルモンの受容体に選択的に作用し、子宮内膜の増殖を抑制します。他のホルモン療法(偽閉経療法)と比べ、作用が穏やかで比較的副作用が少なく、長期使用においても有効性と安全性が示されています。これらの治療法以外と言えば、手術による病巣除去や体外受精などの治療法が、治療目的に応じて選択されています。

最新の研究で分かった新たな原因

さて最近、この子宮内膜症の発生原因が感染症であるという研究が発表されました( Muraoka A, et al. Sci Transl Med. 2023 Jun 14;15(700):eadd1531. doi: 10.1126/scitranslmed.add1531. Epub 2023 Jun 14. )。これは、名古屋大学産科婦人科学教室などの先生方が協力して研究し、作成された論文です。この研究では、フソバクテリウムという細菌が、子宮内膜症の発症を促進する原因菌ではないかと探求しています。最初に、正常な子宮内膜の線維芽細胞と子宮内膜症病変部の繊維芽細胞の遺伝子発現を解析した結果、子宮内膜症の線維芽細胞にはトランスジェリンというたんぱく質が高濃度に存在することを見つけました。このトランスジェリンは、細菌感染の際にマクロファージから分泌される物質によって発現が誘導されることがわかっています。

そこで、どのような細菌が子宮内膜に感染するのかについて、検査しました。その結果、子宮内膜症の患者の子宮内には、フソバクテリウムが有意に多く存在することが判明しました。フソバクテリウムは、口腔内の常在菌で歯周炎の原因菌としても知られており、また大腸では、大腸がんとの関連も指摘されている細菌です。子宮内膜症の患者の子宮内膜で繊維芽細胞にトランスジェリンが強く発現しているのは、子宮内にフソバクテリウムが感染し、ここにマクロファージが浸潤し、この細胞が出すTGFβが、子宮内膜線維芽細胞にトランスジェリンというタンパクを高濃度に発現させます。その結果、このトランスジェリンが線維芽細胞の性格を変化させて、子宮内膜症の発症に重要な変化である増殖能、遊走能、そして腹膜の細胞に接着する接着能を亢進させるそうです。

 さらに、マウスの実験でフソバクテリウムを感染させると、子宮内膜症病変が増加し、これに対し抗生剤を使用すると、改善することも分かりました。また、細胞培養実験でフソバクテリウムを感染させると、免疫細胞がTGFβを分泌するようになり、このTGFβが培養されている線維芽細胞にトランスジェリンを強く発現させたそうです。

 まだまだ多くの研究を重ねなければなりませんが、不妊症の大きな原因の一つである子宮内膜症の治療法の選択肢として、抗生剤の投与が採用されるようになる可能性が高いと思います。現在までのホルモン療法や手術療法では再発率が高いのですが、抗生剤療法を併用することによって、または、抗生剤療法単独で子宮内膜症を治療することができるかもしれません。

 また、体外受精の治療の際にも、抗生剤を併用することにより、子宮内膜症病巣から分泌される様々なサイトカインを抑制することにより、卵子の質を改善したり、着床の場でも着床能を向上させる可能性もあると思います。

 現在、名古屋大学では、臨床研究として子宮内膜症患者に抗生剤を投与し、その有効性を検討しています。子宮内膜症は普段の生活においても、月経困難症や排便痛、性交痛など、多くの障害をもたらしています。一日でも早く、有効で再発することの無い治療法が確立できるといいですね。