前半の記事では、日本を含めた世界中で主流となっている硬膜外麻酔による無痛分娩の基本的な情報に加えて、そのメリットとデメリットについて説明しました。あわせて、無痛分娩がどんな人に向いていて、そして向いていないのかということもお伝えしました。

では、それらの内容を踏まえたうえで、どのような病院・施設を選ぶといいのでしょうか。本記事では、長年にわたって無痛分娩に携わってきた私なりの基準をお伝えしようと思います。

「産科医、麻酔科医、助産師のベクトルが同じ方向であること」が大切

おそらく多くの方が気になるのは、安全性ではないでしょうか。

前半の記事で詳述したように、硬膜外麻酔による無痛分娩のリスクは、産科的なものと麻酔そのものによるものの2つに大別されるわけですが、どちらにおいても安全性を高めるためには、産科医、麻酔科医、助産師のベクトルが同じ方向になっていることが重要です。

特に大きな施設では、産科医や麻酔科医、そして助産師が持つそれぞれの意見がバラバラになる傾向があります。大事なことは、安心安全な分娩をしようというゴールに向かって、その施設や病院に携わる全員が遠慮することなく、意見を出し合うことです。

施設や病院の運営に携わる人間がきちんと全体をマネジメントして、信頼関係の醸成を促さないといけません。

つまり妊婦さん側からすれば、産科医と麻酔科医と助産師が相互に信頼しあって施設全体がまとまっているのかどうかを見る必要があるでしょう。曖昧な表現になってしまいますが、そういう空気感があるかどうかが、安心して出産できることと深く関わっていると思います。

病院や施設のスタンスありきではなく、必要な知識を把握したうえで自分がどうしたいかを大切にする

もう少し具体的な話もしましょう。まず無痛分娩を選ぶかどうかの前に、知っておくべきなのは、自然分娩か計画分娩かの二択があるということです。

自然分娩はその言葉通り、自然に陣痛が起きてお産が進むこと。計画分娩は産む日を決めて、その日に人工的に陣痛を促して出産することです。

そして自然分娩のなかで無痛分娩をするかしないか、計画分娩のなかで無痛分娩をするかしないかということも考えます。

前者の自然分娩のなかで無痛分娩を選択する場合、オンデマンド無痛分娩という言い方をします。主にアメリカで採られている方式ですが、自然に産気づいてきたら麻酔を使って無痛分娩をする方法です。

後者の計画分娩のなかで無痛分娩を選択する場合、計画無痛分娩という言い方をします。日本ではオンデマンド無痛分娩が難しいので、こちらをやるケースが多いです。ただ、オンデマンドか計画かは麻酔科医の勤務体制によっても決まってきます。

いずれにしても、自然分娩(硬膜外麻酔 or 不使用)、計画分娩(硬膜外麻酔 or 不使用)と選択肢は4つあるわけです。ですが病院や施設によっては、これが二択であったり、三択であったりします。また、医学的適応による無痛分娩を取り扱ってない施設もあります。

つまり自分が選びたい分娩方法に対応していない病院や施設もあるということで、これは頭に入れておくべきでしょう。

ちなみに先ほど医学的適応という言葉が出てきましたが、一方で社会的適応によって計画分娩を希望するケースもあります。遠方に住んでいて、夫やすでに生まれている子どもなどの家族が立ち会いをすることを希望する場合などです。医学的適応には対応するけれど、社会的適応には対応しないということもあります。

病院や施設ありきで考えるのではなく、自分がどのように産みたいかということも大切にする必要があるのではないでしょうか。

無痛分娩は“ワンモアベイビー”の背中を押す側面も持っている

1人目が自然分娩で別の病院で産んだけれども、2人目は無痛分娩を希望するケースもあります。

そうした方々のお話を伺ってきたなかで、「無痛分娩ならばもうひとりを産んでもいい」という考え方を持っている方が、一定数いることがわかってきました。

すなわち、“ワンモアベイビー”という意味では、無痛分娩が資するところもあるということがいえると思います。
そうはいっても、実際には、医療がお産に関してできることは限られています。前編、後編にわたって無痛分娩について紹介してきましたが、やはり自然分娩に勝るものはありませんし、歴史をたどってみても、自然分娩のほうが圧倒的に多いのは事実です。

もちろん昔は母児の死亡率が今よりも非常に高かったのは、みなさんご存じのとおりで、およそ100年前から帝王切開が普通にできるようになって、飛躍的に人口が増えたという史実があります。それまでは、自然分娩ができなかった母児は命を落としていました。出産の歴史は人類の歴史と背中合わせで、いろんな技術が発展してきたからこそ、子どもを安全に産むことができるようになってきたといえます。

「長い人生の1ページである出産をどうしたいか」を主体的に考えてほしい

しかしながら、できることは限られているのも確かです。たとえばお産が始まれば、それを止めるのは簡単ではありません。出てこようとしている赤ちゃんを止めることはできません。

医者として、病院としてできることには限りがあるけれども、少しでも安全で安らかな出産を提供したいという想いで、当院では私をはじめ、みんなが日々の努力をしています。もちろんそれは当院に限った話ではありません。

その努力は実績やスタッフの雰囲気に直結すると、私は考えています。ですから、繰り返しになりますが、そうした病院や施設の空気感を感じていただきたいです。

出産は一生の間にそうあることではありません。長い人生のなかではわずかな1ページです。でも、その1ページをどのように過ごすかというのもまた、大事なことではないでしょうか。

ですから、受け身にならずに、積極的に自分で知識や情報を得たうえで、どんな出産をしたいかを主体的に考えるべきです。特に初産の場合にはよくわからないことも多いでしょう。だからこそ、自分で出産についてよく考え、主体性を持って産院選びをしていただきたいと思っています。