妊娠しても妊娠経過途中で流産されると、とても大きな心的ストレスを受けます。このことが何回も重なると、その心労はさらに大きくなります。

日本産科婦人科学会の産科婦人科用語集では、習慣流産(recurrent miscarriage )を3回以上連続する流産、すなわち不育症(recurrent pregnancy loss; RPL )を、妊娠は成立するが流死産を繰り返して生児を得られない状態と定義しています。

また、最近の報告では早期新生児死亡を含め、生児を得られない状態とする報告もあります。一方、欧州ヒト生殖医学会、米国生殖医学会、WHOは、不育症(RPL)を2回以上の流死産と定義しており、国によっても少しずつ定義が異なります。

流産の確率と4つの大きな原因について

妊娠したことがある人のうち約38%の方に1回以上の流産の経験があり、1回あたりの妊娠では15~18%の確率で流産が起こるとされています。また、不育症(RPL)の頻度は約5%、習慣流産は1.1%に起こるとされています。

不育症(RPL) の原因には4つの大きな原因あります。
それは抗リン脂質抗体症候群、子宮奇形、夫婦染色体構造異常、胎児染色体数異常です。

流産胎児染色体検査が行われる以前では、不育症(RPL)の原因の大半は原因不明とされてきました。しかし、流産胎児染色体検査がルーティーンに行われるようになってからは、流産胎児の染色体異常が不育症原因の大きな割合を占めることがわかってきました。

杉浦らの報告(※)ように、流産胎児染色体検査が行われた場合の不育症患者の異常原因の頻度としては、流産胎児の染色体異常が原因である率は41%と最大の原因となっています(図)。

原因① 抗リン脂質抗体症候群について

不育症の原因についてもう少し説明しましょう。
まず、抗リン脂質抗体症候群ですが、この原因は不育症の約10%にみられます(杉浦らの研究では9%)。
血液検査を行うと抗リン脂質抗体を有しており、これが血管内での異常な血液凝固を亢進させるために、いろいろな病気を引き起こします。

動脈血栓症をはじめ、子宮内胎児死亡・妊娠高血圧症候群、胎盤機能不全による早産・原因不明習慣流産などの妊娠合併症を引き起こします。

治療としては、妊娠中にアスピリンやヘパリンを投与して、血液が凝固しないように抗凝固療法を行います。ただ20~30%の患者では、この治療法に抵抗することが知られています。

原因② 子宮奇形について

第二番目は子宮奇形ですが、この原因は不育症の3~10%にみられます(杉浦らの研究では5%)。

また、流産せずに妊娠が継続しても、早産や骨盤位の原因にもなります。
検査方法としては、経腟超音波検査、子宮卵管造影検査、MRI,子宮鏡を組み合わせて診断します。

子宮奇形にもいろいろなタイプがありますが、中隔子宮に対しては子宮鏡下中隔切除術を行うと出産率を改善したとの報告もありますが、手術の効果がないという報告もあり、手術をすることの効果に関しては、まだまだ研究が必要です。

原因③ 夫婦染色構造異常について

第三番目に夫婦染色体構造異常ですが、この原因は不育症の約5%に認められます(杉浦らの研究では10%)。

染色体構造異常という言葉は耳慣れないかもしれません。
ヒトの染色体は46本です。構造異常の場合でも染色体数は46本なのですが、一つの染色体の一部が切れて別の染色体に付いている場合(転座)や、一つの染色体の一部が切れて、また同じ染色体に切れた部分が逆に付く状態(逆位)があります。

親に転座がある場合、親は遺伝子数としては正常なので、何の障害もないことが多いのですが、その受精卵は、親と同じように転座はあるが遺伝子数としては正常な受精卵ができる場合もあります。

しかし、切れて別の染色体に付いた“一部の染色体が多い受精卵”、または“その部分が少ない受精卵”ができることもあり、このような染色体が“一部多い受精卵”や“少ない受精卵”では発育を停止し、「妊娠しない」「流産する」「障害児が生まれる」といった現象がおこります。

日本では2006年からこれらの受精卵の診断(着床前染色体構造異常検査:PGT-SR)が行うことができるようになりました。

この方法を用いると、正常胚、または逆位はあるが遺伝子数は正常な胚を胚移植できるようになるので、胚移植当たりの流産率は減少し、生児獲得率は上昇します。

しかし、その夫婦当たりの生涯生児獲得率はこの検査をしてもしなくても変わらないと言われています。

原因④ 胎児染色体数異常について

最後は胎児染色体数異常ですが、杉浦らの報告では、この原因は、不育症の41%に認められ、不育症の最も多い原因となっています。

流産胎児の染色体検査をしないとこの原因はわからないため、流産胎児の染色体を検査しない施設から報告では、「原因不明」が不育症の一番多い原因として報告されてきました。

胎児染色体数異常の原因は、母体の加齢に伴う卵子の染色体の不分離であると考えられています。
体外受精の治療で、胚盤胞の細胞の一部を採取して、着床前染色体異数性を検査する方法(着床前染色体異数性検査:PGT-A)を用いれば、染色体数が正常な胚だけを胚移植を行うことができます。

この方法を用いると、染色体数が正常ではない胚の移植による流産を避けることができるので、胚移植当たりの妊娠率・生産率は上昇します。

しかし、この方法で患者夫婦当たりの正常胚が増えるわけではないので、この検査法を用いても生涯生産率は改善しないと言われています。

高齢者では、染色体異数性の胚が増加するため「妊娠しない」「流産する」ことが多く起こります。
PGT-Aを行うことで、正常胚を胚移植すると、妊娠すれば流産する可能性は低くなります。

しかし、この検査を行うことで、高齢な方ほど正常胚を一つも得ることができないケースが起こることがあります。また、不育症の方の場合、PGT-Aでは正常胚であっても、他にも不育症原因があり流産する可能性があります。
これらのことを、この検査を行う前に、よく理解しておくことも大切になります。

不育症に関していろいろな検査法・治療法が出てきました。
これらを受ける際には、その利点ばかりでなく、欠点もよく理解して検査・治療を受けることが大切です。

※名古屋市立大学院 医科学研究科 産科婦人科 杉浦真弓先生の研究発表